Finite Group Theory / 2026-05-21

モンスター群 \( \mathbb{M} \):有限単純群・Griess 代数・ムーンシャインの詳細レポート

モンスター群は、26 個の散在有限単純群の最大のものとして現れるだけでなく、 196884 次元の Griess 代数、頂点作用素代数 \(V^\natural\)、モジュラー関数 \(J(\tau)\) の係数、 Leech 格子、Golay 符号、Parker loop と結びつく。ここでは、群論の基本命題を完全証明し、 モンスター群に固有の深い定理は文献定理として依存関係を明示しながら、具体例と計算で全体像をつかむ。

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1. 核となる見方

持ち帰るべき一文。 モンスター群 \( \mathbb{M} \) は「巨大な有限単純群」というだけでなく、 有限群論・組合せ論・格子・頂点作用素代数・モジュラー関数を同時に動かす対称性である。
証明の扱いについて。 本レポートでは、本文中で使う群論の基本命題、計算式、具体例は証明を省略せずに示す。 一方、Griess による存在構成、Frenkel–Lepowsky–Meurman による \(V^\natural\) の構成、 Borcherds による Conway–Norton 予想の証明、最大部分群分類などは、原論文・専門書全体を要する文献定理である。 それらは「文献定理」として明示し、どこで使われるかを分離する。

対象

モンスター群を \( \mathbb{M} \) と書く。位数は

\[ \begin{aligned} |\mathbb{M}|={}&2^{46}3^{20}5^97^6 11^2 13^3 17\,19\,23\,29\,31\,41\,47\,59\,71\\ ={}&808017424794512875886459904961710757005754368000000000. \end{aligned} \]

これは約 \(8.08\times 10^{53}\) であり、有限単純群の分類で現れる 26 個の散在群のうち最大のものとして知られる。

読後にできること

  • 単純群、中心、共役類、中心化群、自己同型群の役割を説明できる。
  • \(|\mathbb{M}|\) の素因数分解、2A・2B 共役類サイズ、Moonshine 係数分解を検算できる。
  • \(A_5\) を小さな模型として、単純性の証明を完全に追える。
  • Griess 代数と \(V^\natural\) が「モンスターの自然な置き場所」であることを把握できる。

1.1 まず群論の言葉を固定する

定義 1(群・部分群・正規部分群・単純群)。 集合 \(G\) と二項演算 \(G\times G\to G,\ (x,y)\mapsto xy\) が次を満たすとき、 \(G\) を群という。
  1. 結合律:\((xy)z=x(yz)\)。
  2. 単位元:ある \(1\in G\) があり、任意の \(x\in G\) について \(1x=x1=x\)。
  3. 逆元:任意の \(x\in G\) について、ある \(x^{-1}\in G\) があり、\(xx^{-1}=x^{-1}x=1\)。
部分集合 \(H\subseteq G\) が同じ演算で群になるとき \(H\leq G\) と書く。 \(N\leq G\) が任意の \(g\in G\) について \(gNg^{-1}=N\) を満たすとき \(N\trianglelefteq G\) と書く。 \(G\neq 1\) で、正規部分群が \(1\) と \(G\) しかない群を単純群という。
命題 1(同型の視点)。 単純群は、群の「正規部分群による分解」に関して素因子のような役割を持つ。 具体的には、準同型 \( \varphi:G\to H \) の核 \( \ker\varphi\) は正規部分群である。 したがって \(G\) が単純群なら、任意の準同型 \(\varphi:G\to H\) は \(\ker\varphi=G\) すなわち自明、または \(\ker\varphi=1\) すなわち単射である。
証明

