ρ
有限群の表現論

有限群の表現論
完全レポート

有限群の表現論は、「抽象的な群の元を、具体的な行列として作用させる」理論である。 本レポートでは、複素数体上の有限群表現を主軸に、半単純性、Schur の補題、指標、直交関係、群環分解、誘導表現、Frobenius 相互律、標準例、計算アルゴリズムまでを体系的に述べる。

MathJax 対応 指標表インタラクティブ検算 正則表現分解 テンソル積分解 Cyclic character visualizer

0. 前提・記法・このレポートの対象

本文の中心は、有限群 \(G\) の 複素数体 \(\mathbb{C}\) 上の有限次元表現である。これは有限群表現論の最も美しく、指標によって完全に分類できる部分である。

基本記法
  • \(G\):有限群。単位元を \(e\) と書く。
  • \(|G|\):群の位数。
  • \(V,W\):有限次元複素ベクトル空間。
  • \(\operatorname{GL}(V)\):\(V\) 上の可逆線形変換全体の群。
  • \(\mathbb{C}[G]\):群環。基底が \(G\) の元で、積は群の積を線形拡張したもの。
  • \(\operatorname{Irr}(G)\):\(G\) の既約複素指標全体。
  • \(g^G=\{xgx^{-1}:x\in G\}\):\(g\) の共役類。
  • \(Z(G)\):群の中心。\(Z(\mathbb{C}[G])\):群環の中心。
体を変えると理論が変わる

\(\operatorname{char}K\nmid |G|\) なら Maschke の定理により半単純性が保たれる。一方、\(\operatorname{char}K=p\mid |G|\) の モジュラー表現論では一般に半単純でなくなり、既約表現だけでは表現を復元できない。本レポートでは複素表現論を完全な幹として扱い、終盤でモジュラー表現論の入口を述べる。

0.1 表現論の基本思想

群は対称性を抽象的に表す。表現論は、その対称性をベクトル空間上の線形変換として実現する。抽象的な積 \(gh\) は行列積 \(\rho(g)\rho(h)\) で表されるため、線形代数の道具、特に固有値、跡、直交分解、内積、行列分解を用いて群を調べられる。

中心的な対応
\[ \text{群の元 }g\in G \quad\longmapsto\quad \text{行列 }\rho(g)\in \operatorname{GL}(V). \]

この対応が群準同型である、すなわち \(\rho(gh)=\rho(g)\rho(h)\), \(\rho(e)=I\) を満たすとき、\(\rho\) を表現という。

1. 表現の定義と基本操作

1.1 表現

定義:線形表現

有限群 \(G\) の \(\mathbb{C}\) 上の表現とは、有限次元複素ベクトル空間 \(V\) と群準同型

\[ \rho:G\longrightarrow \operatorname{GL}(V) \]

の組 \((V,\rho)\) である。通常、\(\rho(g)v\) を \(g v\) と略し、\(V\) を \(G\)-加群とも呼ぶ。

例:自明表現

任意の \(G\) に対し、\(V=\mathbb{C}\), \(\rho(g)=1\) と置くと表現になる。これを自明表現といい、指標は常に \(1\) である。

例:置換表現

\(G\) が有限集合 \(X=\{x_1,\dots,x_n\}\) に作用しているとする。基底を \(X\) とするベクトル空間 \(\mathbb{C}X\) を取り、

\[ g\cdot x_i = g x_i \]

と定めて線形拡張すると、\(G\) の表現が得られる。行列は置換行列である。

1.2 同値な表現

定義:同値・同型

\((V,\rho)\) と \((W,\sigma)\) が同値であるとは、線形同型 \(T:V\to W\) が存在して全ての \(g\in G\) について

\[ T\rho(g)=\sigma(g)T \]

が成り立つことをいう。このような \(T\) を 絡作用素または intertwiner という。

同値な表現は、基底を取り替えただけの同じ表現である。実際、\(W=V\) とし、基底変換行列 \(P\) により \(\sigma(g)=P\rho(g)P^{-1}\) と変わる。

1.3 部分表現と商表現

定義:部分表現

\(U\subset V\) が \(G\)-不変、すなわち

\[ \rho(g)U\subset U\qquad(\forall g\in G) \]

を満たすとき、\(U\) は部分表現である。

\(U\subset V\) が部分表現なら、商空間 \(V/U\) には \[ g(v+U)=gv+U \] により自然に表現が入る。これを商表現という。

1.4 既約表現

定義:既約表現

表現 \(V\neq 0\) が既約であるとは、\(G\)-不変部分空間が

\[ 0, \quad V \]

しか存在しないことをいう。

既約表現は、表現論における「素因数」のような存在である。複素数体上の有限群表現は、後述の Maschke の定理により、既約表現の直和に必ず分解する。

1.5 直和・テンソル積・双対・Hom

直和

\(V,W\) が表現なら \(V\oplus W\) に \[ g(v,w)=(gv,gw) \] と定める。

テンソル積

\(V\otimes W\) に \[ g(v\otimes w)=gv\otimes gw \] と定める。

双対表現

\(V^*=\operatorname{Hom}_{\mathbb{C}}(V,\mathbb{C})\) に \[ (g f)(v)=f(g^{-1}v) \] と定める。

