Report 2 / Example Catalog

グレブナー基底を使った探索:大量の具体例集

基礎的な連立方程式から、消去、所属判定、Boolean/SAT、彩色、最適化、ロボティクス、不変量、トーリックイデアルまで、探索としての読み方を例で確認する。

具体例消去BooleanSAT彩色最適化応用

1. この具体例集の使い方

このレポートは「式をどう立てるか」「どの単項式順序を選ぶか」「得られた基底から探索をどう進めるか」を、できるだけ多くの具体例で確認するためのものです。各例は、問題、符号化、グレブナー基底または正規形、結論、探索としての読み方に分けています。

すべての例で重要なのは、グレブナー基底を「解を出す黒箱」としてではなく、制約から隠れた制約を生成し、探索空間を削る装置として読むことです。

基礎例

連立方程式、幾何交点、所属判定で、GB の最小単位を確認します。

探索例

Boolean、SAT、彩色、exact cover で、枝刈り・矛盾検出・解列挙を見ます。

応用例

最適化、ロボティクス、不変量、トーリックイデアルなどへ拡張します。

2. 例の全体マップ

/ 34 件を表示中。カード内の見出しを開くと詳細が表示されます。

#カテゴリタイトル主な役割
01基礎線形方程式をグレブナー基底として見る探索としては、先頭変数 \(x\) を含む式を作り、最後に \(y\) を固定する三角形化である。
02基礎放物線と直線の接点単に点を求めるだけでなく、\((y-1)^2\) が出ることで重複度も見える。
03幾何円と直線まず \(y\) だけの方程式に落とし、次に \(x\) を復元する。
04幾何二つの円の交点二式を引くと \(2x-1=0\) が出る。その後に \(y\) が残る。GB はこの消去を体系化する。
05幾何楕円と直線線形制約で \(x\) を消去し、1変数二次方程式へ落とす。
06零次元三次根を含む連立方程式Buchberger 法の S-ペアから \(x-y^2\)、さらに \(y^3-1\) が生まれる典型例。
07零次元巡回3変数系対称式で書かれた制約が三角形化され、解探索の順序が明示される。
08零次元非対称な3変数の三角形化探索木の根が \(z\) の候補、次の階層が \(y\)、葉が \(x\) になる。
09所属判定イデアル所属判定探索で得た新規式は、もとの制約から導かれる隠れ制約である。
10所属判定非所属を正規形で証明する正規形が 0 でないことは、イデアル所属探索の反証になる。
11消去パラメータ付き直線と円消去順序を \(y>x\) にしたことで、\(x\) だけの条件が直接現れる。
12パラメータ整合条件の抽出未知数 \(x\) を消去すると、パラメータ空間内の実現可能領域が出る。
13最適化KKT 方程式:直線上の最短点多項式最適化では、KKT 条件を解く探索に GB を使える。大域最適性は別途確認が必要。
14最適化円周上の点への距離ラグランジュ乗数を消去すると、幾何的条件が代数方程式として出る。
15順序lex と grevlex の違い探索目的が「解を三角形化する」なら lex、「まず基底を速く作る」なら grevlex が候補。
16BooleanAND ゲート論理回路を多項式制約に変換すると、回路探索を代数的に行える。
17BooleanXOR ゲートXOR は線形に見えるが、有理数上の Boolean 多項式では積項が現れる。
18SAT小さな SAT 例GB が強制リテラル \(y=1\) を発見している。
19彩色パスグラフの2色彩色GB が「同じ側の頂点は同色」という構造を抽出する。
20彩色三角形の2色彩色不能性探索木を展開しなくても、代数的矛盾 \(1\in I\) が得られる。
21彩色三角形の3色彩色根の符号化を使うと one-hot 変数より少ない変数で彩色を表せる。
22彩色\(K_4\) の3色彩色不能性彩色不能性がイデアル全体の単位元生成として検出される。
23組合せ4-Queens の Boolean 符号化「ちょうど1つ」と「同時配置禁止」を多項式にすると、exact cover 型探索になる。
24組合せ小さな exact cover線形等式で大きく枝刈りし、Boolean 制約で残りを確定する。
25不等式不等式を飽和で扱う探索で「この枝では \(g=0\) を禁止する」という条件を多項式だけで表現できる。
26有限体GF(2) の線形制約係数体が変わると同じ式でも意味が変わる。SAT/符号理論では体の選択が重要。
27符号理論線形符号の syndrome 方程式GB は syndrome 制約の解空間を正規形で表し、重み条件は別の目的関数探索として扱う。
28ロボティクス2リンク平面アームの逆運動学消去は幾何的な到達可能条件を抽出する。
29不変量プログラム不変量の検証到達可能状態をイデアルで表し、候補不変量の所属判定を行う。
30トーリックコイン問題とトーリックイデアル整数計画やマルコフ基底探索の最小例。単項式間の同値関係を binomial で表す。
31ランク制約2×2 行列の rank ≤ 1低ランク探索、代数統計、行列補完の入口になる。
32根基重複解と根基探索で「解の場所」だけを見るのか、「重複度を含む構造」も見るのかを区別する必要がある。
33実解複素解と実解の違い実閉体上の探索では CAD、実根分離、実根基などの道具と組み合わせる。
34実装FGLM 的な順序変換探索のコスト最適化パターン。目的は lex でも、途中順序は別でよい。

