類体論を「計算できる理論」として理解する
類体論は、数体・局所体の有限アーベル拡大を、体そのものから作られる可換群で分類する理論である。 このレポートでは、円分体、二次体、局所体、イデール、ray class group、Hilbert 類体を、できるだけ具体計算から積み上げる。
0. 使い方とゴール
「類体論を理解する」とは、次の三つを同時にできるようになることである。
- 具体計算:与えられた素数・素イデアルが拡大で分解・惰性・分岐するか計算する。
- 構造理解:その分解が、イデアル類群、ray class group、イデール類群の元として制御されていると理解する。
- 定理運用:局所 reciprocity、大域 Artin reciprocity、存在定理を正確に使う。
商群、単元群、Galois 群
整数環、イデアル、類群
付値、完備化、Hensel
局所情報の大域的束ね方
Artin 写像、類体、conductor
Frobenius の規約
このノートでは、有限体上で \(x\mapsto x^q\) と作用する元を 算術 Frobenius と呼び、 Artin 記号 \(\Frob_\p\) も算術 Frobenius とする。文献によっては逆元を使うので、他書と比較するときは注意する。
1. 類体論の大目標
分類したい対象
数体 \(K\) に対して、有限アーベル拡大 \[ L/K,\qquad \Gal(L/K)\ \text{が可換} \] を、\(K\) 自身から作られる可換群で分類したい。最終的な形は \[ \boxed{\text{有限アーベル拡大 }L/K} \quad\Longleftrightarrow\quad \boxed{C_K=\A_K^\times/K^\times\text{ の有限指数開部分群}} \] である。
大域 Artin reciprocity の圧縮形
有限アーベル拡大 \(L/K\) に対し、大域 Artin 写像は同型 \[ \Art_{L/K}:C_K/N_{L/K}C_L\xrightarrow{\sim}\Gal(L/K) \] を与える。ここで \(C_K=\A_K^\times/K^\times\) はイデール類群である。 非分岐素イデアル \(\p\) に対応するイデール類は \[ \Art_{L/K}(\p)=\Frob_\p \] に送られる。したがって、類体論は「素イデアルの分解」を「可換群の元」に翻訳する理論である。
基本辞書
| 群側 | 体拡大側 | 意味 |
|---|---|---|
| \((\Z/m\Z)^\times\) | \(\Q(\zeta_m)/\Q\) | 有理数体の類体論の基本例 |
| \(\Cl_K\) | Hilbert 類体 \(H_K/K\) | 非主イデアルの障害を Galois 群に変換 |
| \(\Cl_\m(K)\) | ray class field \(K_\m/K\) | 分岐を許す素点と深さを指定 |
| \(K_v^\times\) | 局所アーベル拡大 | 局所類体論 |
| \(C_K\) | 大域アーベル拡大 | 全ての局所情報を束ねた分類 |
2. 準備 I:群・環・Galois 理論
商群の考え方
群 \(G\) と正規部分群 \(N\triangleleft G\) に対して、商群 \(G/N\) は「\(N\) の中の違いを無視した群」である。 類体論で現れる基本的な商は \[ C_K/N_{L/K}C_L,\qquad I_\m/P_{\m,1},\qquad K_v^\times/N_{L_w/K_v}L_w^\times \] であり、これらが Galois 群と同型になる。
例 2.1:\((\Z/8\Z)^\times\)
\[ (\Z/8\Z)^\times=\{1,3,5,7\}. \] 各非自明元の二乗は \(1\) なので \[ (\Z/8\Z)^\times\simeq C_2\times C_2. \] 一方、\(\zeta_8=e^{2\pi i/8}\) に対して \[ \Gal(\Q(\zeta_8)/\Q)\simeq(\Z/8\Z)^\times,\qquad a\mapsto(\zeta_8\mapsto \zeta_8^a). \] したがって \(\Q(\zeta_8)=\Q(i,\sqrt2)\) は Galois 群 \(C_2\times C_2\) を持つ。 三つの二次中間体は \[ \Q(i),\qquad \Q(\sqrt2),\qquad \Q(\sqrt{-2}) \] である。
Galois 理論の基本定理
有限 Galois 拡大 \(L/K\) に対して、中間体 \(K\subset M\subset L\) と部分群 \(H\subset \Gal(L/K)\) は反変に対応する: \[ M=L^H,\qquad H=\Gal(L/M). \] 特に \(M/K\) が Galois であることと \(H\triangleleft \Gal(L/K)\) は同値で、 \[ \Gal(M/K)\simeq \Gal(L/K)/H. \] 類体論では、アーベル拡大だけを扱うので Galois 群は可換であり、全ての部分群が正規部分群である。
