類体論
Class Field Theory
類体論は「数体または局所体の すべての有限アーベル拡大 を、体そのものの乗法的・イデアル論的データから記述する理論」である。 このレポートは、古典的イデアル類体論、局所類体論、イデール類体論、Artin 相互律、存在定理、導手、具体計算、証明の構造を一つの HTML 講義ノートとして整理する。
インタラクティブ早見板
以下の小道具は、本文で定義する対象を具体的に動かすためのもの。厳密な定理の置換ではなく、理解を補助する計算モデルである。
0. ロードマップ:類体論は何を分類するか
類体論の第一のスローガンは次である。
数体 \(K\) の有限アーベル拡大 \(L/K\) は、\(K\) だけから作られる可換群、すなわちイデール類群 \[ C_K = \A_K^\times/K^\times \] の有限指数開部分群と反変的に対応する。対応は \[ L \longmapsto N_{L/K}(C_L) \subset C_K \] で与えられ、商群は Galois 群に同型となる: \[ C_K/N_{L/K}(C_L) \simeq \Gal(L/K). \]
局所体 \(K\) の場合、対応はもっと単純に見える。有限アーベル拡大 \(L/K\) は、\(K^\times\) の有限指数開部分群 \(N_{L/K}L^\times\) と対応し、相互律写像 \[ \rec_K:K^\times \longrightarrow G_K^{\ab}=\Gal(K^{\ab}/K) \] は \[ K^\times/N_{L/K}L^\times \simeq \Gal(L/K) \] を誘導する。
古典的な言葉では、法 \(\mathfrak m\) に対する射類群 \[ \Cl_{K,\mathfrak m}=I_K(\mathfrak m)/P_{K,1}(\mathfrak m) \] の商群が、導手が \(\mathfrak m\) を割る有限アーベル拡大を分類する。\(\mathfrak m=1\) のとき得られるのが Hilbert 類体であり、通常のイデアル類群 \(\Cl_K\) を Galois 群に持つ最大不分岐アーベル拡大である。
相互律写像には「幾何的 Frobenius」と「算術的 Frobenius」の二つの符号・逆元規約がある。本レポートでは、局所体の一様化元 \(\pi\) が不分岐拡大の 幾何的 Frobenius \(x\mapsto x^{q^{-1}}\) に行く規約を標準として述べる。古典的 Artin 記号 \((L/K,\mathfrak p)\) はしばしば算術的 Frobenius \(x\mapsto x^{N\mathfrak p}\) として書かれるので、文献比較では逆元に注意する。
何が「類」なのか
「類体」の「類」はイデアル類に由来する。Dedekind 整域 \(\mathcal O_K\) では、非零分数イデアル全体 \(I_K\) は自由アーベル群であり、主分数イデアル全体 \(P_K\) を割った \[ \Cl_K=I_K/P_K \] がイデアル類群である。\(\Cl_K\) の元は一意分解が破れる度合いを測る。類体論は、\(\Cl_K\) やその射類群版を Galois 群として実現する拡大体を構成し、さらにすべての有限アーベル拡大をこの方法で尽くす。
三つの同じ定理
類体論は、同じ内容が三つの言語で現れる。
| 言語 | 群 | 写像 | 分類 |
|---|---|---|---|
| 局所 | \(K_v^\times\) | \(\rec_{K_v}\) | 有限アーベル拡大 \(L_w/K_v\) |
| イデール | \(C_K=\A_K^\times/K^\times\) | \(\rec_K\) | 有限アーベル拡大 \(L/K\) |
| 古典的 | \(\Cl_{K,\mathfrak m}\) | Artin 記号 \(\mathfrak p\mapsto (L/K,\mathfrak p)\) | 導手が \(\mathfrak m\) を割る拡大 |
最小限の全体像
| 段階 | 対象 | 分類する群 | 対応する拡大 |
|---|---|---|---|
| 古典的 | イデアル、合同条件 | 射類群 \(\Cl_{K,\mathfrak m}\) | 導手 \(\mid\mathfrak m\) の有限アーベル拡大 |
| 局所 | 局所体 \(K\) | \(K^\times\) の有限指数開部分群 | 有限アーベル拡大 \(L/K\) |
| 大域 | 数体 \(K\) | イデール類群 \(C_K\) の有限指数開部分群 | 有限アーベル拡大 \(L/K\) |
| 関数体 | 有限体上の曲線 | Picard 群、イデール類群 | 曲線のアーベル被覆 |
読み方
第 1–3 節は代数的整数論の基礎、第 4–6 節は局所理論、第 7–9 節は大域理論と古典的定式化、第 10–11 節は証明の構造、第 12 節は計算例、第 13 節は発展的視点である。初読では定理の箱だけを追い、二読目で証明スケッチと例を読むとよい。
1. 数体・Dedekind 整域・イデアル類群
数体と整数環
数体とは \(\Q\) の有限次拡大 \(K/\Q\) である。\(K\) の整数環 \(\mathcal O_K\) は、\(\Z\) 上整な元全体、すなわち最高係数 1 の多項式 \[ f(X)=X^n+a_{n-1}X^{n-1}+\cdots+a_0\in\Z[X] \] の根である元全体である。\(\mathcal O_K\) は Noether 正規整域、次元 1、すべての非零素イデアルが極大、かつ整閉である。このような整域を Dedekind 整域という。
\(\mathcal O_K\) の任意の非零イデアル \(\mathfrak a\) は、非零素イデアルの積として一意に分解する: \[ \mathfrak a=\prod_{\mathfrak p}\mathfrak p^{v_{\mathfrak p}(\mathfrak a)},\qquad v_{\mathfrak p}(\mathfrak a)\in\Z_{\ge0}, \] ただし有限個を除いて \(v_{\mathfrak p}(\mathfrak a)=0\) である。
証明の要点
Noether 性から極大イデアルを用いる降下法により存在が示される。一意性は局所化 \((\mathcal O_K)_{\mathfrak p}\) が離散付値環であること、すなわち非零イデアルが \(\mathfrak p^n\) の形になることから従う。局所化で各 \(\mathfrak p\) における指数が読み取れるため、一意性が成立する。
分数イデアルと類群
