Finite Group Theory / 2026-05-21

有限群のシローの定理:証明・計算・応用

シローの定理は、有限群の位数に含まれる素数冪 \(p^a\) を、実際の部分群として群の中に見つけ、さらにそれらが共役であり、個数が強い合同条件を満たすことを述べる定理である。群の構造を「素数ごとの部品」に分解して読むための最初の強力な道具である。

Sylow theoremsfinite groupsgroup actionsnormalizersMathJaxSVGInteractive

1. 核となる見方

シローの定理の本質: 有限群 \(G\) の位数を \(|G|=p^a m\), \(p\nmid m\) と分けると、\(G\) の中には最大の \(p\)-冪部分 \(p^a\) をちょうど位数にもつ部分群が存在し、そのような部分群はすべて共役で、個数は「\(m\) の約数」かつ「\(1\) mod \(p\)」である。

前提となる概念

必要な道具は多くない。中心にあるのは、\(p\)-群、群作用、軌道・固定点、正規化群 \(N_G(P)\) である。

\[ P \leq G,\quad |P|=p^a \quad \Longleftrightarrow \quad P\in\operatorname{Syl}_p(G). \]

読後にできること

群の位数から Sylow 部分群の個数候補を出し、一意性から正規性を判定し、低位数の群の構造・非単純性・半直積の可能性を説明できる。

\[ n_p=|\operatorname{Syl}_p(G)|=[G:N_G(P)],\quad n_p\mid m,\quad n_p\equiv 1\pmod p. \]

直観

ラグランジュの定理は「部分群があれば、その位数は \(|G|\) を割る」と言う。シローの第一定理は、その逆方向の一部、すなわち「\(|G|\) を割る最大の \(p\)-冪については必ず部分群がある」と言う。第二・第三定理は、その部分群がどれだけ一意に近いかを群作用で測る。

\[ \text{Sylow の考え方} = \text{位数の素因数分解} + \text{群作用による軌道分解} + \text{固定点の合同式}. \]

2. 定理の主張

以下、\(G\) を有限群、\(p\) を素数、\(|G|=p^a m\), \(a\ge 0\), \(p\nmid m\) とする。\(a=0\) のときは \(p\)-部分群は自明群だけなので、通常は \(a\ge 1\) を考える。

定義:Sylow \(p\)-部分群

部分群 \(P\le G\) が \(|P|=p^a\) を満たすとき、\(P\) を \(G\) の Sylow \(p\)-部分群という。集合を \(\operatorname{Syl}_p(G)\)、その個数を \(n_p\) と書く。

第一定理:存在

\(G\) には Sylow \(p\)-部分群が存在する。

\[ \operatorname{Syl}_p(G)\ne \varnothing. \]

第二定理:共役性

\(G\) の任意の Sylow \(p\)-部分群は互いに共役である。さらに任意の \(p\)-部分群は、ある Sylow \(p\)-部分群に含まれる。

\[ P,Q\in\operatorname{Syl}_p(G)\Rightarrow Q=gPg^{-1}\quad(\exists g\in G). \]

第三定理:個数

\(n_p\) は \(m\) を割り、かつ \(p\) を法として \(1\) に合同である。

\[ n_p\mid m, \qquad n_p\equiv 1\pmod p. \]

すぐ使う系

一意性と正規性

Sylow \(p\)-部分群 \(P\) について、次は同値である。

\[ n_p=1 \quad\Longleftrightarrow\quad P\trianglelefteq G. \]

理由は、共役部分群の全体が \(\operatorname{Syl}_p(G)\) だからである。

正規化群との公式

\(G\) が \(\operatorname{Syl}_p(G)\) に共役で作用すると、\(P\) の安定化群は \(N_G(P)\) である。

\[ n_p=[G:N_G(P)]. \]

したがって、Sylow 部分群の個数を数えることは正規化群の指数を数えることと同じである。

3. 証明の詳細

シローの定理の証明は、抽象的な分類ではなく、ほぼ群作用の軌道分解でできている。重要な補題を順に置く。

補題 1:\(p\)-群作用の固定点合同式

有限 \(p\)-群 \(P\) が有限集合 \(X\) に作用するとき、固定点集合 \(X^P=\{x\in X: gx=x\ (\forall g\in P)\}\) について

\[ |X|\equiv |X^P|\pmod p \]

