有限群のコホモロジー

有限群 \(G\) と \(G\)-加群 \(M\) に対する群コホモロジーを、導来関手、標準バー分解、低次元の分類的意味、有限群特有の消滅定理、巡回群の完全計算、カップ積、Shapiro の補題、制限・移送、Lyndon–Hochschild–Serre スペクトル系列、Tate コホモロジーまで体系的にまとめる。

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0. 全体像

主題。 群コホモロジー \(H^n(G,M)\) は、\(G\)-作用をもつ加群 \(M\) の不変部分 \[ M^G=\{m\in M\mid gm=m\ \forall g\in G\} \] を取る関手が、どれだけ完全でないかを測る右導来関手である。

同じ理論は、少なくとも次の四つの言語で説明できる。

導来関手。
\(M^G\cong\Hom_{\ZZ[G]}(\ZZ,M)\) の右導来関手として \(H^n(G,M)=\Ext^n_{\ZZ[G]}(\ZZ,M)\) と定義する。
具体的コチェイン。
写像 \(f:G^n\to M\) に明示的な微分 \(\delta\) を入れ、\(Z^n/B^n\) を取る。
分類問題。
\(H^1\) は交差準同型、\(H^2\) はアーベル核の群拡大、\(H^3\) は各種の障害類を記録する。
位相。
自明係数では \(H^n(G,M)\cong H^n(BG,M)\)。非自明係数では \(BG\) 上の局所係数コホモロジーになる。

有限群の場合、\(|G|\) という数が理論全体を支配する。\(|G|\) が係数で可逆なら正次数のコホモロジーは消え、一般には正次数のコホモロジーは \(|G|\)-torsion になる。このため有限群コホモロジーは、素数 \(p\mid |G|\)、Sylow 部分群、局所化、モジュラー表現論と深く結びつく。

1. 基礎設定:群環、\(G\)-加群、不変部分

1.1 群環

定義 1.1:整数係数群環

群 \(G\) に対し、整数係数群環 \(\ZZ[G]\) は有限形式和

\[ \sum_{g\in G}a_g g\qquad (a_g\in\ZZ) \]

全体である。加法は係数ごとの加法、乗法は

\[ \left(\sum_g a_g g\right)\left(\sum_h b_h h\right) = \sum_{g,h}a_gb_h(gh) \]

で定める。有限群なら \(\ZZ[G]\) は自由 \(\ZZ\)-加群として階数 \(|G|\) を持つ。

1.2 \(G\)-加群

定義 1.2:左 \(G\)-加群

左 \(G\)-加群とは、アーベル群 \(M\) と作用 \(G\times M\to M\), \((g,m)\mapsto gm\) で

\[ 1m=m,\qquad (gh)m=g(hm),\qquad g(m+m')=gm+gm' \]

を満たすものをいう。同値に、\(M\) は左 \(\ZZ[G]\)-加群である。

このレポートでは一貫して左作用を使う。右作用を使う文献では、コチェイン微分の作用位置や符号の書き方が変わる。

1.3 自明加群、不変部分、余不変部分

定義 1.3:自明加群

すべての \(g\in G\) が恒等写像として作用するとき、\(M\) を自明 \(G\)-加群という。典型例は \(\ZZ,\QQ,\FF_p,\CC^\times,U(1)\) などである。

定義 1.4:不変部分と余不変部分

不変部分は

\[ M^G=\{m\in M\mid gm=m\ \forall g\in G\} \tag{1.1} \]

である。余不変部分は

\[ M_G=M/\langle gm-m\mid g\in G,\ m\in M\rangle \tag{1.2} \]

である。増大写像 \(\varepsilon:\ZZ[G]\to\ZZ\), \(\varepsilon(\sum a_g g)=\sum a_g\) の核を \(I_G\) と書けば、\(M_G=M/I_GM\)。

命題 1.5:不変部分は Hom で書ける

\(\ZZ\) を自明 \(\ZZ[G]\)-加群と見ると、自然同型

\[ M^G\cong\Hom_{\ZZ[G]}(\ZZ,M) \tag{1.3} \]

がある。

証明

\(\varphi:\ZZ\to M\) が \(\ZZ[G]\)-線形なら \(\varphi\) は \(m=\varphi(1)\) で決まる。任意の \(g\in G\) について

\[ gm=g\varphi(1)=\varphi(g\cdot 1)=\varphi(1)=m \]

なので \(m\in M^G\)。逆に \(m\in M^G\) なら、\(n\mapsto nm\) は \(\ZZ[G]\)-線形写像 \(\ZZ\to M\) である。二つの対応は互いに逆である。