分数イデアルとは、ある非零 \(d\in\mathcal O_K\) について \(d\mathfrak a\subset\mathcal O_K\) となる \(K\) の有限生成 \(\mathcal O_K\)-部分加群 \(\mathfrak a\) である。非零分数イデアル全体は乗法でアーベル群をなし、 \[ I_K\cong \bigoplus_{\mathfrak p}\Z\cdot \mathfrak p \] である。主分数イデアル全体 \[ P_K=\{(\alpha)=\alpha\mathcal O_K: \alpha\in K^\times\} \] は部分群であり、商 \[ \Cl_K=I_K/P_K \] をイデアル類群という。
数体 \(K\) のイデアル類群 \(\Cl_K\) は有限である。その位数 \[ h_K=\#\Cl_K \] を \(K\) の類数という。
類数 \(h_K=1\) は \(\mathcal O_K\) が一意分解整域であることと同値である。ただし類体論の観点では、類数は単に「失敗の量」ではなく、Hilbert 類体の Galois 群の位数として幾何化される。
単数群と Dirichlet の単数定理
\(\mathcal O_K^\times\) は整数環の可逆元全体である。実埋め込みの個数を \(r_1\)、複素埋め込みの共役対の個数を \(r_2\) とすると、Dirichlet の単数定理は \[ \mathcal O_K^\times \simeq \mu_K\times \Z^{r_1+r_2-1} \] を主張する。ここで \(\mu_K\) は \(K\) に含まれる 1 の根全体である。射類群では、単数を合同条件で割るため、単数群の像が重要な補正項になる。
判別式・異なる・ノルム
\(\alpha_1,\dots,\alpha_n\) が \(K/\Q\) の \(\Q\)-基底なら、その判別式は \[ \Disc(\alpha_1,\dots,\alpha_n)=\det(\Tr_{K/\Q}(\alpha_i\alpha_j))_{i,j} \] である。整数基底に対する判別式は \(d_K\) と書かれる。判別式は分岐を検出する。素数 \(p\) が \(d_K\) を割るなら \(p\) は \(K/\Q\) で分岐し、逆に分岐すれば \(p\mid d_K\) である。
イデアルノルムは \[ N\mathfrak a=\#(\mathcal O_K/\mathfrak a) \] で定義され、乗法的である。素イデアル \(\mathfrak p\) に対して \[ N\mathfrak p=p^{f(\mathfrak p/p)} \] となる。ここで \(f\) は剰余次数である。
類体論に必要な有限性
類体論で繰り返し使う有限性は、\(\Cl_K\) の有限性、\((\mathcal O_K/\mathfrak m)^\times\) の有限性、そして単数群の有限生成性である。射類群の有限性はこれらから従う。イデール言語では、同じ事実は \(C_K^1\) のコンパクト性として現れる。
2. 素イデアルの分解・分岐・Frobenius
類体論の相互律は、素イデアルを Galois 群の元へ送る写像として始まる。したがって、まず拡大 \(L/K\) における素イデアルの分解を整理する。
分解式
\(L/K\) を数体の有限拡大、\(\mathfrak p\subset\mathcal O_K\) を非零素イデアルとする。\(\mathfrak p\mathcal O_L\) は \[ \mathfrak p\mathcal O_L=\prod_{i=1}^{g}\mathfrak P_i^{e_i} \] と一意に分解する。各 \(\mathfrak P_i\) に対して \[ e_i=e(\mathfrak P_i/\mathfrak p),\qquad f_i=f(\mathfrak P_i/\mathfrak p)=[\mathcal O_L/\mathfrak P_i:\mathcal O_K/\mathfrak p] \] をそれぞれ分岐指数、剰余次数という。有限拡大では \[ \sum_{i=1}^{g}e_i f_i=[L:K] \] が成り立つ。
\(L/K\) が Galois 拡大なら、\(e_i\) と \(f_i\) は \(i\) によらず一定であり、 \[ efg=[L:K] \] となる。
分解群と惰性群
\(L/K\) を Galois 拡大、\(G=\Gal(L/K)\)、\(\mathfrak P\mid\mathfrak p\) とする。分解群と惰性群は \[ D(\mathfrak P/\mathfrak p)=\{\sigma\in G:\sigma\mathfrak P=\mathfrak P\}, \] \[ I(\mathfrak P/\mathfrak p)=\{\sigma\in D(\mathfrak P/\mathfrak p):\sigma(x)\equiv x\pmod{\mathfrak P}\;\forall x\in\mathcal O_L\} \] と定義される。剰余体への作用により完全列 \[ 1\longrightarrow I(\mathfrak P/\mathfrak p) \longrightarrow D(\mathfrak P/\mathfrak p) \longrightarrow \Gal(k_{\mathfrak P}/k_{\mathfrak p}) \longrightarrow 1 \] がある。
Frobenius 元
\(\mathfrak p\) が \(L/K\) で不分岐なら \(I=1\) であり、剰余体拡大 \(k_{\mathfrak P}/k_{\mathfrak p}\) は有限体の拡大である。このとき剰余体上の算術的 Frobenius \[ x\longmapsto x^{N\mathfrak p} \] を持ち上げる一意な元 \[ \Frob_{\mathfrak P/\mathfrak p}\in D(\mathfrak P/\mathfrak p) \] が存在する。\(G\) がアーベルなら、\(\mathfrak P\) の選択に依存しないので \(\Frob_{\mathfrak p}\) と書ける。
有限アーベル拡大 \(L/K\) と不分岐素イデアル \(\mathfrak p\) に対し、Artin 記号を \[ \left(\frac{L/K}{\mathfrak p}\right)=\Frob_{\mathfrak p}\in \Gal(L/K) \] と定義する。有限個の分岐素点を避けたイデアル群上で乗法的に拡張すると \[ \mathfrak a=\prod_{\mathfrak p}\mathfrak p^{n_{\mathfrak p}} \longmapsto \left(\frac{L/K}{\mathfrak a}\right)=\prod_{\mathfrak p}\left(\frac{L/K}{\mathfrak p}\right)^{n_{\mathfrak p}} \] となる。これが大域 Artin 写像の古典的形である。