核は \(\ker\varphi=\{g\in G\mid \varphi(g)=1_H\}\) である。 \(a,b\in\ker\varphi\) とすると \[ \varphi(ab^{-1})=\varphi(a)\varphi(b)^{-1}=1_H1_H^{-1}=1_H \] なので \(ab^{-1}\in\ker\varphi\)。ゆえに部分群判定法により \(\ker\varphi\leq G\)。 任意の \(x\in G\) と \(k\in\ker\varphi\) について \[ \varphi(xkx^{-1})=\varphi(x)\varphi(k)\varphi(x)^{-1} =\varphi(x)1_H\varphi(x)^{-1}=1_H \] なので \(xkx^{-1}\in\ker\varphi\)。したがって \(\ker\varphi\trianglelefteq G\)。 \(G\) が単純なら正規部分群は \(1\) と \(G\) だけである。 \(\ker\varphi=G\) なら任意の \(g\) で \(\varphi(g)=1_H\) だから自明準同型。 \(\ker\varphi=1\) なら \(\varphi(g)=\varphi(g')\) から \(1_H=\varphi(g)\varphi(g')^{-1}=\varphi(gg'^{-1})\)、 よって \(gg'^{-1}\in\ker\varphi=1\) なので \(g=g'\)。したがって単射である。

1.2 モンスター群の三つの顔

有限単純群としての顔

有限単純群の分類では、可換な巡回素数位数群、交代群、Lie 型群、そして 26 個の散在群が現れる。 \(\mathbb{M}\) は散在群の最大のものとして現れる。

Griess 代数の対称性としての顔

文献定理として、\(\mathbb{M}\) は 196884 次元の可換非結合代数 \(A\) の自己同型群として構成される。この \(A\) を Griess 代数と呼ぶ。

ムーンシャインの顔

\(J(\tau)=j(\tau)-744=q^{-1}+196884q+21493760q^2+\cdots\) の係数が、 \(\mathbb{M}\) の表現の次元として現れる。これが monstrous moonshine の入口である。

1.3 文献定理として使う大定理

文献定理 A(Griess)。 196884 次元の実可換非結合代数 \(A\) が存在し、 \(\operatorname{Aut}(A)\cong \mathbb{M}\) である。この構成によりモンスター群の存在が示される。
文献定理 B(Frenkel–Lepowsky–Meurman)。 頂点作用素代数 \(V^\natural\) が構成され、その自己同型群は \(\operatorname{Aut}(V^\natural)\cong\mathbb{M}\) である。 また \(V^\natural\) の次数 2 部分は Griess 代数と対応する。
文献定理 C(Borcherds)。 Conway–Norton の monstrous moonshine 予想、すなわち \(g\in\mathbb{M}\) に対する McKay–Thompson 級数が対応する genus zero 型のモジュラー関数になるという主張が証明される。

2. 図で見る

モンスター群は一つの定義から直線的に理解するより、複数の構成が同じ対象を指していると見る方が分かりやすい。 次の図では、有限単純群論から Griess 代数、頂点作用素代数、モジュラー関数までの流れをまとめる。

DOT グラフ:依存関係を編集して描く

下の DOT ソースを編集すると、理解した依存関係を自分で可視化できる。 読み込めない環境では DOT ソースがそのまま確認用メモになる。

3. インタラクティブ確認

抽象論を手元で確認するため、位数、共役類サイズ、Moonshine 係数、\(A_5\) の単純性証明を計算できるようにした。

3.1 位数の厳密検算

素因数分解から BigInt で積を計算する。結果が下の十進表示と一致すれば検算成功である。

対象の十進表示:

808017424794512875886459904961710757005754368000000000

3.2 中心化群から共役類サイズを計算する

共役類のサイズは \(|\operatorname{Cl}_{G}(x)|=|G|/|C_G(x)|\) で与えられる。 証明は §5.3 に載せる。

3.3 Moonshine 係数の表現次元分解

\(\mathbb{M}\) の既約表現次元の最初のいくつかを \[ r_1=1,\quad r_2=196883,\quad r_3=21296876,\quad r_4=842609326,\quad r_5=18538750076,\quad r_6=19360062527,\quad r_7=293553734298 \] と書くと、\(J(\tau)\) の係数に次のような分解が見える。

3.4 \(A_5\) の単純性:共役類和の検算

小さな模型として \(A_5\) を使う。正規部分群は共役類の和集合なので、 単位元を含む共役類サイズの和が部分群の位数にならなければならない。

単位元の類サイズ \(1\) に、以下の共役類サイズを足す。

4. 具体例

4.1 小さな単純群 \(A_5\):モンスターの模型

例 1。 \(A_5\) は 5 文字の偶置換全体からなる群で、位数は \(60\)。 \(\mathbb{M}\) と比べると極端に小さいが、「非可換単純群が共役類で制御される」ことを最も手で見やすい例である。
\(A_5\) の単純性の完全証明