3. 円分体:最初の類体論
円分体
\(\zeta_m=e^{2\pi i/m}\) を原始 \(m\) 乗根とする。円分体 \(\Q(\zeta_m)\) の Galois 群は \[ \Gal(\Q(\zeta_m)/\Q)\simeq(\Z/m\Z)^\times \] で、\(a\in(\Z/m\Z)^\times\) は \[ \sigma_a(\zeta_m)=\zeta_m^a \] に対応する。
Kronecker-Weber の定理
\(\Q\) の任意の有限アーベル拡大 \(L/\Q\) は、ある円分体に含まれる: \[ L\subset \Q(\zeta_m). \] したがって、有理数体の類体論は、円分体と \((\Z/m\Z)^\times\) の部分群の理論である。
例 3.1:Frobenius は \(p\) 乗写像
\(p\nmid m\) を素数とする。\(\Q(\zeta_m)/\Q\) で \[ \Frob_p(\zeta_m)=\zeta_m^p. \] よって \(p\) の分解型は、\((\Z/m\Z)^\times\) における \(p\) の位数で決まる。 \[ f=\ord_m(p) \] なら、 \[ (p)=\p_1\cdots\p_g,\qquad g=\frac{\varphi(m)}{f},\qquad N\p_i=p^f. \]
例 3.2:\(\Q(\zeta_8)\) での分解
| \(p\bmod 8\) | \(\ord_8(p)\) | 分解型 |
|---|---|---|
| 1 | 1 | 完全分解:4個の一次素イデアル |
| 3 | 2 | 2個の次数2素イデアル |
| 5 | 2 | 2個の次数2素イデアル |
| 7 | 2 | 2個の次数2素イデアル |
例えば \(17\equiv1\pmod8\) なので完全分解し、\(3\equiv3\pmod8\) なので 2 個の次数 2 素イデアルに分解する。
対話計算:\(\Q(\zeta_m)\) の Frobenius と分解型
\(\Q\) の ray class field と無限素点
\(\Q(\zeta_m)\) は一般に複素体なので、実無限素点の分岐を含む。したがって厳密には \[ \Cl_{m\infty}(\Q)\simeq(\Z/m\Z)^\times,\qquad \Q_{m\infty}=\Q(\zeta_m). \] 有限モジュラス \(m\) だけなら、最大実部分体が現れるという違いがある。
4. 準備 II:代数的整数論
整数環
数体 \(K/\Q\) の整数環は \[ \O_K=\{\alpha\in K:\alpha\text{ は }\Z\text{ 上整}\} \] である。つまり、あるモニック多項式 \[ x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0\in\Z[x] \] の根になる元全体である。
例 4.1:二次体の整数環
\(d\) を平方因子を持たない整数とする。\(K=\Q(\sqrt d)\) では \[ \O_K= \begin{cases} \Z\left[\dfrac{1+\sqrt d}{2}\right],& d\equiv1\pmod4,\\[6pt] \Z[\sqrt d],& d\not\equiv1\pmod4, \end{cases} \] 判別式は \[ D_K= \begin{cases} d,& d\equiv1\pmod4,\\ 4d,& d\not\equiv1\pmod4. \end{cases} \] 例えば \(K=\Q(\sqrt{-5})\) では \[ \O_K=\Z[\sqrt{-5}],\qquad D_K=-20. \]
ノルム・トレース
\(K/\Q\) の埋め込みを \(\sigma_1,\dots,\sigma_n:K\hookrightarrow\C\) とすると \[ \Tr_{K/\Q}(\alpha)=\sum_i\sigma_i(\alpha),\qquad \Nm_{K/\Q}(\alpha)=\prod_i\sigma_i(\alpha). \] 二次体 \(K=\Q(\sqrt d)\) では \[ \Nm(a+b\sqrt d)=a^2-db^2. \] 特に \(d=-5\) なら \[ \Nm(a+b\sqrt{-5})=a^2+5b^2. \]
Dedekind 整域とイデアル分解
数体 \(K\) の整数環 \(\O_K\) は Dedekind 整域である。したがって任意の非零イデアル \(\a\) は素イデアルの積に一意的に分解する: \[ \a=\p_1^{e_1}\cdots \p_g^{e_g}. \] 元の一意分解が失敗しても、イデアルの一意分解は常に成立する。
素数 \(p\) の分解
\[ p\O_K=\p_1^{e_1}\cdots\p_g^{e_g} \] と書く。ここで \(e_i\) は分岐指数、剰余次数 \(f_i\) は \[ \#(\O_K/\p_i)=p^{f_i} \] で定義される。次数公式 \[ \sum_i e_i f_i=[K:\Q] \] が成り立つ。