分解型と Frobenius の位数
\(L/K\) が有限 Galois 拡大で \(\mathfrak p\) が不分岐、かつ \(G\) がアーベルのとき、\(\Frob_{\mathfrak p}\) の位数は剰余次数 \(f\) に等しい。 したがって完全分解は \[ \Frob_{\mathfrak p}=1 \] と同値であり、不活性に近い挙動は Frobenius の位数が大きいこととして表現される。
\(L=\Q(\zeta_m)\) では \[ \Gal(\Q(\zeta_m)/\Q)\simeq(\Z/m\Z)^\times, \qquad a\mapsto(\zeta_m\mapsto\zeta_m^a). \] 素数 \(\ell\nmid m\) の Frobenius は \[ \zeta_m\longmapsto\zeta_m^\ell \] である。したがって \(\ell\) の分解型は \(\ell\) の \((\Z/m\Z)^\times\) における位数で決まる。
Chebotarev 密度定理との関係
Chebotarev 密度定理は、有限 Galois 拡大 \(L/K\) と共役類 \(C\subset G\) に対して、Frobenius 共役類が \(C\) になる素イデアルの自然密度が \[ \frac{\#C}{\#G} \] であることを述べる。類体論はアーベル拡大を分類し、Chebotarev はその分類された拡大における素イデアルの統計を与える。二つを組み合わせると、合同条件・ノルム条件・分解条件が同じ言語で扱える。
3. 局所体の基礎
付値と完備化
局所類体論の対象は局所体である。非アルキメデス局所体とは、離散付値 \(v:K^\times\to\Z\) で完備、かつ剰余体が有限である体をいう。典型例は \[ \Q_p, \qquad \text{および有限拡大 }K/\Q_p, \] または正標数の \(\F_q((T))\) である。
\(K\) の付値環、極大イデアル、剰余体を \[ \mathcal O_K=\{x:v(x)\ge0\},\qquad \mathfrak p_K=\{x:v(x)>0\},\qquad k_K=\mathcal O_K/\mathfrak p_K \] と書く。一様化元 \(\pi\) は \(v(\pi)=1\) を満たす元である。剰余体の位数を \(q\) とする。
乗法群の分解
局所体の乗法群は \[ K^\times\simeq \pi^\Z\times\mathcal O_K^\times \] と分解する。単数群には自然なフィルトレーション \[ U_K^0=\mathcal O_K^\times, \qquad U_K^n=1+\mathfrak p_K^n\quad(n\ge1) \] がある。商は \[ U_K^0/U_K^1\simeq k_K^\times, \qquad U_K^n/U_K^{n+1}\simeq k_K\quad(n\ge1) \] である。ただし後者は加法群としての同型で、\(1+x\mapsto x\bmod\mathfrak p_K^{n+1}\) により与えられる。
局所拡大の分岐
\(L/K\) を有限 Galois 拡大とする。Galois 群 \(G\) の分岐群は下番号で \[ G_i=\{\sigma\in G: v_L(\sigma(a)-a)\ge i+1\;\forall a\in\mathcal O_L\},\qquad i\ge -1 \] と定義される。ここで \(G_{-1}=G\)、\(G_0\) は惰性群、\(G_1\) は野性惰性群である。
上番号の分岐群 \(G^u\) は Herbrand 関数により定義され、商拡大との相性がよい。局所類体論では、単数フィルトレーション \(U_K^n\) と上番号分岐群が相互律写像で対応する: \[ \rec_K(U_K^n) \quad\text{は}\quad G_K^{\ab}\text{ の }n\text{ 番目の分岐部分に対応する。} \]
不分岐拡大
各 \(n\ge1\) に対して、剰余体拡大 \(\F_{q^n}/\F_q\) を持つ一意な不分岐拡大 \(K_n/K\) が存在する。すべての有限不分岐拡大の合併を \(K^{\unr}\) と書くと \[ \Gal(K^{\unr}/K)\simeq \widehat{\Z} \] である。位相的生成元は Frobenius である。
正規化を幾何的 Frobenius に取ると、局所相互律写像 \(\rec_K:K^\times\to G_K^{\ab}\) は一様化元を \[ \pi\longmapsto \Frob_K^{-1}\in\Gal(K^{\unr}/K) \] に送る。さらに \(\mathcal O_K^\times\) は不分岐商では自明に作用し、完全分岐アーベル拡大を制御する。
4. 局所類体論
局所類体論は、非アルキメデス局所体 \(K\) の有限アーベル拡大を \(K^\times\) の開部分群で分類する。
局所体 \(K\) に対して、自然な連続準同型 \[ \rec_K:K^\times\longrightarrow G_K^{\ab} \] が存在し、任意の有限アーベル拡大 \(L/K\) について商に降りて同型 \[ K^\times/N_{L/K}L^\times \xrightarrow{\sim} \Gal(L/K) \] を与える。開有限指数部分群 \(U\subset K^\times\) は一意な有限アーベル拡大 \(L/K\) のノルム群 \(N_{L/K}L^\times\) として現れる。
ノルム群と対応
\(L/K\) が有限拡大ならノルム写像 \[ N_{L/K}:L^\times\to K^\times \] は閉部分群を像に持つ。\(L/K\) が有限アーベルなら、局所類体論は \[ [K^\times:N_{L/K}L^\times]=[L:K] \] を主張する。さらに包含関係は反転する: \[ L_1\subset L_2\quad\Longleftrightarrow\quad N_{L_2/K}L_2^\times\subset N_{L_1/K}L_1^\times. \]
具体的な対応
| 部分群 \(U\subset K^\times\) | 対応する拡大 | 商 |
|---|---|---|
| \(\mathcal O_K^\times\) | 不分岐商を取り出す核。有限レベルでは \(\langle\pi^n\rangle\times\mathcal O_K^\times\) | \(K^\times/\mathcal O_K^\times\simeq\Z\) |