3. 具体例バンク

例 01基礎

線形方程式をグレブナー基底として見る

問題

\(x+y-3=0,\ x-y-1=0\) を解く。

符号化

\(I=\langle x+y-3, x-y-1\rangle\subset K[x,y]\)、lex \(x>y\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{x-2,\ y-1\}\)。

結論

解は \((x,y)=(2,1)\)。線形系ではグレブナー基底計算は Gaussian elimination と同じ構造を持つ。

探索としての読み方

探索としては、先頭変数 \(x\) を含む式を作り、最後に \(y\) を固定する三角形化である。

例 02基礎

放物線と直線の接点

問題

\(y=x^2\) と \(y=2x-1\) の交点を求める。

符号化

\(I=\langle y-x^2,\ y-2x+1\rangle\)、lex \(x>y\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{2x-y-1,\ (y-1)^2\}\)。

結論

\(y=1\)、\(x=1\)。重根なので接している。

探索としての読み方

単に点を求めるだけでなく、\((y-1)^2\) が出ることで重複度も見える。

例 03幾何

円と直線

問題

単位円 \(x^2+y^2=1\) と直線 \(x=y\) の交点。

符号化

\(I=\langle x^2+y^2-1,\ x-y\rangle\)、lex \(x>y\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{x-y,\ 2y^2-1\}\)。

結論

\(y=\pm 1/\sqrt2\)、\(x=y\)。

探索としての読み方

まず \(y\) だけの方程式に落とし、次に \(x\) を復元する。

例 04幾何

二つの円の交点

問題

\(x^2+y^2=1\) と \((x-1)^2+y^2=1\) の交点。

符号化

\(I=\langle x^2+y^2-1,(x-1)^2+y^2-1\rangle\)、lex \(x>y\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{2x-1,\ 4y^2-3\}\)。

結論

\(x=1/2\)、\(y=\pm\sqrt3/2\)。

探索としての読み方

二式を引くと \(2x-1=0\) が出る。その後に \(y\) が残る。GB はこの消去を体系化する。

例 05幾何

楕円と直線

問題

\(x^2+2y^2=1\) と \(x+y=0\) の交点。

符号化

\(I=\langle x^2+2y^2-1,x+y\rangle\)、lex \(x>y\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{x+y,\ 3y^2-1\}\)。

結論

\(y=\pm1/\sqrt3\)、\(x=-y\)。

探索としての読み方

線形制約で \(x\) を消去し、1変数二次方程式へ落とす。

例 06零次元★★

三次根を含む連立方程式

問題

\(x^2-y=0,\ xy-1=0\)。

符号化

\(I=\langle x^2-y,xy-1\rangle\)、lex \(x>y\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{x-y^2,\ y^3-1\}\)。

結論

\(y^3=1\)、\(x=y^2\)。複素数上では 3 点。

探索としての読み方

Buchberger 法の S-ペアから \(x-y^2\)、さらに \(y^3-1\) が生まれる典型例。

例 07零次元★★

巡回3変数系

問題

\(x+y+z=0,\ xy+yz+zx=0,\ xyz=1\)。

符号化

\(I=\langle x+y+z,xy+yz+zx,xyz-1\rangle\)、lex \(x>y>z\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{x+y+z,\ y^2+yz+z^2,\ z^3-1\}\)。