Hom 表現

\(\operatorname{Hom}(V,W)\) に \[ (gT)(v)=g\,T(g^{-1}v) \] と定める。これは \(W\otimes V^*\) と同型である。

2. 有限群表現のユニタリ化

有限群では、任意の表現をユニタリ表現と見なせる。これは有限群の表現論が非常に扱いやすい理由の一つである。

定理:平均化による不変内積

\(G\) を有限群、\((V,\rho)\) を有限次元複素表現とする。すると \(V\) 上に \(G\)-不変な Hermite 内積が存在する。すなわち

\[ \langle \rho(g)v,\rho(g)w\rangle_G =\langle v,w\rangle_G \qquad(\forall g\in G) \]

を満たす内積が存在する。

証明

任意の Hermite 内積 \(\langle -, -\rangle_0\) を一つ取る。次を定義する。

\[ \langle v,w\rangle_G =\frac{1}{|G|}\sum_{x\in G} \langle \rho(x)v,\rho(x)w\rangle_0. \]

正定値性と sesquilinearity は和から直ちに従う。任意の \(g\in G\) について

\[ \begin{aligned} \langle \rho(g)v,\rho(g)w\rangle_G &=\frac{1}{|G|}\sum_{x\in G} \langle \rho(xg)v,\rho(xg)w\rangle_0. \end{aligned} \]

\(x\mapsto xg\) は \(G\) の全単射なので、和は元の和と等しい。よって不変である。

帰結

適当な正規直交基底を選ぶと、全ての \(\rho(g)\) はユニタリ行列になる。したがって \(\rho(g^{-1})=\rho(g)^*\) である。

3. Maschke の定理:完全可約性

複素数体上の有限群表現の核心は、全ての表現が既約表現の直和に分解することにある。

Maschke の定理

\(G\) を有限群、\(V\) を有限次元複素表現とする。任意の部分表現 \(U\subset V\) に対し、別の部分表現 \(W\subset V\) が存在して

\[ V=U\oplus W \]

となる。特に任意の有限次元複素表現は既約表現の有限直和に分解する。

証明:射影の平均化

線形代数的に、\(U\) への射影 \(P:V\to U\) を一つ選ぶ。つまり \(P|_U=\operatorname{id}_U\) である。ただし一般には \(P\) は \(G\)-同変でない。そこで平均化する。

\[ P_G=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\rho(g)P\rho(g)^{-1}. \]

\(U\) は \(G\)-不変なので、\(P_G\) の像は \(U\) に含まれる。また \(u\in U\) に対して \(\rho(g)^{-1}u\in U\) だから \(P\rho(g)^{-1}u=\rho(g)^{-1}u\)、従って \(P_Gu=u\)。 よって \(P_G\) は \(U\) への射影である。

さらに任意の \(h\in G\) について

\[ \begin{aligned} \rho(h)P_G\rho(h)^{-1} &=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\rho(hg)P\rho(hg)^{-1} =P_G. \end{aligned} \]

つまり \(P_G\) は \(G\)-同変である。従って \(W=\ker P_G\) は \(G\)-不変で、\(V=U\oplus W\) となる。

3.1 完全可約性の意味

Maschke の定理により、複素表現論では「部分表現があれば必ず直和因子である」。したがって表現を理解する問題は、既約表現を分類し、各既約表現が何回出るかを調べる問題に帰着する。

既約分解の形
\[ V\cong \bigoplus_{i=1}^{r} m_i V_i, \]

ここで \(V_1,\dots,V_r\) は相異なる既約表現、\(m_i\in\mathbb{Z}_{\ge 0}\) は重複度である。この \(m_i\) は指標内積により一意に計算できる。

4. Schur の補題とその帰結

Schur の補題は、既約表現間の絡作用素を完全に記述する。有限群表現論の多くの直交関係は、この補題の影である。

Schur の補題 I

\(V,W\) を既約複素表現とし、\(T:V\to W\) を \(G\)-同変線形写像とする。このとき

  • \(T=0\)、または
  • \(T\) は同型

である。

証明

\(\ker T\subset V\) は \(G\)-不変部分空間である。\(V\) が既約なので \(\ker T=0\) または \(V\)。同様に \(\operatorname{im}T\subset W\) は \(G\)-不変であり、\(W\) が既約なので \(\operatorname{im}T=0\) または \(W\)。\(T\neq 0\) なら核は \(0\)、像は \(W\) であり、\(T\) は同型である。

Schur の補題 II

\(V\) を既約複素表現とし、\(T:V\to V\) を \(G\)-同変線形写像とする。このときある \(\lambda\in\mathbb{C}\) が存在して

\[ T=\lambda I_V \]

となる。

証明

\(\mathbb{C}\) は代数閉体なので \(T\) は固有値 \(\lambda\) を持つ。\(T-\lambda I\) も \(G\)-同変であり、固有ベクトルを持つため核が非零である。Schur の補題 I より \(T-\lambda I\) は同型ではないので \(0\) でなければならない。

End 環の形

既約複素表現 \(V\) について

\[ \operatorname{End}_G(V)=\mathbb{C}\cdot I_V. \]

互いに非同型な既約表現 \(V,W\) について

\[ \operatorname{Hom}_G(V,W)=0. \]