例 4.2:\(\Q(i)\) の素数分解
\(\O_{\Q(i)}=\Z[i]\)。奇素数 \(p\) について \[ p\equiv1\pmod4 \Longleftrightarrow p\text{ は分解}, \] \[ p\equiv3\pmod4 \Longleftrightarrow p\text{ は惰性}. \] また \[ (2)=(1+i)^2 \] で \(2\) は分岐する。例えば \(5=(2+i)(2-i)\) なので \(5\) は分解し、\(3\) は惰性である。
対話計算:二次体 \(\Q(\sqrt d)\) での素数分解
\(d\) は平方因子を持たない整数として入力する。
5. イデアル類群と類数
イデアル類群
\(I_K\) を非零分数イデアル全体の群、\(P_K=\{(\alpha):\alpha\in K^\times\}\) を主分数イデアル全体の群とする。 商群 \[ \Cl_K=I_K/P_K \] をイデアル類群という。その位数 \[ h_K=\#\Cl_K \] を類数という。類群は「イデアルが主イデアルにならない障害」を測る。
Minkowski 境界
\(n=[K:\Q]\)、\(r_2\) を複素埋め込み対の数、\(D_K\) を判別式とする。任意のイデアル類は、ノルムが \[ N\a\le \left(\frac{4}{\pi}\right)^{r_2}\frac{n!}{n^n}\sqrt{|D_K|} \] 以下の整イデアルを含む。
例 5.1:\(\Q(i)\) の類数は 1
\(K=\Q(i)\) では \(n=2,r_2=1,D_K=-4\)。Minkowski 境界は \[ \left(\frac4\pi\right)\frac{2!}{2^2}\sqrt4=\frac4\pi<2. \] 全てのイデアル類はノルム \(1\) のイデアルを含む。ノルム \(1\) のイデアルは \(\O_K\) だけなので \[ \Cl_{\Q(i)}=1. \]
例 5.2:\(\Q(\sqrt{-5})\) の類群を完全計算する
\(K=\Q(\sqrt{-5})\)、\(\O_K=\Z[\sqrt{-5}]\)、\(D_K=-20\)。Minkowski 境界は \[ \left(\frac4\pi\right)\frac{2!}{2^2}\sqrt{20} =\frac2\pi\sqrt{20}\approx2.85. \] したがって任意のイデアル類はノルム \(1\) または \(2\) の整イデアルを含む。
\(2\mid D_K\) なので \(2\) は分岐する。実際 \[ \p=(2,1+\sqrt{-5}) \] とおくと \(N\p=2\) かつ \[ (2)=\p^2. \] したがって \([\p]^2=1\)。
もし \(\p\) が主イデアルなら \(\p=(\alpha)\) で \(|\Nm(\alpha)|=2\) となる。 しかし \(\alpha=a+b\sqrt{-5}\) なら \[ \Nm(\alpha)=a^2+5b^2, \] そして \[ a^2+5b^2=2 \] は整数解を持たない。よって \(\p\) は非主イデアルである。結論: \[ \Cl_{\Q(\sqrt{-5})}\simeq C_2,\qquad h_K=2. \]
\((2)=\p^2\) の確認
\[ \p^2=(4,2(1+\sqrt{-5}),(1+\sqrt{-5})^2). \] また \[ (1+\sqrt{-5})^2=-4+2\sqrt{-5}=2(-2+\sqrt{-5}), \] なので \(\p^2\subset(2)\)。両者のノルムは \[ N(\p^2)=4,\qquad N((2))=\#\O_K/(2)=4 \] だから、包含は等号である。
例 5.3:非一意分解をイデアルで修復する
\[ 6=2\cdot3=(1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5}) \] は \(\Z[\sqrt{-5}]\) における非一意分解の古典例である。しかしイデアル分解では \[ (2)=\p_2^2,\qquad \p_2=(2,1+\sqrt{-5}), \] \[ (3)=\p_3\bar\p_3,\qquad \p_3=(3,1+\sqrt{-5}),\quad \bar\p_3=(3,1-\sqrt{-5}), \] さらに \[ (1+\sqrt{-5})=\p_2\p_3,\qquad (1-\sqrt{-5})=\p_2\bar\p_3. \] よって両辺のイデアルはともに \[ (6)=\p_2^2\p_3\bar\p_3 \] であり、一意性は回復される。
6. 二次相互法則と二次体の分解
Legendre 記号
奇素数 \(p\) と整数 \(a\) に対し \[ \left(\frac ap\right)= \begin{cases} 1,&x^2\equiv a\pmod p\text{ が非零解を持つ},\\ -1,&x^2\equiv a\pmod p\text{ が解を持たない},\\ 0,&p\mid a. \end{cases} \]