が成り立つ。

証明

軌道分解を使う。各軌道の大きさは \([P:P_x]\) であり、これは \(p\) の冪である。軌道の大きさが \(1\) の軌道は固定点、\(1\) より大きい軌道は \(p\) で割り切れる。したがって全体の個数を \(p\) で見れば、固定点だけが残る。

補題 2:Cauchy の定理

素数 \(p\) が \(|G|\) を割るなら、\(G\) には位数 \(p\) の元が存在する。

証明の要点

集合

\[ X=\{(g_1,\ldots,g_p)\in G^p: g_1g_2\cdots g_p=e\} \]

を考える。\(g_1,\ldots,g_{p-1}\) を自由に選ぶと \(g_p\) が決まるので、\(|X|=|G|^{p-1}\) であり、これは \(p\) で割り切れる。巡回群 \(C_p\) は成分の巡回置換で \(X\) に作用する。固定点は \((g,g,\ldots,g)\) で、条件は \(g^p=e\) である。補題 1 より固定点数は \(p\) で割り切れる。恒等元による固定点が 1 個あるので、固定点は少なくとも \(p\) 個あり、非自明な \(g\) が存在する。その \(g\) の位数は \(p\) である。

補題 3:\(p\)-群の中心は非自明

有限 \(p\)-群 \(P\) について \(Z(P)\ne\{e\}\) である。

証明

\(P\) が自分自身に共役で作用する。固定点は中心 \(Z(P)\) である。補題 1 より \(|P|\equiv |Z(P)|\pmod p\)。左辺は \(p\) で割り切れるので、\(|Z(P)|\) も \(p\) で割り切れる。特に \(|Z(P)|\ge p\) である。

第一定理の証明:存在

\(|G|\) に関する帰納法で示す。\(|G|=p^a m\), \(p\nmid m\) とする。

場合 1: \(p\mid |Z(G)|\)。Cauchy の定理により、中心 \(Z(G)\) に位数 \(p\) の部分群 \(C\) がある。\(C\trianglelefteq G\) であり、商群 \(G/C\) の位数は \(p^{a-1}m\) である。帰納法により \(G/C\) に位数 \(p^{a-1}\) の部分群があり、その逆像は \(G\) の位数 \(p^a\) の部分群である。

場合 2: \(p\nmid |Z(G)|\)。共役類分解、すなわち類等式

\[ |G|=|Z(G)|+\sum_i [G:C_G(x_i)] \]

を使う。ここで \(x_i\) は非中心的な共役類の代表である。もしすべての \(C_G(x_i)\) の位数の \(p\)-冪部分が \(p^a\) より小さければ、すべての指数 \([G:C_G(x_i)]\) は \(p\) で割り切れる。すると右辺を \(p\) で見たとき \(|G|\equiv |Z(G)|\not\equiv 0\pmod p\) となり矛盾する。したがってある \(x_i\) について \(C_G(x_i)\) は \(p^a\) で割り切れる位数を持つ。\(x_i\) は非中心的なので \(C_G(x_i)\lt G\)。帰納法により \(C_G(x_i)\) に位数 \(p^a\) の部分群が存在し、それは \(G\) の Sylow \(p\)-部分群である。

第二定理の証明:包含と共役性

\(P\in\operatorname{Syl}_p(G)\) を固定し、\(Q\le G\) を任意の \(p\)-部分群とする。\(Q\) を左移動により剰余類集合 \(G/P\) に作用させる。

\(|G/P|=m\) は \(p\) で割り切れない。補題 1 より固定点が存在する。つまりある \(gP\in G/P\) について、すべての \(q\in Q\) が \(qgP=gP\) を満たす。これは

\[ g^{-1}Qg\le P \]

を意味する。したがって任意の \(p\)-部分群は、ある Sylow \(p\)-部分群に含まれる。特に \(Q\) も Sylow \(p\)-部分群なら、両辺の位数が同じなので \(g^{-1}Qg=P\)、すなわち \(Q=gPg^{-1}\) である。