4.1 行列要素の直交性

Schur の補題は、後述する指標直交関係のより強い形、すなわち行列要素の直交関係を導く。

行列要素の直交関係

\(\rho_i:G\to U(V_i)\), \(\rho_j:G\to U(V_j)\) を相異なる既約ユニタリ表現、\(d_i=\dim V_i\) とする。正規直交基底での行列要素を \(\rho_i(g)_{ab}\) と書くと、

\[ \frac{1}{|G|}\sum_{g\in G} \rho_i(g)_{ab}\overline{\rho_j(g)_{cd}} = \begin{cases} \dfrac{1}{d_i}\delta_{ac}\delta_{bd}, & i=j,\\[6pt] 0, & i\neq j. \end{cases} \]

5. 群環 \(\mathbb{C}[G]\) と半単純代数

表現を群準同型として扱うこともできるが、群環の加群として扱うと構造がより明確になる。

群環

\(\mathbb{C}[G]\) は形式和

\[ \sum_{g\in G} a_g g\qquad(a_g\in\mathbb{C}) \]

全体の複素ベクトル空間であり、積は

\[ \left(\sum_g a_g g\right)\left(\sum_h b_h h\right) =\sum_{g,h}a_gb_h(gh) \]

により定義される。

5.1 表現と群環加群の同値

表現 \(\rho:G\to \operatorname{GL}(V)\) は、線形に拡張して代数準同型

\[ \widetilde\rho:\mathbb{C}[G]\to \operatorname{End}_{\mathbb{C}}(V), \qquad \widetilde\rho\left(\sum_g a_g g\right)=\sum_g a_g\rho(g) \]

を与える。逆に \(\mathbb{C}[G]\)-加群は、基底元 \(g\in G\) の作用を見れば \(G\)-表現を与える。

Wedderburn 分解:複素群環

\(V_1, \dots,V_r\) を \(G\) の相異なる既約複素表現の完全代表系とし、\(d_i=\dim V_i\) とする。このとき代数同型

\[ \mathbb{C}[G] \cong \bigoplus_{i=1}^{r}\operatorname{End}_{\mathbb{C}}(V_i) \cong \bigoplus_{i=1}^{r}M_{d_i}(\mathbb{C}) \]

が成り立つ。

次元公式

両辺の複素次元を比較すると、

\[ |G|=\sum_{i=1}^{r}d_i^2. \]

つまり有限群の位数は既約表現の次元の二乗和である。

5.2 中心と共役類和

群環の中心 \(Z(\mathbb{C}[G])\) は、共役類和によって基底を持つ。共役類 \(C\subset G\) に対して

\[ K_C=\sum_{g\in C}g \]

と置くと、\(K_C\) は中心元であり、全ての中心元はこれらの線形結合として一意に書ける。従って

\[ \dim Z(\mathbb{C}[G])=\#\{\text{共役類}\}. \]

一方、Wedderburn 分解により

\[ Z(\mathbb{C}[G])\cong \bigoplus_{i=1}^r \mathbb{C}. \]

よって、既約複素表現の個数は共役類の個数に等しい。

6. 指標:表現を跡で見る

指標は表現の行列の跡である。跡は基底変換で不変なので、指標は表現の同型類の情報を持つ。複素有限群表現では、指標は表現を完全に決定する。

指標

表現 \((V,\rho)\) の指標 \(\chi_V:G\to\mathbb{C}\) を

\[ \chi_V(g)=\operatorname{tr}\rho(g) \]

で定義する。

6.1 指標の基本性質

基本性質

任意の表現 \(V,W\) について以下が成り立つ。

  1. \(\chi_V(e)=\dim V\)。
  2. \(\chi_V(hgh^{-1})=\chi_V(g)\)。従って指標は class function である。
  3. \(\chi_{V\oplus W}=\chi_V+\chi_W\)。
  4. \(\chi_{V\otimes W}=\chi_V\chi_W\)、すなわち点ごとの積。
  5. \(\chi_{V^*}(g)=\chi_V(g^{-1})\)。ユニタリ化すれば \(\chi_V(g^{-1})=\overline{\chi_V(g)}\)。
  6. \(\chi_{\operatorname{Hom}(V,W)}=\chi_W\overline{\chi_V}\)。
証明の要点

(2) は跡の巡回性 \(\operatorname{tr}(ABA^{-1})=\operatorname{tr}(B)\) による。(3) はブロック対角行列の跡、(4) は \(\operatorname{tr}(A\otimes B)=\operatorname{tr}(A)\operatorname{tr}(B)\) による。(5) は双対行列が \(\rho(g^{-1})^{\mathsf{T}}\) であることから従う。

6.2 class function の空間

類関数

関数 \(f:G\to\mathbb{C}\) が

\[ f(hgh^{-1})=f(g) \qquad(\forall g,h\in G) \]

を満たすとき、\(f\) を類関数という。類関数の空間を \(\operatorname{CF}(G)\) と書く。

類関数は共役類上で一定なので、\(\dim\operatorname{CF}(G)=\#\{\text{共役類}\}\) である。既約指標はこの空間の正規直交基底になる。

7. 指標の内積と直交関係

類関数の内積

類関数 \(f,h:G\to\mathbb{C}\) に対し、

\[ \langle f,h\rangle_G =\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}f(g)\overline{h(g)} \]

と定める。共役類 \(C_1, \dots,C_r\) と代表元 \(g_j\) を使えば

\[ \langle f,h\rangle_G =\frac{1}{|G|}\sum_{j=1}^{r}|C_j|f(g_j)\overline{h(g_j)}. \]
Hom 次元公式