結論

まず \(z^3=1\) を解き、次に \(y\)、最後に \(x\) を復元する。

探索としての読み方

対称式で書かれた制約が三角形化され、解探索の順序が明示される。

例 08零次元★★

非対称な3変数の三角形化

問題

\(x+y+z=0,\ xy+yz+zx=1,\ xyz=2\)。

符号化

\(I=\langle x+y+z,xy+yz+zx-1,xyz-2\rangle\)、lex \(x>y>z\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{x+y+z,\ y^2+yz+z^2+1,\ z^3+z-2\}\)。

結論

\(z\) は \(z^3+z-2=0\) の根。各 \(z\) に対し \(y\) は二次方程式、\(x=-y-z\)。

探索としての読み方

探索木の根が \(z\) の候補、次の階層が \(y\)、葉が \(x\) になる。

例 09所属判定★★

イデアル所属判定

問題

\(I=\langle x^2-y,xy-1\rangle\) に \(h=x-y^2\) が属するか。

符号化

上の例と同じ GB \(G=\{x-y^2,y^3-1\}\) で \(h\) を割る。

グレブナー基底・正規形

\(\mathrm{NF}(h\mid G)=0\)。

結論

\(h\in I\)。実際 \(h=S(x^2-y,xy-1)\)。

探索としての読み方

探索で得た新規式は、もとの制約から導かれる隠れ制約である。

例 10所属判定★★

非所属を正規形で証明する

問題

\(I=\langle x+y,y+z\rangle\) に \(x+z\) は属するか。

符号化

lex \(x>y>z\) で \(G=\{x-z, y+z\}\)。

グレブナー基底・正規形

\(x+z\) を割ると \(2z\) が残る。

結論

標数 0 では \(x+z otin I\)。ただし \(x-z\in I\)、\(y+z\in I\)。

探索としての読み方

正規形が 0 でないことは、イデアル所属探索の反証になる。

例 11消去★★

パラメータ付き直線と円

問題

単位円 \(x^2+y^2=1\) と直線 \(y=ax\) の交点を \(x\) で表す。

符号化

\(I=\langle x^2+y^2-1,y-ax\rangle\)、変数順序 \(y>x\)、\(a\) は係数扱い。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{y-ax,\ (a^2+1)x^2-1\}\)。

結論

\(x=\pm 1/\sqrt{a^2+1}\)、\(y=ax\)。

探索としての読み方

消去順序を \(y>x\) にしたことで、\(x\) だけの条件が直接現れる。

例 12パラメータ★★

整合条件の抽出

問題

\(x^2=a\) と \(x=b\) が同時に成り立つ条件。

符号化

\(I=\langle x^2-a,x-b\rangle\)、lex \(x>a>b\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{x-b,\ a-b^2\}\)。

結論

存在条件は \(a=b^2\)。そのとき \(x=b\)。

探索としての読み方

未知数 \(x\) を消去すると、パラメータ空間内の実現可能領域が出る。

例 13最適化★★

KKT 方程式:直線上の最短点

問題

\(x+y=1\) 上で \(x^2+y^2\) を最小化する。

符号化

ラグランジュ条件 \(2x+\lambda=0, 2y+\lambda=0, x+y-1=0\)。

グレブナー基底・正規形

lex \(x>y>\lambda\) で \(G=\{2x-1,2y-1,\lambda+1\}\)。

結論

最小点は \((1/2,1/2)\)。

探索としての読み方

多項式最適化では、KKT 条件を解く探索に GB を使える。大域最適性は別途確認が必要。

例 14最適化★★★

円周上の点への距離

問題

点 \((a,b)\) に最も近い単位円上の点候補を求める。

符号化

\(F=(x-a)^2+(y-b)^2\)、制約 \(x^2+y^2=1\)。KKT は \(2(x-a)+2\lambda x=0, 2(y-b)+2\lambda y=0, x^2+y^2-1=0\)。