| \(\langle\pi^n\rangle\times\mathcal O_K^\times\) | 次数 \(n\) の不分岐拡大 | \(\Z/n\Z\) |
| \(\langle\pi\rangle\times U_K^1\) | 剰余体の Teichmüller 部分に対応する馴分岐拡大 | \(k_K^\times\) |
| \(\langle\pi\rangle\times U_K^n\) | 導手 \(\le n\) の完全分岐アーベル拡大の一部 | \(\mathcal O_K^\times/U_K^n\) |
Hilbert 記号
\(K\) が \(n\) 乗根 \(\mu_n\) を含み、\(n\) が剰余標数と素であるとき、Kummer 理論により \[ H^1(G_K,\mu_n)\simeq K^\times/K^{\times n} \] である。Hilbert 記号は \[ (a,b)_n\in\mu_n \] と書かれ、\(a,b\in K^\times\) に対して、\(a\) が拡大 \(K(\sqrt[n]{b})/K\) のノルムであるかを判定する。具体的には \[ (a,b)_n=1\quad\Longleftrightarrow\quad a\in N_{K(\sqrt[n]{b})/K}K(\sqrt[n]{b})^\times. \]
Lubin–Tate 理論
Lubin–Tate 理論は、局所類体論の明示的構成である。一様化元 \(\pi\) と Lubin–Tate 形式群 \(F\) を選ぶ。\(F\) の \(\pi^n\)-等分点を付け加えた拡大 \[ K(F[\pi^n])/K \] は完全分岐アーベル拡大であり、極限を取ると \(K\) の最大完全分岐アーベル拡大を得る。不分岐拡大と合わせることで \(K^{\ab}\) が構成される。
Lubin–Tate の相互律写像の形
\(a\in\mathcal O_K\) に対して形式群の自己準同型 \([a]_F(T)\) があり、\([\pi]_F(T)\equiv T^q\pmod\pi\)、かつ線形項が \(\pi T\) であるように選ぶ。単数 \(u\in\mathcal O_K^\times\) は等分点上で \([u]_F\) として作用し、一様化元 \(\pi\) は不分岐 Frobenius と対応する。この作用が局所相互律写像を具体的に与える。
局所類体論の証明の骨格
現代的には、局所類体論は Galois コホモロジーと Brauer 群によって証明される。中心にあるのは不変量写像 \[ \inv_K:\Br(K)\xrightarrow{\sim}\Q/\Z \] と、有限 Galois 拡大 \(L/K\) に対する基本類 \[ u_{L/K}\in H^2(\Gal(L/K),L^\times) \] である。カップ積により \[ K^\times/N_{L/K}L^\times \longrightarrow \Gal(L/K)^{\ab} \] が得られ、これが相互律写像になる。
5. アデール・イデール・イデール類群
場所と完備化
数体 \(K\) の場所 \(v\) は、同値な絶対値の類である。有限場所は非零素イデアル \(\mathfrak p\) に対応し、完備化は \(K_{\mathfrak p}\) である。無限場所は埋め込み \(K\hookrightarrow\R\) または共役な複素埋め込みの対に対応する。
アデール環
アデール環は制限直積 \[ \A_K=\prod_v'K_v \] である。有限場所では、ほとんどすべての成分が \(\mathcal O_v\) に入るという制限を課す。つまり \[ \A_K=\left\{(x_v)_v\in\prod_vK_v:x_v\in\mathcal O_v\text{ for almost all finite }v\right\}. \]
イデール群
イデール群は \(\A_K\) の可逆元全体ではなく、位相群としての制限直積 \[ \A_K^\times=\prod_v'K_v^\times \] であり、有限場所でほとんどすべての成分が \(\mathcal O_v^\times\) に入る。\(K^\times\) は対角埋め込みで \(\A_K^\times\) に入る。
イデール類群
イデール類群は \[ C_K=\A_K^\times/K^\times \] である。これが大域類体論の主役である。イデールノルムは \[ |x|_\A=\prod_v |x_v|_v \] であり、積公式により \(a\in K^\times\) なら \(|a|_\A=1\) である。したがって \(|\cdot|_\A\) は \(C_K\) 上の写像になる。
\(C_K^1=\ker(|\cdot|_\A:C_K\to\R_{>0})\) はコンパクトであり、 \[ C_K\simeq C_K^1\times\R_{>0} \] に近い構造を持つ。有限アーベル拡大を分類するのは、有限指数開部分群であるため、\(\R_{>0}\) 成分は有限商には寄与しない。
イデアル群との接続
有限イデール \(x=(x_v)_v\) から分数イデアル \[ (x)=\prod_{\mathfrak p}\mathfrak p^{v_{\mathfrak p}(x_{\mathfrak p})} \] を作る写像がある。\(\prod_{\mathfrak p}\mathcal O_{\mathfrak p}^\times\) で割ると、有限イデールは分数イデアル群に対応する。したがって、イデール類群はイデアル類群と局所単数情報を同時に包み込む。
法と合同部分群
法 \(\mathfrak m=\mathfrak m_0\mathfrak m_\infty\) は有限部分 \(\mathfrak m_0=\prod\mathfrak p^{n_{\mathfrak p}}\) と実無限素点の集合 \(\mathfrak m_\infty\) からなる。対応する開部分群は \[ U(\mathfrak m)= \prod_{\mathfrak p\nmid\mathfrak m_0}\mathcal O_{\mathfrak p}^\times \times \prod_{\mathfrak p^{n}\Vert\mathfrak m_0}(1+\mathfrak p^n\mathcal O_{\mathfrak p}) \times \prod_{v\mid\infty}U_v \] である。実無限素点 \(v\in\mathfrak m_\infty\) では \(U_v=\R_{>0}\)、含まれない実素点では \(U_v=\R^\times\)、複素素点では \(U_v=\C^\times\) とする。