第三定理の証明:個数条件

\(G\) は \(\operatorname{Syl}_p(G)\) に共役で作用する。第二定理によりこの作用は推移的で、\(P\) の安定化群は正規化群 \(N_G(P)\) である。よって軌道・安定化群定理から

\[ n_p=|\operatorname{Syl}_p(G)|=[G:N_G(P)]. \]

しかも \(P\le N_G(P)\) なので、\([G:N_G(P)]\) は \([G:P]=m\) を割る。これで \(n_p\mid m\) が得られる。

次に、\(P\) 自身を使って \(\operatorname{Syl}_p(G)\) に共役で作用させる。補題 1 より \(n_p\equiv |\operatorname{Syl}_p(G)^P|\pmod p\)。\(P\) によって固定される Sylow 部分群 \(Q\) は \(P\le N_G(Q)\) を満たす。\(N_G(Q)\) の中で \(Q\) は正規な Sylow \(p\)-部分群なので一意であり、同じ位数の \(P\) も \(N_G(Q)\) の Sylow \(p\)-部分群だから \(P=Q\) である。したがって固定点は \(P\) ただ 1 つであり、

\[ n_p\equiv 1\pmod p \]

が従う。

4. 図で見る

シローの定理は、位数の素因数分解から出発して、群作用の固定点を使い、最後に正規性や構造へ流れる。

DOT グラフ:証明の依存関係

ノードと矢印の構造そのものを見たい場合は DOT を編集して描画できる。Graphviz が読み込めない環境では DOT ソースが表示される。

5. インタラクティブ確認

群の位数 \(|G|\) と素数 \(p\) を入力すると、\(p^a\parallel |G|\)、Sylow \(p\)-部分群の位数、個数 \(n_p\) の候補を計算する。

注意:ここで得るのは「任意の群に対して許される候補」であり、同じ位数のすべての群で同じ個数になるとは限らない。たとえば位数 60 では \(n_5=1\) も \(n_5=6\) も条件上は可能で、\(A_5\) では \(n_5=6\) である。

6. 具体例

例 1:\(|G|=6=2\cdot 3\)

\(p=3\) について、\(n_3\mid 2\) かつ \(n_3\equiv 1\pmod 3\)。候補は \(1\) だけなので、Sylow 3-部分群は正規である。

一方、\(n_2\mid 3\), \(n_2\equiv 1\pmod 2\) なので \(n_2=1\) または \(3\)。\(C_6\) では \(n_2=1\)、\(S_3\) では \(n_2=3\) である。

例 2:\(|G|=15=3\cdot 5\)

\(n_5\mid 3\), \(n_5\equiv1\pmod5\) より \(n_5=1\)。また \(n_3\mid5\), \(n_3\equiv1\pmod3\) より \(n_3=1\)。両 Sylow 部分群が正規で、互いに位数が互いに素なので \(G\cong C_{15}\) となる。

例 3:\(|G|=12=2^2\cdot 3\)

\(n_3\mid4\), \(n_3\equiv1\pmod3\) より \(n_3=1\) または \(4\)。\(A_4\) では \(n_3=4\) であり、Sylow 3-部分群は正規でない。代わりに Sylow 2-部分群 \(V_4\) が正規である。

例 4:\(S_4\) の Sylow 2-部分群

\(|S_4|=24=2^3\cdot3\) なので Sylow 2-部分群の位数は \(8\)。正方形の対称群として現れる \(D_8\) 型の部分群が例である。\(n_2\mid3\), \(n_2\equiv1\pmod2\) より \(n_2=1\) または \(3\) で、実際には \(3\) 個ある。

例 5:\(A_5\) と境界例

\(|A_5|=60=2^2\cdot3\cdot5\)。\(A_5\) では \(n_5=6\)、\(n_3=10\)、\(n_2=5\) であり、どの Sylow 部分群も正規でない。これは「Sylow だけで必ず正規部分群が見つかる」とは限らないことを示す重要な境界例である。