有限次元複素表現 \(V,W\) について

\[ \dim\operatorname{Hom}_G(V,W) =\langle \chi_W,\chi_V\rangle_G. \]
証明

\(\operatorname{Hom}(V,W)\) の \(G\)-不変部分空間は \(\operatorname{Hom}_G(V,W)\) である。不変部分への射影は Reynolds operator

\[ R(T)=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}gTg^{-1} \]

である。射影の跡は像の次元に等しいので、

\[ \dim\operatorname{Hom}_G(V,W)=\operatorname{tr}R. \]

\(\operatorname{Hom}(V,W)\cong W\otimes V^*\) の指標は \(\chi_W\overline{\chi_V}\) だから、

\[ \operatorname{tr}R =\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\chi_W(g)\overline{\chi_V(g)} =\langle\chi_W,\chi_V\rangle_G. \]
既約指標の直交関係

\(\chi_i, \chi_j\) を既約指標とすると、

\[ \langle \chi_i,\chi_j\rangle_G=\delta_{ij}. \]
証明

\(V_i,V_j\) を対応する既約表現とする。Hom 次元公式より

\[ \langle\chi_j,\chi_i\rangle_G=\dim\operatorname{Hom}_G(V_i,V_j). \]

Schur の補題より、これは \(i=j\) のとき \(1\)、\(i\neq j\) のとき \(0\) である。

7.1 分解重複度

指標による分解

\(V\cong\bigoplus_i m_iV_i\) なら

\[ \chi_V=\sum_i m_i\chi_i, \qquad m_i=\langle\chi_V,\chi_i\rangle_G. \]
既約性判定

表現 \(V\) が既約であるための必要十分条件は

\[ \langle\chi_V,\chi_V\rangle_G=1 \]

である。一般に \(V=\bigoplus_i m_iV_i\) なら

\[ \langle\chi_V,\chi_V\rangle_G=\sum_i m_i^2. \]

8. 指標表と列直交関係

指標表は、群の既約表現論を有限個の数値に圧縮した表である。行は既約指標、列は共役類である。

8.1 指標表の構造

共役類を \(C_1, \dots,C_r\)、代表元を \(g_1, \dots,g_r\)、既約指標を \(\chi_1, \dots, \chi_r\) とする。指標表は行列

\[ X=(\chi_i(g_j))_{1\le i,j\le r} \]

である。

行直交関係
\[ \frac{1}{|G|}\sum_{j=1}^{r}|C_j|\chi_i(g_j)\overline{\chi_k(g_j)} =\delta_{ik}. \]
列直交関係

\(g_j,g_k\) を共役類代表元とする。このとき

\[ \sum_{i=1}^{r}\chi_i(g_j)\overline{\chi_i(g_k)} = \begin{cases} |C_G(g_j)|, & g_j\text{ と }g_k\text{ が共役},\\ 0, & \text{そうでない}. \end{cases} \]

ここで \(C_G(g)=\{x\in G:xg=gx\}\) は中心化群である。\(|C_G(g_j)|=|G|/|C_j|\) である。

8.2 指標表から読める情報

既約次数

第一列、すなわち単位元列の値 \(\chi_i(e)=d_i\)。

群の位数

\(\sum_i \chi_i(e)^2=|G|\)。

一次指標

\(d_i=1\) の行は群準同型 \(G\to\mathbb{C}^\times\)。

テンソル積分解

\(\chi_{V\otimes W}=\chi_V\chi_W\) を既約指標に内積で分解する。

指標表の手計算の典型手順
  1. 共役類を求める。列数が既約指標の個数になる。
  2. 一次指標を \(G/[G,G]\) の指標として求める。
  3. 次数公式 \(\sum d_i^2=|G|\) で残りの次数を絞る。
  4. 自然な置換表現・標準表現・誘導表現から候補指標を作る。
  5. 行直交関係と列直交関係で未知数を決定する。
  6. 内積 \(1\) を確認して既約性を判定する。

9. 正則表現と射影公式

9.1 正則表現

左正則表現

\(\mathbb{C}[G]\) を基底 \(\{e_g:g\in G\}\) を持つベクトル空間とみなし、

\[ h\cdot e_g=e_{hg} \]

で定める表現を左正則表現という。

正則表現の指標

正則表現の指標 \(\chi_{\mathrm{reg}}\) は

\[ \chi_{\mathrm{reg}}(g)= \begin{cases} |G|, & g=e,\\ 0, & g\neq e. \end{cases} \]
証明

\(g\) の作用は基底 \(G\) を左から掛ける置換である。置換行列の跡は固定点数である。\(gx=x\) となる \(x\in G\) が存在するのは \(g=e\) のときだけであり、そのとき全ての \(x\) が固定される。

正則表現の分解

\(V_i\) を既約表現、\(d_i=\dim V_i\) とすると

\[ \mathbb{C}[G]\cong \bigoplus_i d_i V_i. \]
証明

\(V_i\) の重複度は

\[ \langle\chi_{\mathrm{reg}},\chi_i\rangle =\frac{1}{|G|}|G|\overline{\chi_i(e)}=d_i. \]