二次相互法則
異なる奇素数 \(p,q\) について \[ \left(\frac pq\right)\left(\frac qp\right) =(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}}. \] つまり \(p\equiv q\equiv3\pmod4\) の場合だけ符号が反転する。
二次体での素数分解
\(K=\Q(\sqrt d)\)、基本判別式を \(D_K\) とする。\(p\nmid D_K\) なら \[ \left(\frac{D_K}{p}\right)=1\Longleftrightarrow p\text{ は分解}, \] \[ \left(\frac{D_K}{p}\right)=-1\Longleftrightarrow p\text{ は惰性}. \] \(p\mid D_K\) なら \(p\) は分岐する。
例 6.1:\(\Q(\sqrt5)\)
\(D_K=5\)。\(5\equiv1\pmod4\) なので \[ \left(\frac5p\right)=\left(\frac p5\right). \] \(\F_5\) の平方は \(1,4\) だから \[ p\equiv \pm1\pmod5 \Longleftrightarrow p\text{ は分解}, \] \[ p\equiv \pm2\pmod5 \Longleftrightarrow p\text{ は惰性}. \] 例えば \(11\equiv1\pmod5\) は分解し、\(7\equiv2\pmod5\) は惰性である。
対話計算:Legendre 記号表
7. 付値・完備化・局所体
\(p\)-進付値
有理数 \(x\in\Q^\times\) を \[ x=p^n\frac ab,\qquad p\nmid a,b \] と書く。このとき \[ v_p(x)=n,\qquad |x|_p=p^{-v_p(x)} \] と定める。分子に \(p\) が多いほど \(p\)-進的には小さい。
例 7.1:\(18/35\)
\[ \frac{18}{35}=\frac{2\cdot3^2}{5\cdot7}. \] したがって \[ v_3(18/35)=2,\quad |18/35|_3=3^{-2}, \] \[ v_5(18/35)=-1,\quad |18/35|_5=5. \]
積公式
任意の \(x\in\Q^\times\) について \[ |x|_\infty\prod_p |x|_p=1. \] この公式が、アデール・イデールで \(K^\times\) を対角的に埋め込むときの基本原理になる。
対話計算:有理数の積公式
\(\Q_p\) と単元群
\(\Q\) を \(|\cdot|_p\) で完備化した体を \(\Q_p\) と呼ぶ。整数環と単元群は \[ \Z_p=\{x:|x|_p\le1\},\qquad \Z_p^\times=\{x:|x|_p=1\}. \] 任意の \(x\in\Q_p^\times\) は一意的に \[ x=p^n u,\qquad n\in\Z,\ u\in\Z_p^\times \] と書ける。すなわち \[ \Q_p^\times\simeq p^\Z\times\Z_p^\times. \]
Hensel の補題
\(f(x)\in\Z_p[x]\)、\(a_0\in\Z_p\) が \[ f(a_0)\equiv0\pmod p,\qquad f'(a_0)\not\equiv0\pmod p \] を満たすなら、\(a\equiv a_0\pmod p\) かつ \(f(a)=0\) となる \(a\in\Z_p\) が一意に存在する。
例 7.2:\(\sqrt2\in\Q_7\)
\(f(x)=x^2-2\)。\(3^2\equiv2\pmod7\)、かつ \(f'(3)=6\not\equiv0\pmod7\)。 よって Hensel により \(x^2=2\) は \(\Q_7\) で解を持つ。 mod \(49\) へ上げるには \(x=3+7t\) とおく: \[ x^2-2=7+42t+49t^2\equiv 7(1+6t)\pmod{49}. \] \(1+6t\equiv0\pmod7\) なので \(t\equiv1\pmod7\)。したがって \[ x\equiv10\pmod{49}. \]
対話計算:\(x^2\equiv a\pmod{p^n}\)
8. 局所類体論
局所 Artin reciprocity
\(K\) を非アルキメデス局所体とする。局所 Artin 写像は \[ \rec_K:K^\times\longrightarrow \Gal(K^{ab}/K) \] を与え、任意の有限アーベル拡大 \(L/K\) について \[ K^\times/N_{L/K}L^\times\xrightarrow{\sim}\Gal(L/K) \] を誘導する。非分岐拡大では、一様化元 \(\pi\) が算術 Frobenius に対応する。