\(S_5\) の偶置換全体を \(A_5\) とする。 \(S_5\) の位数は \(5!=120\)。符号準同型 \(\operatorname{sgn}:S_5\to\{\pm1\}\) は全射で、核が \(A_5\) である。 よって第一同型定理から \(|A_5|=|S_5|/2=60\)。

\(A_5\) の元の型を調べる。偶置換は次の型に分かれる。

  • 単位元:1 個。
  • 3-cycle:\((abc)\)。選び方は \(\binom{5}{3}=10\)、各 3 点上に 2 個の 3-cycle があるので \(20\) 個。
  • double transposition:\((ab)(cd)\)。5 文字のうち固定点を 1 つ選び、残り 4 点の分割を 3 通り選ぶので \(5\cdot3=15\) 個。
  • 5-cycle:\(S_5\) では \((5-1)!=24\) 個。

これで合計 \(1+20+15+24=60\) である。次に \(A_5\) 内の共役類サイズを求める。 共役類サイズは \(|A_5|/|C_{A_5}(x)|\) である。 3-cycle \(x=(123)\) の \(S_5\) における中心化群は \(\langle(123)\rangle\times\langle(45)\rangle\) で位数 \(6\)。 そのうち偶置換は \(\langle(123)\rangle\) の 3 個だけなので \(|C_{A_5}(x)|=3\)、従って 3-cycle の \(A_5\)-共役類は \(60/3=20\) 個。

double transposition \(y=(12)(34)\) の \(A_5\) 中の中心化群には \[ 1,\quad (12)(34),\quad (13)(24),\quad (14)(23) \] が含まれる。これらは互いに \(y\) と可換で位数 4 の Klein 群をなす。 \(A_5\) 内で \(y\) と可換な元は、\(y\) の 2 点軌道 \(\{1,2\},\{3,4\}\) と固定点 \(\{5\}\) の構造を保たなければならず、 上の 4 個以外は生じない。したがって \(|C_{A_5}(y)|=4\)、類サイズは \(60/4=15\)。

5-cycle \(z=(12345)\) の \(S_5\) における中心化群は \(\langle z\rangle\) で位数 \(5\)。 5-cycle の冪 \(z,z^2,z^3,z^4\) はすべて偶置換なので \(|C_{A_5}(z)|=5\)。従って \(A_5\)-共役類サイズは \(60/5=12\)。 5-cycle は合計 24 個なので、\(A_5\) では 12 個ずつの 2 つの共役類に分裂する。

よって \(A_5\) の共役類サイズは \[ 1,\quad 20,\quad 15,\quad 12,\quad 12 \] である。任意の正規部分群 \(N\trianglelefteq A_5\) は共役で閉じている。 つまり \(x\in N\) なら \(g x g^{-1}\in N\) なので、\(N\) は共役類の和集合である。 また Lagrange の定理により \(|N|\) は 60 を割る。 \(N\) が非自明なら単位元の類 1 に加えて、上の \(20,15,12,12\) の一部を足した数が \(|N|\) である。 可能な和を確認すると \[ \begin{gathered} 1+12=13,\quad 1+15=16,\quad 1+20=21,\quad 1+12+12=25,\\ 1+15+12=28,\quad 1+20+12=33,\quad 1+15+20=36,\\ 1+15+12+12=40,\quad 1+20+12+12=45,\quad 1+15+20+12=48 \end{gathered} \] であり、いずれも 60 を割らない。すべてを足すと \(1+20+15+12+12=60\)。 従って正規部分群は \(\{1\}\) と \(A_5\) だけである。よって \(A_5\) は単純群である。

4.2 モンスターの位数:素数の一覧が示す情報

例 2。 \(|\mathbb{M}|\) の素因数に現れる最大素数は \(71\) である。 これは「任意の元の位数が 71 以下」という意味ではない。 有限群の元の位数は位数の約数でなければならないが、複数の素数が組み合わさった約数もありうる。 ただし、Cauchy の定理により、各素数 \[ 2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,41,47,59,71 \] について \(\mathbb{M}\) にはその位数の元が存在する。
Cauchy の定理の証明