9.2 isotypic component への射影

\(V\) を任意の表現とし、\(V_i\) 型成分、つまり \(V_i\) と同型な既約成分の総和を \(V[i]\) と書く。

指標による射影公式

\(d_i=\chi_i(e)\) とする。\(V\) 上の \(V_i\)-isotypic component への射影は

\[ P_i =\frac{d_i}{|G|}\sum_{g\in G}\overline{\chi_i(g)}\rho(g) \]

で与えられる。

9.3 中心冪等元

群環の中心元

\[ e_i=\frac{d_i}{|G|}\sum_{g\in G}\overline{\chi_i(g)}g \]

は primitive central idempotent であり、

\[ e_i^2=e_i, \qquad e_ie_j=0\ (i\neq j), \qquad \sum_i e_i=1. \]

任意の表現 \(V\) で \(e_i\) を作用させると、上の射影 \(P_i\) になる。

10. 具体例 I:巡回群と有限アーベル群

10.1 巡回群 \(C_n\)

\(C_n=\langle a\mid a^n=e\rangle\) とする。複素表現では \(\rho(a)^n=I\) である。多項式 \(x^n-1\) は重根を持たず一次式に分解するので、\(\rho(a)\) は対角化可能で、固有値は \(n\) 乗根である。

巡回群の既約指標

\(\zeta_n=e^{2\pi i/n}\) とする。\(k=0,1, \dots,n-1\) に対し

\[ \chi_k(a^m)=\zeta_n^{km} \]

は一次既約指標であり、これらが全ての既約指標である。

10.2 有限アーベル群

\(G\) がアーベル群なら、任意の既約複素表現は一次元である。理由は、全ての \(\rho(g)\) が互いに可換なので、既約表現上では各 \(\rho(g)\) が Schur の補題によりスカラーになるからである。

有限アーベル群の指標群

有限アーベル群 \(G\) の既約指標全体は

\[ \widehat G=\operatorname{Hom}(G,\mathbb{C}^{\times}) \]

であり、\(|\widehat G|=|G|\)。また \(\widehat G\cong G\) だが、この同型は自然ではない。

インタラクティブ:巡回群 \(C_n\) の指標値を可視化

n=8 k=1

11. 具体例 II:対称群 \(S_3\)

\(S_3\) は 3 個の文字の置換群で、位数は \(6\) である。共役類は cycle type で分類される。

共役類代表元サイズ説明
\(C_1\)\(e\)1恒等置換
\(C_2\)\((12)\)3互換
\(C_3\)\((123)\)23-cycle

共役類が 3 個なので既約表現も 3 個である。次数の二乗和は \(6\) なので、次数は

\[ 1^2+1^2+2^2=6 \]

でなければならない。

\(e\)\((12)\)\((123)\)
\(\mathbf{1}\)111
\(\operatorname{sgn}\)1-11
\(\operatorname{std}\)20-1

11.1 標準表現

\(S_3\) は \(\mathbb{C}^3\) の標準基底を置換して作用する。この置換表現は、自明部分空間

\[ \mathbb{C}(1,1,1) \]

と、その補空間

\[ V=\{(x_1,x_2,x_3):x_1+x_2+x_3=0\} \]

に分解する。この 2 次元表現が標準表現である。

インタラクティブ:\(S_3\) 標準表現の行列

基底 \(b_1=e_1-e_3,\ b_2=e_2-e_3\) に関する標準表現の行列を表示する。

11.2 テンソル積

指標を掛け算して内積を取れば、テンソル積分解がわかる。\(S_3\) では

\[ \operatorname{std}\otimes\operatorname{std} \cong \mathbf{1}\oplus\operatorname{sgn}\oplus\operatorname{std}. \]

12. インタラクティブ:指標表・直交関係・テンソル積分解

下の計算機では、いくつかの小さな有限群について、共役類、指標表、行直交関係、正則表現分解、テンソル積分解を確認できる。

テンソル積分解

13. 置換表現と Burnside の補題

群作用から得られる置換表現は、組合せ論と表現論を結びつける。

置換指標

\(G\) が有限集合 \(X\) に作用するとき、置換表現 \(\mathbb{C}X\) の指標は

\[ \chi_X(g)=\#\{x\in X:gx=x\} \]

である。

Burnside の補題

\(G\) が有限集合 \(X\) に作用するとき、軌道の個数は

\[ |X/G|=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\#X^g \]

である。ここで \(X^g=\{x\in X:gx=x\}\)。

表現論的証明

置換表現 \(\mathbb{C}X\) の \(G\)-不変部分空間は、各軌道上で定数な関数から成るので、その次元は軌道数に等しい。一方、不変部分への射影の跡は

\[ \frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\chi_X(g) =\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\#X^g. \]

13.1 推移的作用と誘導表現

\(X\cong G/H\) が推移的 \(G\)-集合なら、置換表現は

\[ \mathbb{C}[G/H]\cong \operatorname{Ind}_H^G \mathbf{1}_H \]

と書ける。したがって置換表現は誘導表現の最初の重要例である。

14. 制限表現・誘導表現・Frobenius 相互律

14.1 制限表現

\(H\le G\) を部分群とする。\(G\)-表現 \(V\) の作用を \(H\) に制限すると、\(H\)-表現が得られる。これを

\[ \operatorname{Res}_H^G V \]