1.4 不変部分関手は左完全

\(G\)-加群の短完全列

\[ 0\to A\to B\to C\to 0 \]

に不変部分を取ると

\[ 0\to A^G\to B^G\to C^G \]

は完全である。しかし一般に \(B^G\to C^G\) は全射ではない。この「全射でなさ」をまず \(H^1\) が測り、その先の失敗を高次 \(H^n\) が測る。

例 1.6:全射性の失敗

\(G=C_2=\{1,\sigma\}\) とし、\(\ZZ\) に符号作用 \(\sigma x=-x\) を入れる。短完全列

\[ 0\to 2\ZZ\to \ZZ\to \ZZ/2\ZZ\to0 \]

は \(G\)-加群の短完全列である。ところが \(\ZZ^G=0\) である一方、\((\ZZ/2\ZZ)^G=\ZZ/2\ZZ\) なので、不変部分を取ると最後が全射でない。

2. 抽象的定義:導来関手としての群コホモロジー

2.1 定義

定義 2.1:群コホモロジー

\(G\)-加群 \(M\) の \(n\) 次群コホモロジーを

\[ H^n(G,M)=R^n(M\mapsto M^G)(M) \tag{2.1} \]

で定義する。命題 1.5 から、同値に

\[ H^n(G,M)\cong \Ext^n_{\ZZ[G]}(\ZZ,M) \tag{2.2} \]

である。

2.2 \(\Ext\) と射影分解

\(\ZZ\) の \(\ZZ[G]\)-射影分解

\[ \cdots\to P_2\to P_1\to P_0\to \ZZ\to0 \]

を取る。すると

\[ 0\to\Hom_{\ZZ[G]}(P_0,M) \to\Hom_{\ZZ[G]}(P_1,M) \to\Hom_{\ZZ[G]}(P_2,M)\to\cdots \]

というコチェイン複体が得られる。この \(n\) 次コホモロジーが \(\Ext^n_{\ZZ[G]}(\ZZ,M)\) であり、射影分解の選択に依存しない。

射影分解は「自明加群 \(\ZZ\) を自由な \(G\)-加群の複体で置き換える」操作である。その後 \(\Hom_{\ZZ[G]}(-,M)\) を適用することで、\(G\)-同変な写像の複体が生じる。

2.3 長完全列

定理 2.2:係数短完全列からの長完全列

\(0\to A\to B\to C\to0\) が \(G\)-加群の短完全列なら、自然な長完全列

\[ \begin{aligned} 0&\to H^0(G,A)\to H^0(G,B)\to H^0(G,C)\\ &\xrightarrow{\partial}H^1(G,A)\to H^1(G,B)\to H^1(G,C)\\ &\xrightarrow{\partial}H^2(G,A)\to H^2(G,B)\to H^2(G,C)\to\cdots \end{aligned} \tag{2.3} \]

が存在する。

接続準同型 \(H^0(G,C)\to H^1(G,A)\) の具体式

\(c\in C^G\) を取り、\(B\) の元 \(b\) を \(p(b)=c\) となるように選ぶ。\(c\) は不変なので \(p(gb-b)=0\)、従って \(gb-b\in A\)。そこで

\[ f_c(g)=gb-b \tag{2.4} \]

と置くと、\(f_c:G\to A\) は 1-コサイクルである。別の持ち上げ \(b+a\) を選ぶと \(f_c\) は \(g\mapsto ga-a\) だけ変わるので、コホモロジー類は well-defined である。

3. バー分解と非同次コチェイン複体

3.1 同次バー分解

定義 3.1:同次バー分解

\(B_n=\ZZ[G^{n+1}]\) とし、生成元を \((g_0,\dots,g_n)\) と書く。\(G\) は左から同時に作用する:

\[ h(g_0,\dots,g_n)=(hg_0,\dots,hg_n). \]

微分を

\[ d_n(g_0,\dots,g_n)=\sum_{i=0}^{n}(-1)^i(g_0,\dots,\widehat{g_i},\dots,g_n) \tag{3.1} \]

で定め、\(\varepsilon:B_0\to\ZZ\) を \(\varepsilon(g_0)=1\) で定める。

定理 3.2:同次バー複体は自由分解である

複体

\[ \cdots\to B_2\to B_1\to B_0\to\ZZ\to0 \tag{3.2} \]

は \(\ZZ[G]\)-自由分解である。

証明

各 \(B_n\) は \(\ZZ[G]\)-自由で、\((1,g_1,\dots,g_n)\) を基底にできる。\(d^2=0\) は、二つの添字 \(i \[ (-1)^i(-1)^{j-1}+(-1)^j(-1)^i=0 \]