有限群 \(G\) の位数を素数 \(p\) が割るとする。集合 \[ X=\{(x_1,\dots,x_p)\in G^p\mid x_1x_2\cdots x_p=1\} \] を考える。最初の \(p-1\) 個を自由に選ぶと \(x_p=(x_1x_2\cdots x_{p-1})^{-1}\) と一意に定まるので \(|X|=|G|^{p-1}\) であり、これは \(p\) で割り切れる。

\(C_p\) が巡回的に座標を回す作用 \[ (x_1,\dots,x_p)\mapsto(x_2,\dots,x_p,x_1) \] を \(X\) 上に持つことを確認する。 非可換群では積の順序が問題に見えるが、 \(x_1x_2\cdots x_p=1\) なら \(x_1^{-1}=x_2\cdots x_p\) であり、 \[ x_2x_3\cdots x_p x_1=(x_2\cdots x_p)x_1=x_1^{-1}x_1=1 \] なので回転後も \(X\) に入る。

この作用の軌道サイズは \(1\) または \(p\) である。 固定点は \((x,x,\dots,x)\) の形で、条件は \(x^p=1\)。 固定点の少なくとも一つは \((1,\dots,1)\)。 もしこれが唯一の固定点なら、\(|X|\equiv1\pmod p\) となる。 しかし \(|X|=|G|^{p-1}\equiv0\pmod p\) で矛盾。 よって \(x\neq1\) かつ \(x^p=1\) となる \(x\in G\) が存在する。 \(p\) が素数で \(x\neq1\) だから \(x\) の位数は \(p\) である。

4.3 2A と 2B:同じ位数 2 でも別の共役類

例 3。 \(\mathbb{M}\) には involution、すなわち位数 2 の元の代表的な共役類として 2A と 2B がある。それぞれの中心化群は大きく異なる。
中心化群の構造中心化群の位数共役類サイズ
2A \(2.B\)(Baby Monster の二重被覆を含む) 8,309,562,962,452,852,382,355,161,088,000,000 97,239,461,142,009,186,000
2B \(2^{1+24}.\mathrm{Co}_1\) 139,511,839,126,336,328,171,520,000 5,791,748,068,511,982,636,944,259,375
表の共役類サイズの計算

§5.3 で証明する公式 \[ |\operatorname{Cl}_{G}(x)|=\frac{|G|}{|C_G(x)|} \] を \(G=\mathbb{M}\) に適用する。2A では \[ \frac{808017424794512875886459904961710757005754368000000000} {8309562962452852382355161088000000} = 97239461142009186000. \] 2B では \[ \frac{808017424794512875886459904961710757005754368000000000} {139511839126336328171520000} = 5791748068511982636944259375. \] どちらも整数になる。これは中心化群が実際に群内部分群であることとも整合する。

4.4 Griess 代数:196884 次元がなぜ 196883 と 1 に分かれるか

例 4。 Griess 代数 \(A\) は単位元を持つ 196884 次元の可換非結合代数であり、 \(\mathbb{M}\) が代数自己同型として作用する。 代数自己同型は単位元を固定するので、\(\mathbb{R}1_A\) は 1 次元の不変部分空間になる。 残りの 196883 次元部分が、モンスター群の最小非自明複素表現次元として現れる。
代数自己同型が単位元を固定する証明

\(A\) を単位元 \(1_A\) を持つ代数とし、\(\phi:A\to A\) を代数自己同型とする。 つまり \(\phi\) は全単射線形写像で、任意の \(a,b\in A\) について \(\phi(ab)=\phi(a)\phi(b)\) を満たす。 任意の \(y\in A\) を取る。全射性により、ある \(x\in A\) が存在して \(y=\phi(x)\)。 すると \[ \phi(1_A)y=\phi(1_A)\phi(x)=\phi(1_Ax)=\phi(x)=y \] かつ同様に \[ y\phi(1_A)=\phi(x)\phi(1_A)=\phi(x1_A)=\phi(x)=y. \] よって \(\phi(1_A)\) は \(A\) の単位元として振る舞う。単位元は一意なので \(\phi(1_A)=1_A\)。