6. 大域類体論:Artin 相互律と存在定理
大域 Artin 写像
大域類体論は、イデール類群から絶対 Galois 群のアーベル化への連続準同型 \[ \rec_K:C_K\longrightarrow G_K^{\ab}=\Gal(K^{\ab}/K) \] を構成する。有限アーベル拡大 \(L/K\) に対して商写像は \[ \rec_{L/K}:C_K\longrightarrow \Gal(L/K) \] となり、局所成分では局所相互律と整合する。
任意の有限アーベル拡大 \(L/K\) に対し、Artin 写像は同型 \[ C_K/N_{L/K}C_L \xrightarrow{\sim} \Gal(L/K) \] を誘導する。ここで \[ N_{L/K}C_L=\text{イデール類ノルムの像} \] である。
\(C_K\) の任意の有限指数開部分群 \(U\) に対し、一意な有限アーベル拡大 \(L/K\) が存在して \[ U=N_{L/K}C_L \] となる。包含 \(U_1\subset U_2\) は拡大の包含 \(L_2\subset L_1\) に対応する。
局所・大域の整合性
各場所 \(v\) と \(w\mid v\) に対して局所埋め込み \[ K_v^\times\longrightarrow C_K \] と局所 Galois 群から大域 Galois 群への写像があり、次の図式が可換になる:
この可換性により、大域 Artin 写像は局所 Frobenius を正しく貼り合わせたものになる。
古典的 Artin 写像との一致
\(S\) を \(L/K\) で分岐する有限素点全体を含む有限集合とする。\(S\) の外のイデアル群 \(I_K^S\) から \(C_K\) へ、素イデアル \(\mathfrak p\notin S\) を \(\mathfrak p\)-成分が一様化元、それ以外が 1 のイデールに送る写像を考える。このとき大域 Artin 写像は古典的 Artin 記号 \[ \mathfrak p\longmapsto \left(\frac{L/K}{\mathfrak p}\right) \] と一致する。ただし Frobenius の正規化に応じて逆元が現れる。
関手性
拡大 \(E/L/K\) に対して、ノルム、制限、移送は相互律写像と整合する。典型的には、\(L/K\) が有限拡大のとき、次の二つが成り立つ。
- ノルム \(N_{L/K}:C_L\to C_K\) は Galois 群側の制限 \(G_L^{\ab}\to G_K^{\ab}\) と対応する。
- 包含 \(C_K\to C_L\) に対応する操作は Galois 群側の移送写像、すなわち Verlagerung である。
したがって類体論は単なる集合の対応ではなく、ノルム・制限・合成を保つ関手的分類である。
相互律の核
\(K^{\ab}\) 全体に対する \(\rec_K:C_K\to G_K^{\ab}\) は一般には単射ではない。連結成分や正の実数成分を含むためである。しかし任意の有限商では、対応するノルム群で割ると正確に Galois 群が得られる。有限イデール類の有限商だけを見る、ということが類体論の本質である。
7. 射類群・導手・古典的類体論
法
法 \(\mathfrak m\) は \[ \mathfrak m=\mathfrak m_0\mathfrak m_\infty, \qquad \mathfrak m_0=\prod_{\mathfrak p}\mathfrak p^{n_{\mathfrak p}} \] と書かれる形式的積であり、\(\mathfrak m_\infty\) は実素点の有限集合である。複素素点は法の無限部分には含めない。
射類群
\(I_K(\mathfrak m)\) を \(\mathfrak m_0\) と互いに素な分数イデアル全体の群とする。\(\alpha\in K^\times\) が \[ \alpha\equiv 1\pmod{\mathfrak p^{n_{\mathfrak p}}} \quad(\mathfrak p^{n_{\mathfrak p}}\Vert\mathfrak m_0) \] かつ \(v\in\mathfrak m_\infty\) で \(v(\alpha)>0\) を満たすとき、\(\alpha\equiv1\pmod{\mathfrak m}\) と書く。このような \(\alpha\) で生成される主イデアル群を \[ P_{K,1}(\mathfrak m)=\{(\alpha):\alpha\equiv1\pmod{\mathfrak m}\} \] とし、射類群を \[ \Cl_{K,\mathfrak m}=I_K(\mathfrak m)/P_{K,1}(\mathfrak m) \] と定義する。
任意の法 \(\mathfrak m\) に対して、有限アーベル拡大 \(K_{\mathfrak m}/K\) が存在し、Artin 写像により同型 \[ \Cl_{K,\mathfrak m}\xrightarrow{\sim}\Gal(K_{\mathfrak m}/K) \] が得られる。\(K_{\mathfrak m}\) は法 \(\mathfrak m\) の射類体と呼ばれる。
Hilbert 類体
\(\mathfrak m=1\) の射類体を Hilbert 類体 \(H_K\) という。これは \(K\) の最大不分岐アーベル拡大であり、Artin 写像により \[ \Cl_K\xrightarrow{\sim}\Gal(H_K/K) \] が成り立つ。特に \[ [H_K:K]=h_K. \]
\(K\) の任意のイデアルは Hilbert 類体 \(H_K\) に拡張すると主イデアルになる。すなわち任意の \(\mathfrak a\subset\mathcal O_K\) について \[ \mathfrak a\mathcal O_{H_K}\text{ は主イデアルである。} \]
導手
有限アーベル拡大 \(L/K\) には最小の法 \(\mathfrak f_{L/K}\) が存在し、\(L\) は \(\mathfrak f_{L/K}\) の射類体の部分体になる。この \(\mathfrak f_{L/K}\) を導手という。局所的には、導手指数は上番号分岐群から \[ n_{\mathfrak p}=\min\{n\ge0:U_{K_{\mathfrak p}}^n\subset N_{L_w/K_{\mathfrak p}}L_w^\times\} \] と特徴づけられる。
射類群の大きさ