例 6:アーベル群

有限アーベル群では、すべての部分群が正規である。特に各素数 \(p\) について Sylow \(p\)-部分群は一意で、群は \(p\)-primary 成分の直積に分解する。

\[ G\cong \prod_{p\mid |G|} G_p. \]

7. 応用集

シローの定理の威力は、抽象的な存在定理で終わらず、群の構造をかなり具体的に制限できるところにある。

応用 1:正規 Sylow 部分群を見つける

最も直接的な使い方は、\(n_p\mid m\) と \(n_p\equiv1\pmod p\) を同時に満たす数が \(1\) しかないことを示す方法である。

群の位数見る素数候補結論
\(10=2\cdot5\)\(5\)\(n_5\mid2\), \(n_5\equiv1\pmod5\) なので \(1\)Sylow 5-部分群は正規
\(21=3\cdot7\)\(7\)\(n_7\mid3\), \(n_7\equiv1\pmod7\) なので \(1\)Sylow 7-部分群は正規
\(45=3^2\cdot5\)\(5\)\(n_5\mid9\), \(n_5\equiv1\pmod5\) なので \(1\)単純群ではない
\(99=3^2\cdot11\)\(11\)\(n_{11}\mid9\), \(n_{11}\equiv1\pmod{11}\) なので \(1\)単純群ではない

応用 2:位数 \(pq\) の群

\(p

さらに \(p\nmid(q-1)\) なら、Sylow \(p\)-部分群も正規になり、\(G\cong C_p\times C_q\cong C_{pq}\) である。\(p\mid(q-1)\) の場合は非可換な半直積 \(C_q\rtimes C_p\) が存在する可能性がある。たとえば \(|G|=21\) では \(3\mid6\) なので非可換例がある。

応用 3:直積分解

\(H,K\trianglelefteq G\)、\(|H|\) と \(|K|\) が互いに素、\(HK=G\) なら \(H\cap K=\{e\}\) で、さらに \([H,K]\subseteq H\cap K\) だから \(H\) と \(K\) は互いに可換である。したがって \(G\cong H\times K\)。

シローの定理で複数の Sylow 部分群が一意と分かると、この直積分解がすぐに使える。位数 \(15\), \(33\), \(35\) の群が巡回群になることは典型例である。

応用 4:半直積の構成可能性

\(|G|=pq\), \(p

\[ P\longrightarrow \operatorname{Aut}(Q)\cong C_{q-1} \]

で制御される。非自明な作用があるのは \(p\mid(q-1)\) のときである。これは「Sylow により正規部分群を見つけ、自己同型群で半直積を分類する」という基本パターンである。

応用 5:単純性の否定

非自明な正規 Sylow 部分群があれば、その群は単純でない。たとえば位数 \(45\), \(63\), \(99\) の群では最大素数側の Sylow 部分群が一意になり、単純群ではない。

位数 \(30\) の群も単純ではない。もし \(n_5=6\) かつ \(n_3=10\) なら、位数 5 の非単位元が \(6(5-1)=24\) 個、位数 3 の非単位元が \(10(3-1)=20\) 個あり、単位元を足すと \(45\) 個を超える。よって少なくとも一方の Sylow 部分群は正規である。

応用 6:作用 \(G\to S_{n_p}\) による単純性検査

\(G\) は \(\operatorname{Syl}_p(G)\) に共役で作用するので、準同型

\[ \varphi:G\longrightarrow S_{n_p} \]

を得る。\(G\) が単純なら、\(\ker\varphi\) は \(1\) または \(G\) である。たとえば \(|G|=36\) では \(n_3=1\) または \(4\)。\(n_3=1\) なら正規部分群がある。\(n_3=4\) なら \(G\to S_4\) があるが、\(|G|=36\) は \(|S_4|=24\) を割らないので単射になれない。したがって単純ではない。

応用 7:元の個数を数える

異なる Sylow \(p\)-部分群の交わりが小さい場合、元の個数を数えて矛盾を出せる。\(A_5\) では Sylow 5-部分群は位数 5 の巡回群で、各部分群に非単位元が 4 個ある。\(n_5=6\) なので 5-サイクル型の元は \(24\) 個である。