したがって \(\mathbb{R}1_A\) は \(\mathbb{M}\)-不変な 1 次元部分空間である。 \(A\) の次元が 196884 なので、線形補空間の次元は \[ 196884-1=196883. \] 文献定理として、この補空間はモンスターの最小非自明表現と結びつく。

4.5 Moonshine の最初の数値

例 5。 正規化された \(J\)-不変量を \[ J(\tau)=j(\tau)-744=q^{-1}+196884q+21493760q^2+864299970q^3+\cdots \] とする。最初の係数には \[ 196884=1+196883 \] という驚くほど単純な分解がある。
\(J(\tau)\) の係数\(\mathbb{M}\) の既約表現次元による分解
196884\(r_1+r_2=1+196883\)
21493760\(r_1+r_2+r_3=1+196883+21296876\)
864299970\(2r_1+2r_2+r_3+r_4\)
20245856256\(3r_1+3r_2+r_3+2r_4+r_5\)
333202640600\(5r_1+5r_2+2r_3+3r_4+2r_5+r_7\)
表の算術検算

\(r_1=1,r_2=196883,r_3=21296876,r_4=842609326,r_5=18538750076,r_7=293553734298\) とする。 まず \[ r_1+r_2=1+196883=196884. \] 次に \[ r_1+r_2+r_3=1+196883+21296876=21493760. \] さらに \[ 2r_1+2r_2+r_3+r_4 =2+393766+21296876+842609326 =864299970. \] また \[ \begin{aligned} 3r_1+3r_2+r_3+2r_4+r_5 &=3+590649+21296876+1685218652+18538750076\\ &=20245856256. \end{aligned} \] 最後に \[ \begin{aligned} 5r_1+5r_2+2r_3+3r_4+2r_5+r_7 &=5+984415+42593752+2527827978\\ &\quad +37077500152+293553734298\\ &=333202640600. \end{aligned} \] これらは、\(V^\natural\) の次数付き成分が \(\mathbb{M}\)-表現として分解されるという Moonshine の数値的入口である。

4.6 計算機で触る例:GAP と mmgroup

例 6。 モンスターそのものは小さな置換表現や行列表現で気軽に扱える群ではない。 しかし、GAP の Character Table Library では ATLAS に由来する文字表データを扱える。 また、Seysen の mmgroup は Conway 型の構成を計算可能な形で実装し、モンスター内の元を語として表す。
# GAP で文字表を読む典型例
LoadPackage("ctbllib");
t := CharacterTable("M");;
Size(t);                    # Monster の位数
NrConjugacyClasses(t);      # 共役類数
Irr(t)[1];                  # 既約文字の一部

# Python / mmgroup の概念例(環境によりインストールが必要)
from mmgroup import MM0
g = MM0('r')                # ランダム元の生成例
h = MM0('r')
k = g * h                   # Monster 内の積
k.order()                   # 元の位数を計算

注意:上のコードは環境依存であり、この HTML 内では実行しない。計算可能性のイメージを示すための例である。

5. 証明集

この節では、本レポートで使った群論の命題を省略せずに証明する。 文献定理 A–C のような専門的構成定理はここでは再証明せず、依存関係だけを明示する。

5.1 Lagrange の定理

定理 1(Lagrange)。 \(G\) を有限群、\(H\leq G\) とする。このとき \(|H|\) は \(|G|\) を割り、 \[ |G|=[G:H]|H| \] が成り立つ。
証明

\(g\in G\) に対し左剰余類を \(gH=\{gh\mid h\in H\}\) と定義する。 写像 \(H\to gH,\ h\mapsto gh\) は全射であり、もし \(gh_1=gh_2\) なら左から \(g^{-1}\) を掛けて \(h_1=h_2\) なので単射である。従って各剰余類のサイズは \(|H|\)。

任意の \(a,b\in G\) について、剰余類 \(aH,bH\) は互いに等しいか交わらない。 実際、ある \(x\in aH\cap bH\) があれば \(x=ah_1=bh_2\)。 すると \(a=bh_2h_1^{-1}\in bH\) であり、任意の \(ah\in aH\) について \(ah=b(h_2h_1^{-1}h)\in bH\) だから \(aH\subseteq bH\)。 同様に \(bH\subseteq aH\) なので等しい。