例 8.1:非分岐次数 \(f\) 拡大
\(L/\Q_p\) が非分岐次数 \(f\) 拡大なら剰余体拡大は \[ \F_{p^f}/\F_p \] で、Galois 群は \[ \Gal(L/\Q_p)\simeq C_f. \] 局所 reciprocity は \[ \Q_p^\times/NL^\times\simeq C_f \] を与え、\(p\) の類が Frobenius に対応する。
例 8.2:最大非分岐拡大
\[ \Gal(\Q_p^{ur}/\Q_p)\simeq\widehat{\Z}. \] これは剰余体側の \[ \Gal(\overline{\F}_p/\F_p)\simeq\widehat{\Z} \] に対応する。写像 \[ \Q_p^\times\twoheadrightarrow \Q_p^\times/\Z_p^\times\simeq\Z \] の完備化が \(\widehat{\Z}\) である。
局所 conductor
局所体の単元群には \[ U^0=\O_K^\times,\qquad U^n=1+\p_K^n\quad(n\ge1) \] というフィルトレーションがある。アーベル拡大 \(L/K\) のノルム群 \(N_{L/K}L^\times\) がどの \(U^n\) を含むかが分岐の深さを測り、これが conductor である。
9. アデール・イデール
アデール環
数体 \(K\) の全ての素点 \(v\) について完備化 \(K_v\) を考える。アデール環は制限直積 \[ \A_K=\prod_v' K_v \] である。つまり、有限素点 \(v\) についてほとんど全て \(x_v\in\O_v\) となる列 \((x_v)_v\) からなる。
イデール群
イデール群は \[ \A_K^\times=\prod_v' K_v^\times \] で、ほとんど全ての有限素点で \(x_v\in\O_v^\times\) となるものからなる。 イデール類群は \[ C_K=\A_K^\times/K^\times \] である。ここで \(K^\times\) は全ての成分に同じ元を入れる対角埋め込みで入る。
例 9.1:有理数はイデールになる
\(x=18/35\in\Q^\times\) は、全ての場所で同じ \(x\) を入れることで \[ (x_\infty,x_2,x_3,x_5,x_7,\dots) \] というイデールになる。ほとんど全ての素数 \(p\) で \(v_p(x)=0\)、つまり \(x\in\Z_p^\times\) だからである。
イデールからイデアル類群へ
有限イデール \((x_\p)_\p\) に \[ \prod_\p \p^{v_\p(x_\p)} \] を対応させると、分数イデアル群への写像が得られる。適切な単元部分と無限成分を割ると \[ \Cl_K\simeq K^\times\backslash\A_K^\times/(K_\infty^\times\prod_{\p<\infty}\O_\p^\times) \] という形でイデアル類群が現れる。
10. ray class group と ray class field
モジュラス
モジュラス \(\m\) は \[ \m=\m_0\m_\infty \] の形で、\(\m_0\) は有限素イデアルの積、\(\m_\infty\) は実素点の一部である。
ray class group
\(I_\m\) を \(\m_0\) と互いに素な分数イデアル群とする。 \(P_{\m,1}\) を、ある \(\alpha\in K^\times\) で \[ \alpha\equiv1\pmod{\m_0},\qquad \sigma(\alpha)>0\quad(\sigma\in\m_\infty) \] を満たす主イデアル \((\alpha)\) 全体とする。このとき \[ \Cl_\m(K)=I_\m/P_{\m,1} \] を ray class group という。
ray class field
各モジュラス \(\m\) に対して有限アーベル拡大 \(K_\m/K\) が存在し、 \[ \Gal(K_\m/K)\simeq\Cl_\m(K) \] となる。この \(K_\m\) を ray class field という。分岐は \(\m\) に含まれる素点に制限される。
例 10.1:\(\Q\) の ray class field
\[ \Cl_{m\infty}(\Q)\simeq(\Z/m\Z)^\times,\qquad \Q_{m\infty}=\Q(\zeta_m). \] \(\infty\) を入れることで、複素円分体そのものが得られる。
対話計算:\(\Cl_{m\infty}(\Q)\)
例 10.2:二次体の conductor