射類群の位数は、通常の類数、局所合同群、単数の像を使って計算できる。概念的には完全列 \[ \mathcal O_K^\times \longrightarrow (\mathcal O_K/\mathfrak m_0)^\times\times\{\pm1\}^{\mathfrak m_\infty} \longrightarrow \Cl_{K,\mathfrak m} \longrightarrow \Cl_K \longrightarrow 1 \] がある。したがって \[ h_{K,\mathfrak m}=h_K\cdot \frac{\#(\mathcal O_K/\mathfrak m_0)^\times\cdot 2^{\#\mathfrak m_\infty}} {[\mathcal O_K^\times:U_{\mathfrak m}]} \] という形の公式が得られる。ただし \(U_{\mathfrak m}\) は法 \(\mathfrak m\) に関して 1 に合同し、指定実素点で正となる単数群である。
8. 基本例:\(\Q\)、円分体、二次体
Kronecker–Weber 定理
\(\Q\) の任意の有限アーベル拡大は、ある円分体 \(\Q(\zeta_m)\) の部分体である。
これは \(\Q\) に対する大域類体論の明示形である。\(m\in\Z_{>0}\) に対して \[ \Gal(\Q(\zeta_m)/\Q)\simeq(\Z/m\Z)^\times \] であり、法 \(m\infty\) の射類群も \[ \Cl_{\Q,m\infty}\simeq(\Z/m\Z)^\times \] である。
\(\Q\) の射類群
\(\Q\) では通常の類群は自明である。有限法 \(m\) だけを考えると、主イデアルの生成元の符号が同一視されるため \[ \Cl_{\Q,m}\simeq(\Z/m\Z)^\times/\{\pm1\} \] となる。一方、実無限素点を含めた狭義の法 \(m\infty\) では正の生成元だけを許すので \[ \Cl_{\Q,m\infty}\simeq(\Z/m\Z)^\times \] となる。
二次体と平方剰余
\(K=\Q(\sqrt D)\) を基本判別式 \(D\) の二次体とする。素数 \(p\nmid D\) の分解は Kronecker 記号で決まる: \[ \left(\frac{D}{p}\right)= \begin{cases} 1 & p\text{ は }K\text{ で完全分解},\\ -1 & p\text{ は }K\text{ で不活性},\\ 0 & p\text{ は分岐}. \end{cases} \] これは \(\Gal(K/\Q)=\{1,c\}\) への Artin 写像が Dirichlet 指標 \(\chi_D(p)=(D/p)\) で記述されることを意味する。
\(\Q(i)=\Q(\zeta_4)\) である。奇素数 \(p\) は \[ p\equiv1\pmod4\Rightarrow p\text{ は分解}, \qquad p\equiv3\pmod4\Rightarrow p\text{ は不活性}, \] となり、\(2\) は分岐する。これは \((\Z/4\Z)^\times\simeq\{\pm1\}\) 上の Frobenius \(p\bmod4\) そのものである。
\(K=\Q(\sqrt{-5})\) は判別式 \(-20\)、類数 \(2\) を持つ。Hilbert 類体 \(H_K\) は \(K\) 上次数 2 の不分岐アーベル拡大であり、ひとつの表示は \[ H_K=\Q(\sqrt{-5},\sqrt5) \] である。したがって \[ \Gal(H_K/K)\simeq\Cl_K\simeq\Z/2\Z. \] ここでは「非主イデアル類」が、拡大体の非自明な Galois 自己同型として現れる。
二次形式との関係
負の基本判別式 \(D<0\) に対し、正定値原始二元二次形式 \[ ax^2+bxy+cy^2,\qquad b^2-4ac=D,\quad \gcd(a,b,c)=1 \] の適切な同値類は、虚二次体 \(\Q(\sqrt D)\) のイデアル類群と同一視される。簡約条件 \[ |b|\le a\le c, \qquad (|b|=a\text{ または }a=c\Rightarrow b\ge0) \] により、各類に一つの代表を選べる。この事実は、古典的二次形式論と類体論の接点である。
9. 指標・Artin 導手・導手判別式公式
有限アーベル群の指標
有限アーベル拡大 \(L/K\) の Galois 群 \(G\) は有限アーベル群であるため、その複素指標群 \[ \widehat G=\Hom(G,\C^\times) \] は \(G\) と同型な有限アーベル群である。Artin 相互律により、\(\widehat G\) の元はイデール類群の有限位数指標、すなわち Hecke 指標の有限部分として見られる。
Dirichlet 指標
\(K=\Q\) では、有限位数 Hecke 指標は Dirichlet 指標に対応する。導手 \(f(\chi)\) は、\(\chi\) が法 \(f(\chi)\) から来る最小の正整数である。対応するアーベル拡大は \(\Q(\zeta_{f})\) の部分体で、\(\chi\) は Galois 群の指標を与える。
Artin 導手
一般の有限次元複素表現 \(\rho:G_K\to GL(V)\) に対して、局所 Artin 導手指数は分岐群を用いて \[ a(\rho)=\sum_{i\ge0}\frac{\#G_i}{\#G_0}\operatorname{codim}V^{G_i} \] と定義される。アーベル指標の場合、この導手は類体論の導手と一致する。
\(L/K\) を有限アーベル拡大、\(G=\Gal(L/K)\) とする。\(G\) の指標群を \(\widehat G\) とすれば、相対判別式は \[ \mathfrak d_{L/K}=\prod_{\chi\in\widehat G}\mathfrak f(\chi) \] で与えられる。ここで \(\mathfrak f(\chi)\) は指標 \(\chi\) の導手である。
この公式は、分岐の量を「指標ごとの導手」に分解する。円分体の判別式公式、二次体の判別式、アーベル拡大の分岐評価はこの公式から統一的に理解できる。
Artin \(L\)-関数
\(L/K\) の指標 \(\chi\) に対する Artin \(L\)-関数は、分岐素点を除いて \[ L(s,\chi)=\prod_{\mathfrak p\nmid\mathfrak f(\chi)} \left(1-\chi(\Frob_{\mathfrak p})N\mathfrak p^{-s}\right)^{-1} \] と定義される。アーベルの場合、類体論によりこれは Hecke \(L\)-関数になる。これが Artin 予想がアーベル表現で成立する理由である。