と書く。指標は単に関数を \(H\) に制限したものである。

14.2 誘導表現

誘導表現

\(W\) を \(H\)-表現とする。誘導表現を

\[ \operatorname{Ind}_H^G W =\mathbb{C}[G]\otimes_{\mathbb{C}[H]} W \]

と定義する。\(G\) は左から \(\mathbb{C}[G]\) に掛けることで作用する。

左剰余類代表 \(t_1, \dots,t_m\) を取ると、ベクトル空間として

\[ \operatorname{Ind}_H^G W \cong \bigoplus_{a=1}^{m}t_a\otimes W, \qquad m=[G:H]. \]

従って

\[ \dim\operatorname{Ind}_H^G W=[G:H]\dim W. \]

14.3 誘導指標の公式

誘導指標公式

\(\theta\) を \(H\)-表現 \(W\) の指標とする。\(\theta\) を \(H\) の外では \(0\) と拡張すると、

\[ \operatorname{Ind}_H^G\theta(g) =\frac{1}{|H|}\sum_{x\in G}\theta(x^{-1}gx). \]
Frobenius 相互律

\(V\) を \(G\)-表現、\(W\) を \(H\)-表現とする。このとき自然同型

\[ \operatorname{Hom}_G(\operatorname{Ind}_H^G W,V) \cong \operatorname{Hom}_H(W,\operatorname{Res}_H^G V) \]

がある。指標の言葉では

\[ \langle \operatorname{Ind}_H^G\theta,\chi\rangle_G = \langle\theta,\operatorname{Res}_H^G\chi\rangle_H. \]
Hom 随伴による証明

\(G\)-準同型 \(F:\mathbb{C}[G]\otimes_{\mathbb{C}[H]}W\to V\) は、\(w\mapsto F(1\otimes w)\) により \(H\)-準同型 \(W\to \operatorname{Res}_H^GV\) を与える。逆に \(H\)-準同型 \(f:W\to V\) から

\[ F(g\otimes w)=g f(w) \]

と定めれば、これは well-defined な \(G\)-準同型になる。両者は互いに逆である。

14.4 Mackey 分解公式

Mackey の制限・誘導分解

\(H,K\le G\)、\(W\) を \(H\)-表現とする。\(K\backslash G/H\) の代表元集合を \(D\) とすると、

\[ \operatorname{Res}_K^G\operatorname{Ind}_H^G W \cong \bigoplus_{x\in D} \operatorname{Ind}_{K\cap xHx^{-1}}^K \operatorname{Res}_{K\cap xHx^{-1}}^{xHx^{-1}}({}^{x}W). \]

ここで \({}^{x}W\) は \(xHx^{-1}\)-表現で、\(xhx^{-1}\) が \(W\) 上で \(h\) として作用するものをいう。

15. テンソル積、表現環、対称冪・外冪

15.1 表現環

有限群 \(G\) の複素表現の同型類から、Grothendieck 群 \(R(G)\) を作る。加法は直和、乗法はテンソル積である。

\[ [V]+[W]=[V\oplus W], \qquad [V][W]=[V\otimes W]. \]

指標は環準同型

\[ R(G)\longrightarrow \operatorname{CF}(G) \]

を与える。複素表現ではこれは単射であり、既約指標を基底とする格子に埋め込む。

15.2 対称平方・外平方の指標

\(V\otimes V\) は対称部分 \(S^2V\) と交代部分 \(\Lambda^2V\) に分解する。

平方の指標公式
\[ \chi_{S^2V}(g)=\frac{\chi_V(g)^2+\chi_V(g^2)}{2}, \qquad \chi_{\Lambda^2V}(g)=\frac{\chi_V(g)^2-\chi_V(g^2)}{2}. \]
証明の核心

\(V\otimes V\) 上の flip \(\tau(v\otimes w)=w\otimes v\) を考える。\(S^2V\) と \(\Lambda^2V\) への射影は \((1+\tau)/2\), \((1-\tau)/2\)。\(g\) の固有値を \(\lambda_1, \dots, \lambda_n\) とすれば、\(S^2V\) での固有値は \(\lambda_i\lambda_j\ (i\le j)\)、外平方では \(i

16. Fourier 解析としての有限アーベル群表現論

有限アーベル群の表現論は有限 Fourier 解析そのものである。関数 \(f:G\to\mathbb{C}\) に対して、指標 \(\chi\in\widehat G\) 方向の Fourier 係数を

\[ \widehat f(\chi)=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}f(g)\overline{\chi(g)} \]

と定める。指標の直交関係から反転公式

\[ f(g)=\sum_{\chi\in\widehat G}\widehat f(\chi)\chi(g) \]

が成り立つ。

16.1 畳み込みと対角化

\(f,h:G\to\mathbb{C}\) の畳み込みを

\[ (f*h)(x)=\sum_{y\in G}f(y)h(y^{-1}x) \]

と定めると、Fourier 変換は畳み込みを積に変える。

\[ \widehat{f*h}(\chi)=|G|\widehat f(\chi)\widehat h(\chi) \]

規格化を変えれば係数 \(|G|\) は消える。これは群環 \(\mathbb{C}[G]\) が指標によって同時対角化されることを意味する。

17. 実表現・有理表現・Frobenius--Schur 指標

複素既約表現が実数体上で実現できるか、あるいは四元数的な性質を持つかは、Frobenius--Schur 指標で判定できる。

Frobenius--Schur 指標

既約複素指標 \(\chi\) に対して

\[ \nu(\chi)=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}\chi(g^2) \]