グレブナー基底・正規形

消去により \((\lambda+1)^2-a^2-b^2=0\) が現れる。

結論

\((a,b) e(0,0)\) なら候補は \((x,y)=\pm(a,b)/\sqrt{a^2+b^2}\)。最近点は同方向の方。

探索としての読み方

ラグランジュ乗数を消去すると、幾何的条件が代数方程式として出る。

例 15順序★★

lex と grevlex の違い

問題

\(I=\langle x^2-y,xy-1\rangle\) を異なる順序で見る。

符号化

lex \(x>y\) と grevlex \(x>y\)。

グレブナー基底・正規形

lex: \(\{x-y^2,y^3-1\}\)。grevlex: \(\{x^2-y,xy-1,-x+y^2\}\)。

結論

lex は消去に強く、grevlex は計算が軽くなりやすい。

探索としての読み方

探索目的が「解を三角形化する」なら lex、「まず基底を速く作る」なら grevlex が候補。

例 16Boolean

AND ゲート

問題

\(z=x\land y\) を多項式で表す。

符号化

\(x^2-x,y^2-y,z^2-z,z-xy\)。

グレブナー基底・正規形

lex \(x>y>z\) で \(\{x^2-x, xy-z, xz-z, y^2-y, yz-z, z^2-z\}\)。

結論

Boolean 性と \(z=xy\) が正規形に反映される。

探索としての読み方

論理回路を多項式制約に変換すると、回路探索を代数的に行える。

例 17Boolean

XOR ゲート

問題

\(z=x\oplus y\)。

符号化

\(z-(x+y-2xy)=0\) と Boolean 制約。

グレブナー基底・正規形

lex \(x>y>z\) で \(\{x+2yz-y-z, y^2-y, z^2-z\}\)。

結論

\(x=y+z-2yz\) として復元できる。

探索としての読み方

XOR は線形に見えるが、有理数上の Boolean 多項式では積項が現れる。

例 18SAT★★

小さな SAT 例

問題

節 \((x\lor y)\land(\lnot x\lor z)\land(y\lor\lnot z)\)。

符号化

\((1-x)(1-y)=0,\ x(1-z)=0,\ (1-y)z=0\) と Boolean 制約。

グレブナー基底・正規形

lex \(x>y>z\) で \(\{x^2-x, xz-x, y-1, z^2-z\}\)。

結論

必ず \(y=1\)。\(z\in\{0,1\}\)、\(z=0\) なら \(x=0\)、\(z=1\) なら \(x\in\{0,1\}\)。

探索としての読み方

GB が強制リテラル \(y=1\) を発見している。

例 19彩色★★

パスグラフの2色彩色

問題

3頂点パス \(1-2-3\) を2色で塗る。

符号化

Boolean 制約と辺制約 \(x_1+x_2-1=0, x_2+x_3-1=0\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{x_1-x_3, x_2+x_3-1, x_3^2-x_3\}\)。

結論

\(x_3\) を自由に選ぶと \(x_1=x_3\)、\(x_2=1-x_3\)。2通り。

探索としての読み方

GB が「同じ側の頂点は同色」という構造を抽出する。

例 20彩色★★

三角形の2色彩色不能性

問題

三角形 \(K_3\) を2色で塗れるか。

符号化

Boolean 制約と \(x_i+x_j-1=0\) を全辺に置く。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{1\}\)。

結論

解なし。

探索としての読み方

探索木を展開しなくても、代数的矛盾 \(1\in I\) が得られる。

例 21彩色★★★

三角形の3色彩色

問題

三角形を3色で塗る。

符号化

各頂点変数を 1 の三乗根にし、辺 \((i,j)\) に \(x_i^2+x_ix_j+x_j^2=0\) を置く。

グレブナー基底・正規形

lex で \(\{x_1+x_2+x_3, x_2^2+x_2x_3+x_3^2, x_3^3-1\}\)。

結論

3! 通りの本質的彩色が表現される。

探索としての読み方

根の符号化を使うと one-hot 変数より少ない変数で彩色を表せる。

例 22彩色★★★

\(K_4\) の3色彩色不能性

問題

完全グラフ \(K_4\) を3色で塗れるか。

符号化

三乗根符号化で各頂点 \(x_i^3-1=0\)、各辺 \(x_i^2+x_ix_j+x_j^2=0\)。

グレブナー基底・正規形

全制約のグレブナー基底は \(\{1\}\)。

結論

3色では塗れない。

探索としての読み方

彩色不能性がイデアル全体の単位元生成として検出される。

例 23組合せ★★★

4-Queens の Boolean 符号化

問題

4×4 盤に互いに攻撃しない 4 個の queen を置く。

符号化

変数 \(q_{ij}\in\{0,1\}\)。各行・列に \(\sum_j q_{ij}-1=0,\sum_i q_{ij}-1=0\)。各斜めペアに \(q_{ij}q_{kl}=0\)。