\(\Q\) 上の二次体 \(\Q(\sqrt d)\) に対応する二次 Dirichlet 文字の conductor は、基本判別式 \(D\) の絶対値である。 \[ \Q(i)\subset\Q(\zeta_4),\quad \text{conductor }4, \] \[ \Q(\sqrt5)\subset\Q(\zeta_5),\quad \text{conductor }5, \] \[ \Q(\sqrt{-5})\subset\Q(\zeta_{20}),\quad \text{conductor }20. \]
11. Hilbert 類体
Hilbert 類体
Hilbert 類体 \(H_K\) は、\(K\) の最大非分岐アーベル拡大である。虚二次体では無限素点の問題がないため、有限素点で非分岐と考えればよい。
主定理
\[ \Gal(H_K/K)\simeq\Cl_K. \] 特に \[ [H_K:K]=h_K. \] さらに、非分岐素イデアル \(\p\) が \(H_K\) で完全分解することと、\(\p\) が主イデアルであることは同値である。
例 11.1:\(\Q(i)\)
\(\Cl_{\Q(i)}=1\) なので \[ H_{\Q(i)}=\Q(i). \] 類数 1 の体は、非自明な Hilbert 類体を持たない。
例 11.2:\(K=\Q(\sqrt{-5})\)
すでに \[ \Cl_K\simeq C_2 \] を計算した。したがって \(H_K/K\) は次数 2 の非分岐アーベル拡大である。実は \[ H_K=\Q(\sqrt{-5},\sqrt5)=\Q(i,\sqrt5). \]
非分岐性は判別式で確認できる。双二次体 \(H=\Q(i,\sqrt5)\) の二次部分体は \[ \Q(i),\qquad \Q(\sqrt5),\qquad \Q(\sqrt{-5}) \] で、それぞれの判別式は \[ -4,\qquad 5,\qquad -20. \] 双二次体の判別式は二次部分体の判別式の積なので \[ |D_{H/\Q}|=|-4\cdot5\cdot(-20)|=400. \] 一方 \[ |D_{K/\Q}|^{[H:K]}=20^2=400. \] 相対判別式公式 \[ D_{H/\Q}=D_{K/\Q}^{[H:K]}N_{K/\Q}(\mathfrak D_{H/K}) \] より \(N(\mathfrak D_{H/K})=1\)。したがって \(H/K\) は有限素点で非分岐である。
例 11.3:\(\Q(\sqrt{-5})\) の Hilbert 類体で素数を読む
\(p\nmid20\) について、\(K=\Q(\sqrt{-5})\) での分解は \[ \left(\frac{-20}{p}\right) \] で決まる。さらに \(p\) が \(K\) で分解したとき、上の素イデアルが主なら \(H/K\) で完全分解し、非主なら \(H/K\) で惰性である。
例えば \(p=3\) は \(-20\equiv1\pmod3\) なので \(K\) で分解する。しかし \[ 3\ne a^2+5b^2 \] なので主類ではない。したがって \(H/K\) では惰性である。 一方 \[ 29=3^2+5\cdot2^2 \] なので \(29\) の上の素イデアルは主で、\(H/K\) で完全分解する。
対話計算:\(\Q(\sqrt{-5})\) の split prime を主類・非主類に分類
12. 大域類体論
大域 Artin 写像
数体 \(K\) の最大アーベル拡大を \(K^{ab}\) とする。大域 Artin 写像は \[ \Art_K:C_K\longrightarrow \Gal(K^{ab}/K) \] であり、任意の有限アーベル拡大 \(L/K\) に射影すると同型 \[ C_K/N_{L/K}C_L\xrightarrow{\sim}\Gal(L/K) \] を与える。
存在定理
\(C_K\) の有限指数開部分群 \(U\) に対し、一意的な有限アーベル拡大 \(L/K\) が存在し \[ U=N_{L/K}C_L \] となる。包含関係は反転する: \[ U_1\subset U_2 \Longleftrightarrow L_1\supset L_2. \]
Artin 記号
有限 Galois 拡大 \(L/K\) と非分岐素イデアル \(\p\) に対し、\(\q\mid\p\) を取る。 剰余体上で \[ x\mapsto x^{N\p} \] と作用する分解群の元を \(\Frob_\p\) と呼ぶ。\(L/K\) がアーベルなら \(\q\) の選択に依存しない。
例 12.1:円分体の Artin 記号
\[ \left(\frac{\Q(\zeta_m)/\Q}{p}\right)(\zeta_m)=\zeta_m^p. \] つまり Artin 記号は \((\Z/m\Z)^\times\) の元 \(p\bmod m\) そのものである。
例 12.2:Hilbert 類体の Artin 記号
\[ \Cl_K\simeq\Gal(H_K/K) \] の下で \[ [\p]\longmapsto \Frob_\p. \] \(\p\) が主イデアルなら \([\p]=1\) なので \(\Frob_\p=1\)、すなわち完全分解する。
Chebotarev 密度定理
