Finite Group Representation Theory / Visual Report

有限群の表現論:DOT + d3-graphviz 可視化拡充版

定義・定理を「点と矢印」に翻訳し、群作用、Cayley グラフ、部分群束、指標表、Wedderburn 分解、誘導・制限をインタラクティブに眺めるための補助レポート。

1. このレポートの使い方

前回の基礎レポートが「理論を順に読む」ためのものだとすれば、このレポートは「同じ理論を構造として見る」ためのものです。図は DOTGraphvizd3-graphviz で描画します。

表示条件:この HTML は MathJax と d3-graphviz を CDN から読み込みます。インターネット接続がない場合でも本文と DOT コードは読めますが、グラフ描画と数式レンダリングは制限されることがあります。

図を選ぶ

ワークスペースでプリセットを選ぶと、その DOT コードと説明が表示されます。

DOT を編集する

ノード名、辺、ラベル、色、向きを変えて 描画 を押すと、概念図を自分で改造できます。

式と図を往復する

たとえば Maschke の平均化式と射影図、指標表と二部グラフを対応させて読みます。

2. 表現論をグラフで読む原理

有限群の表現論では、抽象群 \(\displaystyle G\) を線形空間上の行列作用に移す:

\[ \rho:G\longrightarrow GL(V),\qquad \rho(gh)=\rho(g)\rho(h),\quad \rho(e)=I. \]

この写像は「群の積」を「行列の積」に保存します。したがって Cayley グラフで見た生成元による移動は、表現空間では基底ベクトルや固有空間の移動として現れます。

図式化の対応:
代数的対象グラフでの見方表現論での意味
生成元 \(s\in G\)辺・矢印行列 \(\rho(s)\)
関係式 \(s^m=e\)閉路\(\rho(s)^m=I\)
部分群 \(H\le G\)束のノード制限・誘導の基準
共役類同色クラスタ指標が定数になる単位
既約分解ブロック分解半単純性と Wedderburn 分解

特に指標 \(\chi_\rho(g)=\operatorname{tr}\rho(g)\) は共役で不変です。なぜなら

\[ \chi_\rho(hgh^{-1}) =\operatorname{tr}\bigl(\rho(h)\rho(g)\rho(h)^{-1}\bigr) =\operatorname{tr}\rho(g). \]

この「共役類上で同じ値」という性質により、指標表は群の全要素ではなく共役類だけを列に持つ小さな表になります。

3. DOT インタラクティブ・ワークスペース

以下で図を選び、DOT を編集し、描画できます。向き LR は左から右、TB は上から下です。

読み込み中です。

図のタイトル

Graphviz の構文エラーがある場合、下のステータス欄にエラーが出ます。まずはラベルだけ変更してみるのが安全です。

4. 群作用、Cayley グラフ、置換表現

群が集合 \(X\) に作用すると、各 \(g\in G\) は \(X\) の置換を与えます。これを線形化すると、基底 \(\{e_x\}_{x\in X}\) を持つベクトル空間 \(\mathbb C[X]\) 上の置換表現になります:

\[ \rho_X(g)e_x=e_{g x}. \]
置換表現の指標: \(\rho_X\) の指標は \[ \chi_X(g)=\#\{x\in X:gx=x\}. \] つまり「固定点の数」です。

Cayley グラフは \(X=G\) に左正則作用を入れた場合の可視化です。ノードが群要素、生成元による左掛けが辺です。このとき得られる正則表現 \(\mathbb C[G]\) は非常に重要で、既約表現 \(V_i\) を次元だけ重複して含みます:

\[ \mathbb C[G]\cong \bigoplus_i (\dim V_i)V_i. \]

ワークスペースで「C4 の Cayley グラフ」「S3 の Cayley グラフ」を切り替え、生成元の閉路が群の関係式を表していることを確認してください。

5. Maschke と半単純性を図で読む

有限群の複素表現論が強力なのは、すべての有限次元表現が既約表現の直和に分解するからです。核心は平均化です。部分表現 \(W\subset V\) が与えられたとき、普通の線形代数で補空間を取っても、それが \(G\)-不変とは限りません。

そこで任意の射影 \(P:V\to W\) を次で平均します:

\[ P_G=\frac1{|G|}\sum_{g\in G}\rho(g)P\rho(g)^{-1}. \]

この \(P_G\) は \(G\)-同変で、かつ \(P_G|_W=\operatorname{id}_W\) です。したがって

\[ V=W\oplus \ker(P_G) \]

となり、\(\ker(P_G)\) も \(G\)-不変です。ワークスペースの「Maschke の定理」を見ると、線形射影を群作用で対称化する流れが一枚の図になります。

視覚的な要点:「不変ではない補空間」を直接探すのではなく、「不変な射影」を作り、その核を補空間にする。これが平均化法の典型的な発想です。

6. 指標表の可視化:行、列、重み

既約指標 \(\chi_i\) どうしの内積は

\[ \langle \chi_i,\chi_j\rangle =\frac1{|G|}\sum_{g\in G}\chi_i(g)\overline{\chi_j(g)} =\frac1{|G|}\sum_{C}\,|C|\chi_i(C)\overline{\chi_j(C)}. \]

共役類ごとの和に直すと、列には重み \(|C|/|G|\) が付くことが分かります。したがって指標表の行直交性は「重み付きユークリッド内積」の直交性です。

S3 の指標表:
1A, size 12A, size 33A, size 2
\(1\)111
\(\operatorname{sgn}\)1-11
\(\sigma\)20-1
たとえば標準表現のノルムは \[ \frac{1\cdot 2^2+3\cdot 0^2+2\cdot (-1)^2}{6}=1. \]

ワークスペースの「S3 の指標表を二部グラフとして読む」では、行=既約表現、列=共役類、辺ラベル=指標値として見ます。

7. テンソル積・誘導・制限をグラフで追う

表現 \(V,W\) のテンソル積は

\[ g\cdot(v\otimes w)=(gv)\otimes(gw) \]

で定義され、指標は点ごとの積になります:

\[ \chi_{V\otimes W}(g)=\chi_V(g)\chi_W(g). \]

S3 の 2 次元標準表現 \(\sigma\) については

\[ \sigma\otimes\sigma\cong 1\oplus \operatorname{sgn}\oplus \sigma. \]

これは「\(\sigma\) をテンソルする」という操作を、既約表現を頂点とするグラフ上の矢印として見ることができます。

Frobenius 相互律: \(H\le G\)、\(W\) を \(H\) の表現、\(V\) を \(G\) の表現とすると \[ \operatorname{Hom}_G(\operatorname{Ind}_H^G W,V) \cong \operatorname{Hom}_H(W,\operatorname{Res}_H^G V). \] 可視化すると、誘導は部分群束を上に進む操作、制限は下に進む操作です。

8. DOT の最小文法

このレポートの図を編集するために必要な DOT 文法は少しだけです。

有向グラフ

digraph Example {
  graph [rankdir=LR];
  A -> B [label="写像"];
  B -> C;
}

無向グラフ

graph Example {
  A -- B [label="関係"];
  B -- C;
}

ノードや辺に属性をつけると、色、形、ラベルを変えられます。

node [shape=box, style="rounded,filled", fillcolor="#eff6ff"];
edge [color="#64748b"];
V [label="表現空間 V"];
W [label="部分表現 W"];
V -> W [label="射影"];

表現論では「写像」「包含」「分解」「制限・誘導」を矢印にすると、定理の構造が見えやすくなります。