\(G\) は互いに交わらない左剰余類の和集合に分割され、各剰余類のサイズは \(|H|\)。 剰余類の個数を \([G:H]\) と書けば \[ |G|=[G:H]|H|. \] よって \(|H|\mid |G|\)。

5.2 軌道・固定部分群定理

定義 2(群作用)。 群 \(G\) が集合 \(X\) に作用するとは、各 \(g\in G\) に写像 \(X\to X,\ x\mapsto gx\) が対応し、 \(1x=x\)、\((gh)x=g(hx)\) を満たすことである。 \(x\in X\) の軌道を \(Gx=\{gx\mid g\in G\}\)、固定部分群を \(G_x=\{g\in G\mid gx=x\}\) と書く。
定理 2(軌道・固定部分群定理)。 \(G\) を有限群とし \(G\) が \(X\) に作用するとする。 任意の \(x\in X\) について \[ |Gx|=[G:G_x] \] が成り立つ。
証明

写像 \[ \Phi:G/G_x\to Gx,\quad gG_x\mapsto gx \] を考える。まず well-defined を示す。 \(gG_x=hG_x\) なら \(h^{-1}g\in G_x\) だから \((h^{-1}g)x=x\)。 よって \(gx=hx\)。

全射性は軌道の定義から明らかである。単射性を示す。 \(\Phi(gG_x)=\Phi(hG_x)\) なら \(gx=hx\)。 左から \(h^{-1}\) を作用させると \((h^{-1}g)x=x\)、従って \(h^{-1}g\in G_x\)。 これは \(gG_x=hG_x\) を意味する。 よって \(\Phi\) は全単射であり、\(|Gx|=|G/G_x|=[G:G_x]\)。

5.3 共役類サイズ公式

定義 3(共役類と中心化群)。 \(G\) を群、\(x\in G\) とする。 \(x\) の共役類を \[ \operatorname{Cl}_G(x)=\{gxg^{-1}\mid g\in G\} \] と書く。中心化群を \[ C_G(x)=\{g\in G\mid gx=xg\} \] と書く。
定理 3。 \(G\) が有限群なら \[ |\operatorname{Cl}_G(x)|=[G:C_G(x)]=\frac{|G|}{|C_G(x)|}. \]
証明

\(G\) が自分自身に共役で作用する作用 \[ g\cdot x=gxg^{-1} \] を考える。単位元は \(1\cdot x=x\)。 また \[ (gh)\cdot x=(gh)x(gh)^{-1}=g(hxh^{-1})g^{-1}=g\cdot(h\cdot x) \] なのでこれは群作用である。 この作用の \(x\) の軌道はまさに \(\operatorname{Cl}_G(x)\)。 \(x\) を固定する元は \[ gxg^{-1}=x \] を満たす \(g\) である。右から \(g\) を掛ければ \(gx=xg\)。 したがって固定部分群は \(C_G(x)\) である。 軌道・固定部分群定理を適用して \[ |\operatorname{Cl}_G(x)|=[G:C_G(x)]. \] \(G\) が有限なので Lagrange の定理により \([G:C_G(x)]=|G|/|C_G(x)|\)。

5.4 中心と単純性

定義 4(中心)。 群 \(G\) の中心を \[ Z(G)=\{z\in G\mid zg=gz\ \text{for all }g\in G\} \] と定義する。
命題 2。 非可換単純群 \(G\) の中心は自明、すなわち \(Z(G)=1\) である。
証明

まず \(Z(G)\trianglelefteq G\) を示す。 \(z\in Z(G)\)、\(g\in G\) とする。任意の \(h\in G\) について \[ (gzg^{-1})h =gz(g^{-1}h) =g(g^{-1}h)z =hz. \] ここで最後の形を \(h(gzg^{-1})\) と一致させるため、より直接に \(z\) がすべての元と可換であることを使うと \[ gzg^{-1}=gg^{-1}z=z \] である。したがって \(gZ(G)g^{-1}=Z(G)\)、中心は正規部分群である。 \(G\) が単純なので \(Z(G)=1\) または \(Z(G)=G\)。 もし \(Z(G)=G\) なら任意の元が可換で、\(G\) は可換群になる。 非可換という仮定に反する。よって \(Z(G)=1\)。