グレブナー基底・正規形

完全な GB は大きいが、lex 順序では最後の変数から順に解候補を列挙できる。

結論

4-Queens には 2 解がある。

探索としての読み方

「ちょうど1つ」と「同時配置禁止」を多項式にすると、exact cover 型探索になる。

例 24組合せ★★

小さな exact cover

問題

集合 \(U=\{1,2,3\}\)、候補 \(A=\{1,2\}, B=\{2,3\}, C=\{3\}, D=\{1\}\) で exact cover を探す。

符号化

Boolean 変数 \(a,b,c,d\)。要素ごとに \(a+d-1=0, a+b-1=0, b+c-1=0\)。

グレブナー基底・正規形

線形部分だけで \(b=1-a, d=1-a, c=a\)。Boolean より \(a\in\{0,1\}\)。

結論

\(a=1\) なら \(A,C\)、\(a=0\) なら \(B,D\)。

探索としての読み方

線形等式で大きく枝刈りし、Boolean 制約で残りを確定する。

例 25不等式★★

不等式を飽和で扱う

問題

\(f=0\) かつ \(g\ne0\) を代数的に扱う。

符号化

新変数 \(t\) を導入して \(tg-1=0\) を追加する。つまり \(I+\langle tg-1\rangle\)。

グレブナー基底・正規形

例:\(x^2-1=0, x\ne1\) は \(x^2-1,t(x-1)-1\) から \(x+1=0\) が得られる。

結論

\(x=-1\) だけが残る。

探索としての読み方

探索で「この枝では \(g=0\) を禁止する」という条件を多項式だけで表現できる。

例 26有限体★★

GF(2) の線形制約

問題

\(x+y+1=0, xy=0\) を \(\mathbb F_2\) で解く。

符号化

Boolean 制約は \(x^2-x,y^2-y\) だが、\(\mathbb F_2\) では \(-=+\)。

グレブナー基底・正規形

\(x+y+1=0\) より \((x,y)=(0,1),(1,0)\)。\(xy=0\) は両方を許す。

結論

2 解。

探索としての読み方

係数体が変わると同じ式でも意味が変わる。SAT/符号理論では体の選択が重要。

例 27符号理論★★★

線形符号の syndrome 方程式

問題

\(H e=s\) を \(\mathbb F_2\) で解く。

符号化

各ビット \(e_i^2-e_i=0\) と線形方程式。

グレブナー基底・正規形

線形方程式だけなら GB は行基本変形後の形に一致する。重み最小性を加えるには追加の探索基準が必要。

結論

誤り候補の空間を代数的に列挙できる。

探索としての読み方

GB は syndrome 制約の解空間を正規形で表し、重み条件は別の目的関数探索として扱う。

例 28ロボティクス★★★

2リンク平面アームの逆運動学

問題

リンク長 \(l_1,l_2\)、角度の cos/sin を使って手先 \((X,Y)\) を表す。

符号化

\(c_i^2+s_i^2-1=0\)、\(X=l_1c_1+l_2(c_1c_2-s_1s_2)\)、\(Y=l_1s_1+l_2(s_1c_2+c_1s_2)\)。

グレブナー基底・正規形

\(c_2\) について消去すると \(c_2=(X^2+Y^2-l_1^2-l_2^2)/(2l_1l_2)\) が現れる。

結論

\(|c_2|\le1\) が実解条件になる。

探索としての読み方

消去は幾何的な到達可能条件を抽出する。

例 29不変量★★★

プログラム不変量の検証

問題

更新 \(x^{\prime}=x+1, y^{\prime}=y+2x+1\) が \(y=x^2\) を保つか。

符号化

\(x^{\prime}-x-1=0, y^{\prime}-y-2x-1=0, y-x^2=0\)。不変式候補は \(y^{\prime}-(x^{\prime})^2\)。

