定義から計算する \(H^1(C_2,M)\)
非斉次コチェインの定義だけを出発点に、\(C_2=\{1,\tau\}\) の第一群コホモロジーを手で計算する。結論は、\(1\)-コサイクルの値 a = f(τ) が (1+τ)a = 0 を満たし、\(1\)-コバウンダリが \((\tau-1)m\) であることから、\(H^1(C_2,M)\cong \ker(1+\tau)/\operatorname{im}(\tau-1)\) となる、という一文に尽きる。
1. 核となる見方
前提
\(M\) は左 \(C_2\)-加群、すなわち可換群 \(M\) に自己同型 \(\tau:M\to M\) が作用し、\(\tau^2=1\) を満たすものとする。加群の演算は加法で書く。
読後にできること
非斉次コチェインの微分を使って、\(Z^1\)、\(B^1\)、\(H^1\) を順に求められる。特に自明作用・符号作用・入れ替え作用の例を自力で判定できる。
ここで \(1+\tau\) は \(m\mapsto m+\tau m\)、\(\tau-1\) は \(m\mapsto \tau m-m\) を表す。
2. 図で見る
計算の流れは、巨大な定義を小さい群 \(C_2\) に制限し、\(1\)-コチェイン f: C₂ → M をただ一つの値 a = f(τ) に圧縮することにある。
DOT グラフ
下のグラフは、証明の依存関係を表す。必要なら DOT ソースを編集して図を再描画できる。
3. 定義
非斉次コチェインで群コホモロジーを定義する。\(n\ge 0\) に対して
とし、\(f\in C^n(G,M)\) の微分 \(d^n f\in C^{n+1}(G,M)\) を
で定める。第一コホモロジーは
である。これを \(G=C_2=\langle \tau\mid \tau^2=1\rangle\) に適用する。
0-cochain の微分
\(C^0(G,M)=M\)。\(m\in M\) に対して
1-cochain の微分
\(f:G\to M\) に対して
4. 定義からの計算
以下では、\(1\)-コサイクル全体 \(Z^1\) と \(1\)-コバウンダリ全体 \(B^1\) を別々に求め、最後に商を取る。
4.1 \(Z^1(C_2,M)\) を求める
\(f\in C^1(C_2,M)\) がコサイクルであるとは、任意の \(g,h\in C_2\) について
すなわち
が成り立つことである。これは非自明な作用の下では「準同型」ではなく、交叉準同型または crossed homomorphism と呼ばれる条件である。
-
まず \(f(1)=0\)。
式 (1) に \(g=1\) を代入すると
\[f(h)=f(h)+f(1),\]よって \(f(1)=0\)。
- 次に a = f(τ) と置く。 \(C_2\) の元は \(1\) と \(\tau\) しかないので、\(f(1)=0\) が分かれば \(f\) は a = f(τ) だけで決まる。
-
最後に \((g,h)=(\tau,\tau)\) を見る。
\(\tau^2=1\) なので、式 (1) は
\[0=f(1)=\tau f(\tau)+f(\tau)=\tau a+a.\]したがって\[(1+\tau)a=0.\]
逆に、\(a\in M\) が (1+τ)a = 0 を満たすなら、\(f(1)=0\)、\(f(\tau)=a\) と定めた写像は式 (1) を満たす。したがって
4.2 \(B^1(C_2,M)\) を求める
\(1\)-コバウンダリは、ある \(m\in C^0(C_2,M)=M\) から \(d^0m\) として得られる \(1\)-コチェインである。\(d^0m\) の \(\tau\) での値は
よって、\(f\mapsto f(\tau)\) で見れば
4.3 結論
以上を \(H^1=Z^1/B^1\) に代入すると、自然な同型
を得る。直感的には、a = f(τ) が「反不変的」な条件 \(a+\tau a=0\) を満たす限りコサイクルであり、\(a\) に \((\tau-1)m\) を足す変更はコバウンダリを足しただけなので同じコホモロジー類を表す。