5.5 正規部分群は共役類の和集合

命題 3。 \(N\trianglelefteq G\) なら、\(N\) は \(G\) の共役類の和集合である。
証明

\(x\in N\) とする。\(N\) が正規であるとは、任意の \(g\in G\) について \(gNg^{-1}=N\) であることだから、特に \(gxg^{-1}\in N\)。 したがって \(x\) を含む共役類 \(\operatorname{Cl}_G(x)\) は \(N\) に含まれる。 \(N\) の任意の元についてこれが成り立つので、 \(N\) はそれに含まれる元の共役類をすべて集めた和集合である。

5.6 位数の素因数分解から十進表示を得る計算

命題 4。 次の積は \[ 2^{46}3^{20}5^97^6 11^2 13^3 17\,19\,23\,29\,31\,41\,47\,59\,71 \] に等しく、その十進表示は \[ 808017424794512875886459904961710757005754368000000000 \] である。
逐次乗算による証明

以下の表で、各行の「累積積」は直前行の累積積に \(p^a\) を掛けた値である。 最終行が求める積である。

\(p^a\)累積積
\(2^{46}\)70,368,744,177,66470,368,744,177,664
\(3^{20}\)3,486,784,401245,360,639,516,638,407,819,264
\(5^9\)1,953,125479,219,999,055,934,390,272,000,000,000
\(7^6\)117,64956,379,753,668,931,625,081,110,528,000,000,000
\(11^2\)1216,821,950,193,940,726,634,814,373,888,000,000,000
\(13^3\)2,19714,987,824,576,087,776,416,687,179,431,936,000,000,000
\(17\)17254,793,017,793,492,199,083,682,050,342,912,000,000,000
\(19\)194,841,067,338,076,351,782,589,958,956,515,328,000,000,000
\(23\)23111,344,548,775,756,090,999,569,055,999,852,544,000,000,000
\(29\)293,228,991,914,496,926,638,987,502,623,995,723,776,000,000,000
\(31\)31100,098,749,349,404,725,808,612,581,343,867,437,056,000,000,000
\(41\)414,104,048,723,325,593,758,153,115,835,098,564,919,296,000,000,000
\(47\)47192,890,289,996,302,906,633,196,444,249,632,551,206,912,000,000,000
\(59\)5911,380,527,109,781,871,491,358,590,210,728,320,521,207,808,000,000,000
\(71\)71808,017,424,794,512,875,886,459,904,961,710,757,005,754,368,000,000,000

カンマを除けば最終行は \(808017424794512875886459904961710757005754368000000000\) である。

5.7 文字と次数付き表現の基本

定義 5(表現と文字)。 群 \(G\) の複素表現とは、複素ベクトル空間 \(V\) と準同型 \(\rho:G\to \operatorname{GL}(V)\) の組である。 その文字は \[ \chi_\rho(g)=\operatorname{tr}(\rho(g)) \] で定義される関数である。
命題 5。 \(V=\bigoplus_{n\geq n_0}V_n\) が \(G\)-不変な次数付き表現なら、 恒等元 \(1\in G\) の次数付きトレースは各次数の次元を返す: \[ \sum_n \operatorname{tr}(1|_{V_n})q^n=\sum_n \dim(V_n)q^n. \]
証明

恒等元 \(1\in G\) は表現 \(\rho\) により各 \(V_n\) 上で恒等線形写像 \(\operatorname{id}_{V_n}\) として作用する。 \(d=\dim(V_n)\) とし、基底を一つ選べば \(\operatorname{id}_{V_n}\) の行列は \(d\times d\) の単位行列である。 そのトレースは対角成分の和なので \(1+\cdots+1=d\)。 よって各 \(n\) で \(\operatorname{tr}(1|_{V_n})=\dim(V_n)\)。 これを形式的 Laurent 級数として足し合わせれば主張が従う。