グレブナー基底・正規形

候補を制約で割ると正規形 0。

結論

\(y=x^2\) なら更新後も \(y^{\prime}=(x^{\prime})^2\)。

探索としての読み方

到達可能状態をイデアルで表し、候補不変量の所属判定を行う。

例 30トーリック★★★

コイン問題とトーリックイデアル

問題

重み 2 と 3 の組合せで同じ総和を表す関係を見つける。

符号化

写像 \(u\mapsto t^2, v\mapsto t^3\)。核は \(u^3-v^2\)。

グレブナー基底・正規形

\(I_A=\langle u^3-v^2\rangle\)。

結論

3 個の 2 重みと 2 個の 3 重みは同じ総和 6 を表す。

探索としての読み方

整数計画やマルコフ基底探索の最小例。単項式間の同値関係を binomial で表す。

例 31ランク制約★★

2×2 行列の rank ≤ 1

問題

行列 \(\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}\) の rank が 1 以下である条件。

符号化

全 2×2 小行列式、つまり \(ad-bc=0\)。

グレブナー基底・正規形

一つの多項式 \(ad-bc\) が基底。

結論

rank 制約は determinantal ideal として扱える。

探索としての読み方

低ランク探索、代数統計、行列補完の入口になる。

例 32根基★★

重複解と根基

問題

\(I=\langle x^2\rangle\) と \(J=\langle x\rangle\) の違い。

符号化

どちらも集合としての零点は \(x=0\)。

グレブナー基底・正規形

GB はそれぞれ \(\{x^2\}\)、\(\{x\}\)。

結論

零点集合だけなら同じだが、重複度や剰余環は違う。\(\sqrt I=J\)。

探索としての読み方

探索で「解の場所」だけを見るのか、「重複度を含む構造」も見るのかを区別する必要がある。

例 33実解★★★

複素解と実解の違い

問題

\(x^2+1=0\) を考える。

符号化

\(I=\langle x^2+1\rangle\subset\mathbb Q[x]\)。

グレブナー基底・正規形

\(G=\{x^2+1\}\)。

結論

複素数上は2解、実数上は解なし。GB だけでは実解存在性を完全には判定しない。

探索としての読み方

実閉体上の探索では CAD、実根分離、実根基などの道具と組み合わせる。

例 34実装★★

FGLM 的な順序変換

問題

grevlex で計算した GB を lex に変換したい。

符号化

零次元イデアルで標準単項式の有限基底を使う。

グレブナー基底・正規形

例 \(\langle x^2-y,xy-1\rangle\) は grevlex から lex \(\{x-y^2,y^3-1\}\) へ変換できる。

結論

直接 lex が重いとき、まず計算しやすい順序で解いてから変換する。

探索としての読み方

探索のコスト最適化パターン。目的は lex でも、途中順序は別でよい。

4. 例から抽出できる探索パターン

4.1 消去型

交点計算、パラメータ整合条件、ロボティクス逆運動学では、目的変数以外を消す順序を選びます。典型的には lex 順序を使い、\(G\cap K[y,z]\)、\(G\cap K[z]\) のような消去イデアルを読む。

4.2 枝刈り型

Boolean、SAT、彩色、exact cover では、\(1\in I\) が矛盾を表します。部分代入を追加したイデアルで \(1\) が出れば、その枝を閉じることができます。

4.3 正規形型

所属判定や不変量検証では、候補多項式 \(h\) の正規形 \(\mathrm{NF}(h\mid G)\) を見る。0 なら制約から導ける、0 でなければ導けない。

4.4 順序変換型

計算は grevlex で軽く行い、零次元であれば FGLM 的に lex へ変換する。例 30 はこの考え方を示しています。

実務では、式の立て方と順序の選び方が計算時間を大きく左右します。グレブナー基底は強力ですが、変数数・次数・係数膨張に弱いので、消去したい変数、判定したい条件、列挙したい解を先に明確にします。

5. 問題を多項式へ翻訳するレシピ集

対象多項式化注意
Boolean 変数\(x^2-x=0\)係数体が \(\mathbb Q\) か \(\mathbb F_2\) かで表記が変わる。
節 \(l_1\lor\cdots\lor l_k\)偽になる因子の積を 0 にする例:\((x\lor\lnot y)\) は \((1-x)y=0\)。
不等式 \(g\ne0\)\(tg-1=0\)飽和と同じ役割。実不等式 \(g>0\) は別問題。
「ちょうど1つ」\(\sum_i x_i-1=0\) と Boolean高々1つは \(x_ix_j=0\)。
彩色one-hot または根の符号化根の符号化は変数が少ないが体の拡大を意識する。
最適化候補KKT 方程式候補列挙であり、大域最適性は別途判定する。
不変量更新式 + 前提不変式で候補を割る正規形 0 なら保存される。