応用 8:正規化群を計算する

公式 \(n_p=[G:N_G(P)]\) は、個数から正規化群の位数を計算する道具である。たとえば \(A_5\) で \(n_5=6\) なら

\[ |N_{A_5}(P)|=\frac{|A_5|}{6}=10. \]

正規化群は「その Sylow 部分群を共役で保つ元」の集合であり、部分群の対称性を測る。

応用 9:\(p\)-群の構造

シローの定理と同じ固定点発想により、有限 \(p\)-群は中心が非自明である。これにより、位数 \(p^2\) の群は必ずアーベルである。実際、中心が全体でなければ \(|Z(G)|=p\) となるが、このとき \(G/Z(G)\) は位数 \(p\) の巡回群なので \(G\) はアーベルとなり矛盾する。

応用 10:有限アーベル群の \(p\)-primary 分解

有限アーベル群では Sylow 部分群がすべて正規かつ一意であるため、

\[ G=\prod_{p\mid |G|} G_p, \qquad G_p=\{x\in G: x^{p^k}=e\text{ for some }k\}. \]

これは有限アーベル群の基本定理へ進む入口である。

応用 11:対称群の Sylow 部分群

\(S_n\) の Sylow \(p\)-部分群の位数は、\(n!\) に含まれる \(p\) の指数

\[ v_p(n!)=\left\lfloor\frac{n}{p}\right\rfloor+\left\lfloor\frac{n}{p^2}\right\rfloor+\left\lfloor\frac{n}{p^3}\right\rfloor+\cdots \]

で決まる。たとえば \(S_4\) の Sylow 2-部分群は位数 \(2^3=8\) で、正方形の対称群 \(D_8\) と同型な部分群として見える。

応用 12:交代群 \(A_5\) の理解

\(A_5\) は位数 60 の単純群であり、Sylow の個数計算はその内部構造を可視化する。\(n_5=6\) は 5-サイクルの配置、\(n_3=10\) は 3-サイクルの配置、\(n_2=5\) は Klein 四元群型の部分群の配置を反映する。Sylow の定理は単純性の証明そのものではないが、共役類と組み合わせると強力である。

応用 13:ガロア理論での中間体

有限ガロア拡大 \(L/K\) のガロア群 \(G\) に Sylow \(p\)-部分群 \(P\) を取ると、固定体 \(L^P\) は \([L:L^P]=|P|=p^a\) を満たす。\(P\trianglelefteq G\) なら \(L^P/K\) はガロア拡大である。つまり Sylow 部分群は拡大の \(p\)-冪部分を切り出す道具になる。

応用 14:有限線形群の \(p\)-部分

有限体 \(\mathbb{F}_q\) 上の \(GL_n(\mathbb{F}_q)\) では、標数 \(p\) に関する Sylow \(p\)-部分群は上三角単位行列群と深く関係する。これは有限 Lie 型群や表現論で、ユニポテント部分群を理解する入口になる。

応用 15:計算機代数での探索

GAP などの計算機代数では、Sylow 部分群、正規化群、共役類を計算して群を解析する。理論的には \(n_p=[G:N_G(P)]\) が基礎であり、実装上も「代表を取り、正規化群と共役作用を調べる」という発想が中心になる。

8. よくある誤解

誤解 1:\(n_p\) の候補が複数あっても実際に全部起こるとは限らない

シローの第三定理は必要条件を与える。十分条件ではない。候補が \(1,6\) でも、特定の位数の群で必ず両方が実現するとは限らない。

誤解 2:Sylow 部分群が存在すれば正規とは限らない

正規性は一意性と同値である。\(S_3\) の Sylow 2-部分群や \(A_4\) の Sylow 3-部分群は存在するが正規でない。

誤解 3:Sylow の定理だけで群が分類できるわけではない

低位数では非常に強いが、一般には半直積、自己同型群、群拡大、表現など追加の情報が必要になる。

誤解 4:\(p\)-部分群と Sylow \(p\)-部分群を混同しない

\(p\)-部分群は位数が \(p\) の冪である部分群。Sylow \(p\)-部分群はその中で位数が最大、つまり \(|G|\) に含まれる最大の \(p\)-冪 \(p^a\) を持つ部分群である。