10. 大域類体論の証明構造
類体論の証明は複数の流儀がある。古典的には Takagi の存在定理と Artin の相互律、現代的にはイデール・コホモロジー・Brauer 群による証明が標準である。ここでは定理間の依存を明示する。
証明の主要部品
| 部品 | 内容 | 役割 |
|---|---|---|
| 局所類体論 | \(K_v^\times\) と \(G_{K_v}^{\ab}\) の対応 | 局所因子と分岐を制御 |
| イデール類群のコンパクト性 | \(C_K^1\) がコンパクト | 有限指数開部分群を扱う基盤 |
| 第一不等式 | \([C_K:N_{L/K}C_L]\ge [L:K]\) 型 | Artin 写像の全射性・下界 |
| 第二不等式 | \([C_K:N_{L/K}C_L]\le [L:K]\) 型 | ノルム指数の上界 |
| 存在定理 | 開部分群がノルム群として実現 | 分類の完全性 |
| 相互律 | 主イデールの積が自明 | 局所写像の大域的整合 |
ノルム指数定理
\(L/K\) を有限アーベル拡大とすると \[ [C_K:N_{L/K}C_L]=[L:K]. \]
この等式は大域類体論の心臓部である。片方の不等式は解析的道具またはコホモロジーで示され、もう片方は局所理論と大域単数の構造を使う。等式が得られると、Artin 写像の核がちょうどノルム群であることが確認される。
第一不等式と第二不等式
第一不等式の概念的証明
巡回拡大 \(L/K\) に帰着する。Tate コホモロジーを使うと、イデール群 \(\A_L^\times\) と \(L^\times\) の完全列 \[ 1\to L^\times\to\A_L^\times\to C_L\to1 \] に対して Herbrand 商を計算できる。局所 Hilbert 90 により \[ H^1(G,L_w^\times)=0 \] が効き、局所項の積が大域項に集約される。最終的に \(C_K/N C_L\) の大きさに \([L:K]\) が下界として現れる。
第二不等式の概念的証明
第二不等式は存在定理に近い性格を持つ。十分多くの素点で指定された Frobenius を持つ拡大を構成し、Chebotarev 型の密度議論または解析的類数公式を用いてノルム指数が過大にならないことを示す。現代的には、コホモロジーの基本類と局所不変量の和が 0 になる事実 \[ \sum_v\inv_v(\alpha_v)=0 \] が中核にある。
相互律法則
大域相互律の最も古典的な表現は、\(a\in K^\times\) に対し局所記号の積が 1 になるという式である。例えば Hilbert 記号では \[ \prod_v(a,b)_v=1 \] が成り立つ。これは二次相互律、高次冪剰余相互律、Artin 相互律の共通祖先である。
証明依存グラフ
11. コホモロジーによる定式化
Hilbert 90
有限 Galois 拡大 \(L/K\)、\(G=\Gal(L/K)\) に対して Hilbert の定理 90 は \[ H^1(G,L^\times)=0 \] を主張する。巡回拡大で言えば、ノルム 1 の元は \[ x=\frac{y}{\sigma y} \] の形に書ける。これはノルムと 1-コサイクルを結びつける基本定理である。
Brauer 群
Brauer 群 \(\Br(K)\) は中心単純 \(K\)-代数の Morita 同値類からなる群である。局所体では \[ \inv_K:\Br(K)\xrightarrow{\sim}\Q/\Z \] という不変量同型がある。数体では完全列 \[ 0\longrightarrow \Br(K)\longrightarrow \bigoplus_v\Br(K_v) \xrightarrow{\sum\inv_v}\Q/\Z\longrightarrow0 \] が成り立つ。この式は大域相互律のコホモロジー版である。
基本類
有限 Galois 拡大 \(L/K\) に対し、類体論の基本類 \[ u_{L/K}\in H^2(G,C_L) \] が存在する。この基本類とのカップ積は、Tate コホモロジー群の同型を与え、特に \[ \widehat H^0(G,C_L)=C_K/N_{L/K}C_L \] と \[ \widehat H^{-2}(G,\Z)\simeq G^{\ab} \] を結ぶ。これが Artin 写像の抽象的起源である。
Tate の定理
有限群 \(G\) と \(G\)-加群 \(C\) について、ある \(u\in H^2(G,C)\) がすべての部分群 \(H\subset G\) に対して適切な局所条件を満たすなら、カップ積 \[ \widehat H^r(H,\Z)\xrightarrow{\cup u} \widehat H^{r+2}(H,C) \] は全ての \(r\) で同型となる。類体論では \(C=C_L\)、\(u=u_{L/K}\) と取る。
この視点では、「類体論の難しさ」は基本類の構成と、その局所化が局所基本類に一致することに集約される。
なぜアーベル化だけか
\(K^\times\) や \(C_K\) は可換群であるため、その連続像は可換群である。したがって相互律写像が直接到達できるのは \(G_K^{\ab}\) だけである。非可換拡大を扱うには、表現・保型形式・Langlands 対応が必要になる。類体論は Langlands 計画の \(GL_1\) の場合である。
12. 計算と演習
演習 1:円分体での分解
\(L=\Q(\zeta_7)\) とする。\(p=2,3,5,11,13\) の分解型を求めよ。
解答
\(\Gal(L/\Q)\simeq(\Z/7\Z)^\times\) は位数 6 の巡回群。\(p\ne7\) の剰余次数は \(p\bmod7\) の位数である。 \[ \begin{array}{c|c|c|c} p&p\bmod7&\ord_7(p)&\text{分解}\\ \hline 2&2&3&g=6/3=2\\ 3&3&6&g=1\\ 5&5&6&g=1\\ 11&4&3&g=2\\ 13&6&2&g=3 \end{array} \] ここで \(g\) は上にある素イデアルの個数である。
演習 2:Hilbert 類体の次数
\(K\) の類数が \(h_K=4\) であるとする。Hilbert 類体 \(H_K\) の \(K\) 上次数は何か。また \(\Cl_K\simeq\Z/2\Z\times\Z/2\Z\) の場合、\(H_K/K\) の中間体はいくつあるか。
解答
\([H_K:K]=h_K=4\)。\(\Gal(H_K/K)\simeq\Z/2\Z\times\Z/2\Z\) なら、指数 2 の部分群が 3 個あるため、\(K\) と \(H_K\) の間の次数 2 の中間体は 3 個である。