有限 Galois 拡大 \(L/K\) と共役類 \(C\subset\Gal(L/K)\) に対して、 \[ \Frob_\p\in C \] となる非分岐素イデアルの密度は \[ \frac{|C|}{|\Gal(L/K)|} \] である。アーベル拡大では各元が同じ密度で現れる。
例 12.3:Dirichlet の算術級数定理
\(L=\Q(\zeta_m)\) では Frobenius が \(p\bmod m\) である。 Chebotarev は、任意の \(a\in(\Z/m\Z)^\times\) に対して \[ p\equiv a\pmod m \] となる素数の密度が \[ \frac1{\varphi(m)} \] であることを与える。
13. 群コホモロジーが出る理由
有限 Galois 拡大 \(L/K\)、\(G=\Gal(L/K)\) に対して、\(G\)-加群 \(M\) の群コホモロジー \(H^i(G,M)\) を考える。 類体論で重要なのは \[ M=L^\times,\qquad M=\A_L^\times,\qquad M=C_L \] である。
Hilbert の定理 90
\[ H^1(G,L^\times)=0. \] 特に \(L/K\) が巡回拡大、\(G=\langle\sigma\rangle\) のとき、 \[ N_{L/K}(x)=1 \] を満たす \(x\in L^\times\) は、ある \(y\in L^\times\) により \[ x=\frac{y}{\sigma(y)} \] と書ける。
例 13.1:\(\C/\R\)
\(G=\{1,c\}\)、\(c\) は複素共役。\(z\bar z=1\) なら \(|z|=1\)。 \(z=e^{i\theta}\) と書けば \[ z=\frac{e^{i\theta/2}}{e^{-i\theta/2}}. \] これは Hilbert 90 の最も直観的な例である。
コホモロジーは「局所から大域へ貼り合わせるときの障害」を測る。 完全列 \[ 1\to L^\times\to\A_L^\times\to C_L\to1 \] から生じる長完全列が、大域類体論の証明で中心的役割を果たす。 初学段階では、まず Hilbert 90 と「ノルム商が Galois 群になる」という感覚を優先してよい。
14. 大量計算例
計算 1:\((\Z/12\Z)^\times\)
\((\Z/12\Z)^\times=\{1,5,7,11\}\)。全非自明元の二乗が \(1\) なので \(C_2\times C_2\)。
計算 2:\(\Q(\zeta_{12})\) で \(p=5\)
\(\ord_{12}(5)=2\)。したがって \(g=\varphi(12)/2=2\) 個の次数 2 素イデアルに分解。
計算 3:\(\Q(\zeta_{12})\) で \(p=13\)
\(13\equiv1\pmod{12}\)。Frobenius は恒等元、したがって完全分解。
計算 4:\(\Q(i)\) で \(13\)
\(13=3^2+2^2=(3+2i)(3-2i)\)。したがって分解。
計算 5:\(\Q(\sqrt5)\) で \(19\)
\(19\equiv-1\pmod5\)。よって分解。実際 \(9^2\equiv5\pmod{19}\)。
計算 6:\(\Q(\sqrt5)\) で \(2\)
\(2\equiv2\pmod5\) は平方でない。よって惰性。
計算 7:\(\Q(\sqrt{-5})\) で \(3\)
\(x^2+5\equiv x^2-1\pmod3\)。したがって \((3)\) は分解。
計算 8:\(\Q(\sqrt{-5})\) で \(7\)
\(-5\equiv2\pmod7\)、\(3^2\equiv2\)。よって \((7)=(7,\sqrt{-5}-3)(7,\sqrt{-5}+3)\)。
計算 9:\(\Q(\sqrt{-5})\) で \(11\)
\(-5\equiv6\pmod{11}\)。平方剰余でないので惰性。
計算 10:非主イデアル
\(\p=(2,1+\sqrt{-5})\) は \(N\p=2\)。\(a^2+5b^2=2\) は解なし。よって非主。
計算 11:Hilbert 類体で \(3\)
\(3\) は \(K=\Q(\sqrt{-5})\) で分解するが非主類。したがって \(H/K\) では惰性。
計算 12:Hilbert 類体で \(29\)
\(29=3^2+5\cdot2^2\)。主類なので \(H/K\) で完全分解。
計算 13:\(\Q_5^\times\)
\(75=5^2\cdot3\)。したがって \(v_5(75)=2\)、単元部分は \(3\)。
計算 14:\(\sqrt2\in\Q_7\)
\(3^2\equiv2\pmod7\)、\(2\cdot3\not\equiv0\)。Hensel で解が上がる。
計算 15:\(\sqrt2\notin\Q_5\)
\(\F_5\) の平方は \(1,4\)。\(2\) は平方でない。
計算 16:局所非分岐次数 2