9. 演習

基本 1:位数 20 の群

問題: \(|G|=20\) とする。Sylow 5-部分群が正規であることを示せ。

解答: \(20=2^2\cdot5\)。\(n_5\mid4\) かつ \(n_5\equiv1\pmod5\)。約数 \(1,2,4\) のうち \(1\pmod5\) なのは \(1\) だけ。よって \(n_5=1\) で正規。

基本 2:位数 33 の群

問題: \(|G|=33\) の群は巡回群であることを示せ。

解答: \(n_{11}\mid3\), \(n_{11}\equiv1\pmod{11}\) より \(n_{11}=1\)。また \(n_3\mid11\), \(n_3\equiv1\pmod3\) より \(n_3=1\)。両 Sylow 部分群は正規で、位数 3 と 11 の巡回群である。互いに可換し、直積 \(C_3\times C_{11}\cong C_{33}\)。

基本 3:\(S_3\) の Sylow 部分群

問題: \(S_3\) の Sylow 2-部分群と Sylow 3-部分群の個数を求めよ。

解答: \(|S_3|=6\)。Sylow 3-部分群は \(A_3\) で一意、\(n_3=1\)。Sylow 2-部分群は各互換が生成する 3 個の部分群で、\(n_2=3\)。

標準 4:位数 30 の群は単純でない

問題: \(|G|=30\) の群が単純でないことを示せ。

解答: \(n_5=1\) または \(6\)、\(n_3=1\) または \(10\)。もしどちらも 1 でなければ、Sylow 5-部分群の非単位元が \(6\cdot4=24\) 個、Sylow 3-部分群の非単位元が \(10\cdot2=20\) 個あり、単位元を加えて 30 を超える。したがって少なくとも一方が一意で正規。

標準 5:位数 36 の群は単純でない

問題: \(|G|=36\) の群が単純でないことを、Sylow 3-部分群への共役作用を使って示せ。

解答: \(36=2^2\cdot3^2\)。\(n_3\mid4\), \(n_3\equiv1\pmod3\) より \(n_3=1\) または \(4\)。\(n_3=1\) なら正規 Sylow 部分群がある。\(n_3=4\) なら \(G\) は 4 個の Sylow 3-部分群に作用し、準同型 \(G\to S_4\) を得る。単純だと仮定すると核は自明または全体。作用は推移的なので核は全体ではない。一方、核が自明なら \(G\) は \(S_4\) に埋め込まれるが、36 は 24 を割らないので不可能。よって単純でない。

発展 6:位数 \(pq\) の群

問題: \(p

解答: Sylow \(q\)-部分群は常に正規。Sylow \(p\)-部分群の個数は \(q\) を割り、\(1\pmod p\)。候補は \(1\) または \(q\)。しかし \(q\equiv1\pmod p\) は \(p\mid(q-1)\) と同値なので、仮定より \(q\) は候補でない。よって両 Sylow 部分群が正規で、直積 \(C_p\times C_q\cong C_{pq}\)。

発展 7:\(A_5\) の個数

問題: \(A_5\) の Sylow 5-部分群の個数を求めよ。

解答: \(A_5\) の 5-サイクルは \(S_5\) と同じく \((5-1)!=24\) 個あり、各 Sylow 5-部分群 \(C_5\) は非単位の 5-サイクルを 4 個含む。したがって \(n_5=24/4=6\)。これは \(n_5\mid12\), \(n_5\equiv1\pmod5\) と一致する。

10. まとめ

  • シローの定理は、有限群 \(G\) の中に、\(|G|\) の最大 \(p\)-冪部分を実現する部分群が必ず存在することを保証する。
  • そのような Sylow \(p\)-部分群はすべて共役であり、任意の \(p\)-部分群はどれかの Sylow \(p\)-部分群に入る。
  • 個数 \(n_p\) は \(n_p\mid m\) かつ \(n_p\equiv1\pmod p\) を満たす。特に \(n_p=1\) なら正規部分群が得られる。
  • 応用の中心は、正規性判定、低位数群の構造決定、単純性の否定、半直積の構成、正規化群の計算である。