演習 3:\(\Q_p\) のノルム群
\(L/\Q_p\) を次数 \(n\) の不分岐拡大とする。\(N_{L/\Q_p}L^\times\) を求めよ。
解答
不分岐拡大では一様化元として同じ \(p\) が使え、付値に関して \[ v_p(N_{L/\Q_p}x)=n v_L(x) \] となる。単数部分のノルム \(\mathcal O_L^\times\to\Z_p^\times\) は全射である。したがって \[ N_{L/\Q_p}L^\times=p^{n\Z}\times\Z_p^\times. \] よって \[ \Q_p^\times/N_{L/\Q_p}L^\times\simeq\Z/n\Z. \]
演習 4:二次相互律を類体論で読む
奇素数 \(p,q\) に対して、二次相互律 \[ \left(\frac pq\right)\left(\frac qp\right)=(-1)^{\frac{p-1}{2}\frac{q-1}{2}} \] が Hilbert 記号の積公式から従う理由を説明せよ。
解答
\(\Q\) 上の Hilbert 記号 \((p,q)_v\) について積公式 \[ \prod_v(p,q)_v=1 \] が成り立つ。\(v\) が \(p,q,2,\infty\) 以外の素点なら局所記号は 1 である。残る有限個の局所記号を明示計算すると、\((p,q)_p\) と \((p,q)_q\) が Legendre 記号 \((q/p),(p/q)\) を含み、\(2\) と \(\infty\) の寄与が符号 \((-1)^{((p-1)/2)((q-1)/2)}\) を生む。よって積が 1 であることが二次相互律に等しい。
ミニクイズ
問い: Hilbert 類体 \(H_K\) はどのような拡大か。
13. 発展:明示類体論・CM・Langlands
明示類体論
類体論は拡大の存在と分類を与えるが、一般には生成元を明示的に与えない。明示類体論は、類体を特殊値や等分点で生成する問題である。
| 基礎体 | 明示的生成元 | 対応理論 |
|---|---|---|
| \(\Q\) | 1 の根 \(\zeta_m\) | Kronecker–Weber |
| 虚二次体 | 楕円関数の特殊値、\(j\)-不変量、Weber 関数 | 複素乗法論 |
| 局所体 | Lubin–Tate 形式群の等分点 | Lubin–Tate 理論 |
| 一般数体 | 未解決な側面が多い | Stark 予想、Hilbert 第 12 問題 |
複素乗法
虚二次体 \(K\) の整環または order による複素乗法を持つ楕円曲線 \(E\) を考える。\(j(E)\) は \(K\) の Hilbert 類体または環類体を生成する。典型的には \[ K(j(E))=\text{環類体} \] である。さらに楕円関数の等分点値を加えると、より高い射類体が得られる。
Langlands 計画との関係
類体論は Langlands 対応の \(GL_1\) の場合である。大域 Langlands の \(GL_1\) 版は、イデール類指標と 1 次元 Galois 表現の対応 \[ \Hom_{\mathrm{cont}}(C_K,\C^\times) \longleftrightarrow \{\text{1 次元連続 Galois 表現 }G_K\to\C^\times\} \] である。非可換拡大を理解するには、\(GL_n\) の保型表現と \(n\) 次元 Galois 表現の対応へ進む。
関数体類体論
有限体 \(\F_q\) 上の滑らかな射影曲線 \(X\) の関数体 \(K=\F_q(X)\) に対しても類体論が成立する。イデール類群は曲線上の因子類群と密接に関係し、幾何的アーベル被覆を分類する。幾何的基本群のアーベル化は Picard 群や Jacobian の有限点と接続する。
14. 用語集・記法表
| 記号・用語 | 意味 |
|---|---|
| \(K\) | 数体または局所体 |
| \(\mathcal O_K\) | 整数環または局所体の付値環 |
| \(I_K\) | 非零分数イデアル群 |
| \(P_K\) | 主分数イデアル群 |
| \(\Cl_K\) | イデアル類群 \(I_K/P_K\) |
| \(\mathfrak m\) | 法。有限部分と実無限部分からなる |
| \(\Cl_{K,\mathfrak m}\) | 法 \(\mathfrak m\) の射類群 |
| \(H_K\) | Hilbert 類体、最大不分岐アーベル拡大 |
| \(\A_K\) | アデール環 |
| \(\A_K^\times\) | イデール群 |
| \(C_K\) | イデール類群 \(\A_K^\times/K^\times\) |
| \(\rec_K\) | 相互律写像 |
| \(\Frob_{\mathfrak p}\) | Frobenius 元 |
| \(N_{L/K}\) | ノルム写像 |
| \(U_K^n\) | 局所単数群フィルトレーション \(1+\mathfrak p_K^n\) |
| 導手 | 拡大または指標の分岐の深さを表す最小の法 |
定理一覧
- Dedekind 整域の素イデアル分解
- Minkowski の有限性定理
- 局所 Artin 相互律
- 大域 Artin 相互律
- 存在定理
- 射類体定理
- Hilbert 類体定理
- 導手判別式公式
- Kronecker–Weber 定理
- Hilbert 90 と Brauer 群完全列
15. 学習順序と文献への接続
類体論を実際に習得するには、次の順序が効率的である。
- 代数的整数論:Dedekind 整域、判別式、分岐、類群、単数定理。
- 局所体:付値、完備化、Hensel の補題、局所拡大、分岐群。
- 局所類体論:ノルム群、Hilbert 記号、Lubin–Tate。
- アデール・イデール:制限直積、積公式、イデール類群。
- 大域類体論:Artin 写像、存在定理、射類体。
- 明示計算:円分体、二次体、射類群、Hilbert 類体。
- コホモロジー版:Tate コホモロジー、Brauer 群、基本類。
標準文献としては、Neukirch『Algebraic Number Theory』、Cassels–Fröhlich 編『Algebraic Number Theory』、Serre『Local Fields』、Artin–Tate『Class Field Theory』、Milne の公開ノートなどがある。目的に応じて、計算重視なら Cox『Primes of the Form \(x^2+ny^2\)』、局所重視なら Serre、コホモロジー重視なら Artin–Tate が適している。