5. インタラクティブ確認
有限加群 \(M=\mathbb Z/n\mathbb Z\) で、\(\tau\) が \(+1\) または \(-1\) として作用する場合を列挙する。出力は a = f(τ) の候補、コバウンダリで消える候補、商の代表元を表示する。
濃い丸は \(\ker(1+\tau)\) に属する値、外枠のある丸は \(\operatorname{im}(\tau-1)\) に属する値を表す。コホモロジーは、濃い丸を外枠のある丸による平行移動で同一視したもの。
6. 具体例
例 1: 自明作用
\(\tau m=m\) なら \(1+\tau=2\)、\(\tau-1=0\)。したがって
これは \(C_2\to M\) という群準同型の全体と一致する。
例 2: \(M=\mathbb Z\) の自明作用
\(\mathbb Z\) には非零の \(2\)-torsion がないので
例 3: \(M=\mathbb Z\) の符号作用
\(\tau m=-m\) なら \(1+\tau=0\)、\(\tau-1=-2\)。したがって
例 4: 入れ替え作用
\(M=A\oplus A\)、\(\tau(x,y)=(y,x)\) とする。このとき
よって \(H^1(C_2,A\oplus A)=0\)。
計算表
| 作用 | \(\ker(1+\tau)\) | \(\operatorname{im}(\tau-1)\) | \(H^1(C_2,M)\) |
|---|---|---|---|
| 自明作用 \(\tau=1\) | \(M[2]\) | \(0\) | \(M[2]\) |
| 符号作用 \(\tau=-1\) | \(M\) | \(2M\) | \(M/2M\) |
| 入れ替え作用 on \(A\oplus A\) | \(\{(a,-a)\}\) | \(\{(a,-a)\}\) | \(0\) |
7. 演習
基本問題 1: \(f(1)=0\) を別の代入で確認する
コサイクル条件 \(f(gh)=g f(h)+f(g)\) に \(h=1\) を代入し、\(f(1)=0\) を示せ。
解答。 \(f(g)=g f(1)+f(g)\) なので \(g f(1)=0\)。\(g=1\) とすれば \(f(1)=0\)。
基本問題 2: \(\operatorname{im}(\tau-1)\subseteq\ker(1+\tau)\)
\(\tau^2=1\) だけを使って、任意の \(m\in M\) に対し \((1+\tau)(\tau-1)m=0\) を示せ。
解答。 \((1+\tau)(\tau-1)m=(\tau-1+\tau^2-\tau)m=(\tau^2-1)m=0\)。
基本問題 3: \(M=\mathbb Z/6\mathbb Z\) の自明作用
\(H^1(C_2,\mathbb Z/6\mathbb Z)\) を求めよ。
解答。 自明作用なので \(H^1\cong M[2]\)。\(2a=0\) in \(\mathbb Z/6\mathbb Z\) の解は \(a=0,3\)。したがって \(H^1\cong \mathbb Z/2\mathbb Z\)。
発展問題: \(C_2\) の第二コホモロジーとの比較
同じ記号で、標準的な周期分解から \(H^2(C_2,M)\cong \ker(\tau-1)/\operatorname{im}(1+\tau)\) が得られる。\(H^1\) の式と比較し、\(1+\tau\) と \(\tau-1\) の役割が交互に入れ替わることを確認せよ。
8. まとめ
- \(1\)-コサイクルは \(f(gh)=g f(h)+f(g)\) を満たす写像 f: C₂ → M である。
- \(C_2\) では \(f(1)=0\) となり、\(f\) は a = f(τ) だけで決まる。
- コサイクル条件は (1+τ)a = 0、コバウンダリ条件は a = (τ−1)m。
- したがって \(H^1(C_2,M)\cong\ker(1+\tau)/\operatorname{im}(\tau-1)\)。