と定める。

三つの型

既約複素表現 \(V\) について、\(\nu(\chi_V)\) は \(1,0,-1\) のいずれかである。

  • \(\nu=1\):実型。\(G\)-不変な非退化対称双線形形式を持ち、実表現から複素化で得られる。
  • \(\nu=0\):複素型。\(V\not\cong V^*\)。
  • \(\nu=-1\):四元数型。\(G\)-不変な非退化交代双線形形式を持つが、実既約表現の複素化としては既約でない形で現れる。

17.1 有理表現

有理数体 \(\mathbb{Q}\) 上の表現では、複素既約表現が Galois 共役にまとめられ、さらに Schur index が関わる。したがって「複素既約指標を Galois 軌道でまとめる」だけでは完全には足りない場合がある。有限群の有理表現論は、指標値体、Schur 指数、単純成分の中心を調べる問題になる。

18. モジュラー表現論への入口

ここまでの理論は主に \(\mathbb{C}\) 上であった。一般の体 \(K\) 上でも、\(\operatorname{char}K\nmid |G|\) なら Maschke の定理が成り立つ。しかし \(\operatorname{char}K=p\mid |G|\) のとき、表現論は根本的に異なる。

Maschke の定理の一般形

体 \(K\) 上の有限群 \(G\) の表現が全て完全可約であるための必要十分条件は

\[ \operatorname{char}K\nmid |G| \]

である。

非半単純性の最小例

\(G=C_p=\langle g\rangle\)、\(K\) を標数 \(p\) の体とする。このとき

\[ K[C_p]\cong K[x]/(x^p-1)=K[x]/((x-1)^p) \]

であり、これは冪零元を持つ局所環である。したがって半単純でない。

18.1 何が難しくなるか

直和分解できない

部分表現が補表現を持たないことがある。

指標だけでは不十分

跡は多くの情報を失い、複素指標のような完全分類を与えない。

射影加群が重要

projective cover、injective module、Ext 群などが現れる。

ブロック分解

群環は block と呼ばれる直積成分に分かれ、defect group が構造を支配する。

18.2 Brauer 指標

標数 \(p\) の代数閉体上では、\(p\)-正則元、すなわち位数が \(p\) で割れない元に対して Brauer 指標が定義される。Brauer 指標は単純加群を区別するが、通常の複素指標と異なり全ての元ではなく \(p\)-正則共役類上で定義される。

19. 代表的な群の指標表

19.1 Klein 四元群 \(V_4\)

\(V_4=C_2\times C_2=\{e,a,b,c\}\) はアーベル群なので全ての既約表現は一次元である。

eabc
\(\chi_1\)1111
\(\chi_a\)11-1-1
\(\chi_b\)1-11-1
\(\chi_c\)1-1-11

19.2 二面体群 \(D_4\)

\(D_4=\langle r,s\mid r^4=s^2=e, \ srs=r^{-1}\rangle\) は正方形の対称群で位数 \(8\) である。共役類は

\[ \{e\},\quad\{r^2\},\quad\{r,r^3\},\quad\{s,r^2s\},\quad\{rs,r^3s\}. \]
\(e\)\(r^2\)\(r,r^3\)\(s,r^2s\)\(rs,r^3s\)
\(A_1\)11111
\(A_2\)111-1-1
\(B_1\)11-11-1
\(B_2\)11-1-11
\(E\)2-2000

19.3 四元数群 \(Q_8\)

\(Q_8=\{\pm1,\pm i,\pm j,\pm k\}\) も位数 \(8\) で、共役類サイズは \(1,1,2,2,2\)。指標表は \(D_4\) に非常に似ているが、群構造は異なる。

20. 計算アルゴリズムまとめ

20.1 与えられた指標を分解する

入力

共役類サイズ \(|C_j|\)、既約指標表 \(\chi_i(g_j)\)、分解したい指標 \(\chi(g_j)\)。

出力

重複度

\[ m_i=\frac{1}{|G|}\sum_j |C_j|\chi(g_j)\overline{\chi_i(g_j)}. \]

20.2 指標表の整合性チェック

  1. 行数 = 列数 = 共役類数。
  2. 第一列の正整数 \(d_i\) が \(\sum d_i^2=|G|\) を満たす。
  3. 行直交関係が成り立つ。
  4. 列直交関係が成り立つ。
  5. 各指標値は代数的整数である。
  6. 一次指標の個数は \(|G/[G,G]|\) に等しい。

20.3 既約性判定

表現行列が与えられているとき、まず指標を計算し、

\[ \frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}|\chi(g)|^2 \]

を計算する。これが \(1\) なら既約である。整数 \(>1\) なら可約であり、その値は既約成分の重複度二乗和である。

21. よくある誤解と注意点

誤解 1:同じ次元なら同型

同じ次元の既約表現が複数存在することは普通にある。たとえば \(V_4\) には四つの一次既約表現がある。判定には指標全体を見る必要がある。

誤解 2:指標値はいつも実数

巡回群 \(C_3\) の非自明指標は \(\omega=e^{2\pi i/3}\) を値に持つ。指標値は一般に複素数である。ただし \(\chi(g^{-1})=\overline{\chi(g)}\) は成り立つ。