で打ち消すことから従う。完全性は、\(G\)-作用を忘れた複体に縮約ホモトピー

\[ s_n(g_0,\dots,g_n)=(1,g_0,\dots,g_n) \]

を入れ、\(ds+sd=\id\) を直接確認すればよい。

3.2 同次コチェイン

\(\Hom_{\ZZ[G]}(B_n,M)\) は、写像 \(F:G^{n+1}\to M\) で

\[ F(hg_0,\dots,hg_n)=hF(g_0,\dots,g_n) \tag{3.3} \]

を満たすものと同一視できる。微分は

\[ (dF)(g_0,\dots,g_{n+1}) = \sum_{i=0}^{n+1}(-1)^iF(g_0,\dots,\widehat{g_i},\dots,g_{n+1}) \tag{3.4} \]

である。

3.3 非同次コチェイン

定義 3.3:非同次コチェイン複体

\(n\ge1\) で

\[ C^n(G,M)=\Map(G^n,M),\qquad C^0(G,M)=M \]

と置く。\(f\in C^n(G,M)\) に対し、\(n\ge1\) では

\[ \begin{aligned} (\delta f)(g_1,\dots,g_{n+1}) &=g_1f(g_2,\dots,g_{n+1})\\ &\quad+\sum_{i=1}^{n}(-1)^i f(g_1,\dots,g_ig_{i+1},\dots,g_{n+1})\\ &\quad+(-1)^{n+1}f(g_1,\dots,g_n). \end{aligned} \tag{3.5} \]

\(m\in C^0(G,M)=M\) に対しては

\[ (\delta m)(g)=gm-m. \tag{3.6} \]

定理 3.4:非同次複体は \(H^n(G,M)\) を計算する

\(\delta^2=0\) であり、

\[ H^n(C^\bullet(G,M),\delta)\cong H^n(G,M) \tag{3.7} \]

である。

同次コチェインとの変換

同次コチェイン \(F\) から非同次コチェイン \(f\) へは

\[ f(g_1,\dots,g_n)=F(1,g_1,g_1g_2,\dots,g_1\cdots g_n) \tag{3.8} \]

で移る。逆に

\[ F(x_0,\dots,x_n) = x_0 f(x_0^{-1}x_1,x_1^{-1}x_2,\dots,x_{n-1}^{-1}x_n) \tag{3.9} \]

と定める。式 (3.4) をこの対応で移すと式 (3.5) が得られる。

インタラクティブ:非同次バー微分

次数を選ぶと、\(\delta:C^n(G,M)\to C^{n+1}(G,M)\) の式を表示します。

3.4 コサイクル、コバウンダリ

定義 3.5

\[ Z^n(G,M)=\ker(\delta:C^n(G,M)\to C^{n+1}(G,M)), \] \[ B^n(G,M)=\operatorname{im}(\delta:C^{n-1}(G,M)\to C^n(G,M)). \]

\(\delta^2=0\) より \(B^n\subset Z^n\)。従って

\[ H^n(G,M)=Z^n(G,M)/B^n(G,M). \tag{3.10} \]

3.5 正規化

定義 3.6:正規化コチェイン

\(f\in C^n(G,M)\) が正規化されているとは、どれかの \(g_i=1\) なら \(f(g_1,\dots,g_n)=0\) となることをいう。

定理 3.7:正規化複体で十分

正規化コチェインの部分複体 \(C^\bullet_{\mathrm{norm}}(G,M)\hookrightarrow C^\bullet(G,M)\) は準同型であり、同じコホモロジーを与える。

有限群で \(|G|=m\) のとき、非正規化 \(n\)-コチェインは \(m^n\) 個の入力値を持つが、正規化すれば \((m-1)^n\) 個に減る。

4. 低次元コホモロジー

4.1 \(H^0\)

\(\delta m=0\) は \(gm=m\) for all \(g\) と同値なので

\[ H^0(G,M)=M^G. \tag{4.1} \]

4.2 \(H^1\):交差準同型

\(f:G\to M\) に対し

\[ (\delta f)(g,h)=g f(h)-f(gh)+f(g). \tag{4.2} \]

従って 1-コサイクル条件は

\[ f(gh)=f(g)+g f(h). \tag{4.3} \]

これを交差準同型、または導分という。0-コチェイン \(m\in M\) のコバウンダリは

\[ f_m(g)=gm-m. \tag{4.4} \]