\(L/\Q_p\) 非分岐次数 2 なら \(\Q_p^\times/NL^\times\simeq C_2\)。\(p\) の類が非自明元。
計算 17:\(\Q(\zeta_5)\) で \(2\)
\(\ord_5(2)=4\)。よって \(2\) は惰性。
計算 18:\(\Q(\zeta_5)\) で \(11\)
\(11\equiv1\pmod5\)。完全分解。
計算 19:Dirichlet 文字
\(\Q(\sqrt{-5})\) に対応する文字は \(\chi(p)=\left(\frac{-20}{p}\right)\)、conductor は \(20\)。
計算 20:Chebotarev
\(\Q(\zeta_8)/\Q\) では各剰余類 \(1,3,5,7\pmod8\) が密度 \(1/4\)。
計算 21:\(p=2\) in \(\Q(\zeta_7)\)
\(\ord_7(2)=3\)。したがって剰余次数 \(3\)、素イデアルの数は \(\varphi(7)/3=2\)。
計算 22:\(p=3\) in \(\Q(\zeta_7)\)
\(\ord_7(3)=6\)。よって惰性。
計算 23:\(\Q(\sqrt{-3})\)
\(D=-3\)。\(p\ne3\) は \(p\equiv1\pmod3\) で分解、\(p\equiv2\pmod3\) で惰性。
計算 24:分岐素数
\(\Q(\sqrt d)\) で \(p\mid D_K\) なら \(p\) は分岐。例:\(\Q(\sqrt{-5})\) では \(2,5\) が分岐。
計算 25:Artin 写像の読み方
\(\p\) が非分岐で \(\Frob_\p=1\) なら完全分解。円分体では \(p\equiv1\pmod m\)、Hilbert 類体では \(\p\) が主イデアル。
15. 学習計画
Phase A:抽象代数
群、準同型、核、像、商群、有限アーベル群、環、イデアル、商環、Galois 理論を確認する。目標は \(\Gal(\Q(\zeta_m)/\Q)\simeq(\Z/m\Z)^\times\) を中間体まで計算すること。
Phase B:代数的整数論
整数環、判別式、ノルム、素イデアル分解、Minkowski 境界、類群を学ぶ。目標は \(\Q(i),\Q(\sqrt5),\Q(\sqrt{-5})\) を手で計算すること。
Phase C:局所体
\(p\)-進数、Hensel、単元群、非分岐拡大、局所 conductor を理解する。目標は \(K_v^\times/NL_w^\times\simeq\Gal(L_w/K_v)\) を説明すること。
Phase D:イデール
アデール・イデールを使って、局所情報を一つの大域的対象にまとめる。目標はイデール類群から類群・ray class group が出ることを理解すること。
Phase E:類体論
Hilbert 類体、ray class field、大域 Artin 写像、存在定理、Chebotarev を使う。目標は与えられたアーベル拡大の conductor、Frobenius、分解型を計算できること。
16. 理解確認クイズ
Q1
\(\Q(\zeta_7)\) で \(p=2\) の剰余次数はいくつか。
Q2
\(K=\Q(\sqrt{-5})\) の \(\p=(2,1+\sqrt{-5})\) はなぜ主イデアルでないか。
Q3
Hilbert 類体で \(\p\) が完全分解する条件は何か。
17. まとめ
類体論の本質: 数体または局所体のアーベル拡大は、その体から作られる乗法的可換群の商として完全に分類され、素イデアルの Frobenius はその商群の元として計算できる。
局所体では \[ K_v^\times/NL_w^\times\simeq\Gal(L_w/K_v), \] 数体では \[ C_K/N_{L/K}C_L\simeq\Gal(L/K), \] conductor を固定すると \[ \Cl_\m(K)\simeq\Gal(K_\m/K), \] 非分岐最大アーベル拡大では \[ \Cl_K\simeq\Gal(H_K/K). \] これらは同じ reciprocity law の異なる顔である。
付録:SageMath 検算コード
# Q(sqrt(-5)) の類群と素イデアル分解
K.<a> = QuadraticField(-5)
OK = K.ring_of_integers()
print(OK)
print(K.discriminant())
print(K.class_group())
for p in [2,3,7,11,29]:
print(p, OK.ideal(p).factor())
# Hilbert class field
H = K.hilbert_class_field()
print(H)
print(H.absolute_discriminant())
# 円分体 Q(zeta_m) での素数分解
m = 8
C = CyclotomicField(m)
OC = C.ring_of_integers()
for p in [3,5,7,17]:
print(p, OC.ideal(p).factor())