誤解 3:既約分解そのものが標準的

表現の既約分解の「重複度」は一意だが、同じ既約表現が複数回出る場合、そのコピーの選び方は一意でない。標準的なのは isotypic component である。

誤解 4:モジュラー表現でも同じ

標数が \(|G|\) を割ると、Maschke の定理が壊れ、指標表だけで分類する複素表現論の絵はそのまま使えない。

22. 演習と解答

演習 1:一次表現とアーベル化

一次表現 \(\chi:G\to\mathbb{C}^{\times}\) は必ず \(G/[G,G]\) を経由することを示せ。

解答

\(\mathbb{C}^{\times}\) はアーベル群なので、任意の交換子 \([g,h]=ghg^{-1}h^{-1}\) に対し \(\chi([g,h])=\chi(g)\chi(h)\chi(g)^{-1}\chi(h)^{-1}=1\)。従って交換子群 \([G,G]\) は核に含まれ、\(\chi\) は商 \(G/[G,G]\) 上の準同型を誘導する。

演習 2:\(S_3\) の置換表現を分解せよ

\(S_3\) の \(\{1,2,3\}\) への自然作用から得られる 3 次元置換表現を既約分解せよ。

解答

置換指標は固定点数であり、共役類 \(e,(12),(123)\) 上で \((3,1,0)\)。\(S_3\) の指標表の自明指標 \((1,1,1)\) と標準指標 \((2,0,-1)\) の和が \((3,1,0)\) である。したがって \[ \mathbb{C}^3\cong \mathbf{1}\oplus\operatorname{std}. \]

演習 3:正則表現の不変部分

左正則表現 \(\mathbb{C}[G]\) の \(G\)-不変部分空間 \(\mathbb{C}[G]^G\) の次元を求めよ。

解答

左から全ての \(g\) で不変なベクトルは、全ての基底元の係数が等しいものに限る。従って \[ \mathbb{C}[G]^G=\mathbb{C}\sum_{g\in G}g \] であり、次元は \(1\)。指標内積でも \(\langle\chi_{\mathrm{reg}},1\rangle=1\)。

演習 4:\(D_4\) の二次既約表現の既約性

\(D_4\) の自然な平面上の表現の指標は \((2,-2,0,0,0)\) である。この表現が既約であることを示せ。

解答

共役類サイズは \((1,1,2,2,2)\)、位数は \(8\)。内積は \[ \frac{1}{8}(1\cdot 2^2+1\cdot(-2)^2)=1. \] よって既約性判定により既約である。

演習 5:テンソル積の分解

\(S_3\) の標準表現 \(V\) について \(V\otimes V\) を分解せよ。

解答

\(\chi_V=(2,0,-1)\) なので、\(\chi_{V\otimes V}=(4,0,1)\)。既約指標 \(1=(1,1,1)\)、\(\operatorname{sgn}=(1,-1,1)\)、\(V=(2,0,-1)\) との内積を取ると全て \(1\)。従って \[ V\otimes V\cong \mathbf{1}\oplus\operatorname{sgn}\oplus V. \]

23. 全体の要約

複素数体上の有限群表現論は、次の流れで完結する。

  1. 有限性により内積を平均化でき、表現をユニタリ化できる。
  2. Maschke の定理により全ての表現は既約表現の直和になる。
  3. Schur の補題により既約表現間の Hom が極端に単純になる。
  4. 指標内積により既約指標は正規直交系になる。
  5. 既約指標の個数は共役類の個数であり、既約指標は類関数空間の正規直交基底になる。
  6. 任意の表現の既約重複度は \(m_i=\langle\chi_V,\chi_i\rangle\) で計算できる。
  7. 群環は \(\mathbb{C}[G]\cong\bigoplus_i M_{d_i}(\mathbb{C})\) と分解し、\(|G|=\sum_i d_i^2\) が従う。
  8. 誘導表現と Frobenius 相互律により、部分群の表現から群全体の表現を構成・解析できる。
最重要公式集
\[ \begin{gathered} \langle f,h\rangle_G=\frac{1}{|G|}\sum_{g\in G}f(g)\overline{h(g)},\\ \langle\chi_i,\chi_j\rangle_G=\delta_{ij},\\ V\cong\bigoplus_i \langle\chi_V,\chi_i\rangle V_i,\\ \mathbb{C}[G]\cong\bigoplus_i d_i V_i, \qquad |G|=\sum_i d_i^2,\\ P_i=\frac{d_i}{|G|}\sum_{g\in G}\overline{\chi_i(g)}\rho(g),\\ \operatorname{Ind}_H^G\theta(g)=\frac{1}{|H|}\sum_{x\in G}\theta(x^{-1}gx),\\ \langle \operatorname{Ind}_H^G\theta,\chi\rangle_G =\langle\theta,\operatorname{Res}_H^G\chi\rangle_H. \end{gathered} \]

24. 参考文献・次に読む本

より深く学ぶには、以下の標準的な文献が有用である。

  • Serre, Linear Representations of Finite Groups.
  • Fulton and Harris, Representation Theory: A First Course.
  • James and Liebeck, Representations and Characters of Groups.
  • Isaacs, Character Theory of Finite Groups.
  • Alperin, Local Representation Theory:モジュラー表現論へ進む場合。