5.8 「文献定理」の依存関係を明示する

本レポートの初等的な証明は、モンスター群の存在そのものを構成する証明ではない。 モンスター群が実在し、Griess 代数や \(V^\natural\) の自己同型群であることは文献定理 A・B に依存する。 Moonshine 係数が単なる偶然でなく McKay–Thompson 級数全体へ拡張されることは文献定理 C に依存する。

したがって、本レポートの論理構造は次の通りである。

  1. 群論の基本命題は本レポート内で証明した。
  2. 文献定理 A–C を受け入れると、\(\mathbb{M}\) の具体的な姿が得られる。
  3. その上で、位数・共役類サイズ・Moonshine 係数分解などの計算は本レポート内で検算した。

6. 演習

基本問題 1:中心化群公式を使う

有限群 \(G\) の元 \(x\) について、\(|G|=120\)、\(|C_G(x)|=8\) とする。 \(\operatorname{Cl}_G(x)\) のサイズを求めよ。

解答。 定理 3 より \[ |\operatorname{Cl}_G(x)|=\frac{|G|}{|C_G(x)|}=\frac{120}{8}=15. \]
基本問題 2:非可換単純群の中心

非可換単純群 \(G\) の任意の非単位元が中心に入らないことを示せ。

解答。 命題 2 より \(Z(G)=1\)。したがって中心に入る元は単位元だけである。 よって任意の非単位元 \(g\neq1\) は \(Z(G)\) に入らない。
基本問題 3:Moonshine の係数を検算する

\(r_1=1\)、\(r_2=196883\)、\(r_3=21296876\) とする。 \(r_1+r_2+r_3=21493760\) を確認せよ。

解答。 \[ r_1+r_2+r_3=1+196883+21296876=196884+21296876=21493760. \]
発展問題 1:\(A_5\) の共役類分割を再構成する

\(A_5\) の 5-cycle が 2 つの共役類に分かれることを、中心化群のサイズから説明せよ。

解答。 5-cycle \(z\) の \(A_5\) における中心化群は \(\langle z\rangle\) で位数 \(5\)。 よって \(A_5\)-共役類サイズは \(60/5=12\)。 一方、5-cycle は全部で \(24\) 個ある。 したがって \(A_5\) 内では \(24/12=2\) 個の共役類に分かれる。
発展問題 2:2A 類サイズの桁数

2A 類サイズ \(97239461142009186000\) の桁数を求めよ。

解答。 数 \[ 97239461142009186000 \] は先頭から数えると 20 桁である。実際、 \(10^{19}=10000000000000000000\) より大きく、 \(10^{20}=100000000000000000000\) より小さいので 20 桁である。

7. まとめ・参考文献

まとめ。 モンスター群は、有限単純群論では最大の散在群、代数では Griess 代数の自己同型群、 頂点作用素代数では \(V^\natural\) の対称性、数論では \(J(\tau)\) の係数と McKay–Thompson 級数を支配する群である。 手で完全に扱える部分は \(A_5\)、共役類、中心化群、文字の基本であり、 モンスター固有の巨大構成は Griess・FLM・Borcherds らの深い文献定理によって支えられている。

次に読むべき概念

有限群論

準同型定理、Sylow 定理、文字表、有限単純群分類。

格子と符号

Golay 符号、Leech 格子、Conway 群、Parker loop。

Moonshine

頂点作用素代数、モジュラー関数、McKay–Thompson 級数、Borcherds 積。

参考文献・資料

  1. R. L. Griess, The Friendly Giant, Inventiones Mathematicae, 1982.
  2. J. H. Conway, R. T. Curtis, S. P. Norton, R. A. Parker, R. A. Wilson, Atlas of Finite Groups, Oxford University Press, 1985.
  3. I. B. Frenkel, J. Lepowsky, A. Meurman, Vertex Operator Algebras and the Monster, Academic Press, 1988.
  4. R. E. Borcherds, Monstrous moonshine and monstrous Lie superalgebras, Inventiones Mathematicae, 1992.
  5. GAP Character Table Library:ATLAS 由来の文字表データを含む GAP パッケージ。
  6. Martin Seysen, mmgroup documentation:モンスター群の計算実装。
  7. H. Dietrich, M. Lee, T. Popiel ほか:モンスター群の最大部分群分類と再現可能計算に関する近年の研究。