したがって

\[ H^1(G,M)= \frac{\{f:G\to M\mid f(gh)=f(g)+gf(h)\}} {\{g\mapsto gm-m\mid m\in M\}}. \tag{4.5} \]
自明作用

\(G\) が \(M\) に自明に作用するなら \(f(gh)=f(g)+f(h)\) であり、コバウンダリは 0 である。よって

\[ H^1(G,M)=\Hom(G_{\mathrm{ab}},M). \tag{4.6} \]

特に有限群 \(G\) について \(H^1(G,\ZZ)=0\)。

4.3 \(H^2\):群拡大の分類

定義 4.1:作用を固定した拡大

\(M\) をアーベル群、\(G\) が \(M\) に作用しているとする。\(M\) による \(G\) の拡大とは

\[ 1\to M\xrightarrow{i}E\xrightarrow{\pi}G\to1 \tag{4.7} \]

で、\(i(M)\) が \(E\) の正規部分群であり、\(E\) の共役作用が与えられた \(G\)-作用を誘導するものをいう。

集合としての切断 \(s:G\to E\), \(s(1)=1\), \(\pi s(g)=g\) を取ると、一般に

\[ s(g)s(h)=\alpha(g,h)s(gh) \tag{4.8} \]

となる。ここで \(\alpha(g,h)\in M\)。結合律は

\[ g\alpha(h,k)+\alpha(g,hk)=\alpha(gh,k)+\alpha(g,h) \tag{4.9} \]

を与える。これは \(\delta\alpha=0\)、すなわち 2-コサイクル条件である。

定理 4.2:\(H^2\) は拡大を分類する

固定された \(G\)-作用を持つ \(M\) による \(G\) の拡大の同値類は、\(H^2(G,M)\) と自然に一対一対応する。

構成の詳細

2-コサイクル \(\alpha\in Z^2(G,M)\) から、集合 \(M\times G\) に積

\[ (m,g)(n,h)=(m+gn+\alpha(g,h),gh) \tag{4.10} \]

を入れる。2-コサイクル条件はこの積の結合律と同値である。正規化 \(\alpha(1,g)=\alpha(g,1)=0\) を仮定すれば単位元は \((0,1)\) である。さらに \(\alpha\) を \(\alpha+\delta\beta\) に変えると

\[ (m,g)\mapsto(m+\beta(g),g) \]

が拡大の同型を与える。逆に拡大と切断から得た \(\alpha\) は、切断を変えると 2-コバウンダリだけ変わる。

作用が自明なら \(M\) は \(E\) の中心に入り、\(H^2(G,M)\) は中心拡大を分類する。

4.4 \(H^3\)

\(H^3\) は拡大問題の障害、モノイダル圏の associator、Dijkgraaf–Witten 理論の 3-コサイクル、2-群の Postnikov 類などとして現れる。低次元の分類的意味は明快だが、高次では導来関手・分類空間・スペクトル系列の見方がより本質的になる。

5. 有限群特有の基本定理

5.1 \(|G|\) が可逆なら消滅

定理 5.1:平均化による消滅

\(G\) が有限群で、\(|G|\) による乗法が \(M\) 上で可逆なら

\[ H^n(G,M)=0\qquad(n>0). \tag{5.1} \]

証明

短完全列 \(0\to A\to B\xrightarrow{p}C\to0\) で \(c\in C^G\) を取る。持ち上げ \(b\in B\) を \(p(b)=c\) となるように選び、平均

\[ b_0=\frac1{|G|}\sum_{g\in G}gb \tag{5.2} \]

を置くと、\(b_0\in B^G\) かつ \(p(b_0)=c\)。よって不変部分関手は完全であり、その高次導来関手は消える。

\(k\) が体で \(\operatorname{char}k\nmid |G|\) なら、任意の \(k[G]\)-加群 \(M\) について \(H^n(G,M)=0\) for \(n>0\)。

5.2 正次数は \(|G|\)-torsion

定理 5.2

有限群 \(G\) と任意の \(G\)-加群 \(M\) に対し、

\[ |G|\cdot H^n(G,M)=0\qquad(n>0). \tag{5.3} \]

証明

自明部分群 \(1\le G\) への制限 \(\res_1^G:H^n(G,M)\to H^n(1,M)\) は、\(n>0\) では標的が 0 なので 0 である。一方、移送との合成は

\[ \cor_1^G\circ\res_1^G=|G|\id \tag{5.4} \]

である。よって \(|G|\id=0\)。

5.3 有限生成係数なら有限

命題 5.3

\(G\) が有限群、\(M\) が有限生成アーベル群なら、\(n>0\) で \(H^n(G,M)\) は有限アーベル群である。

証明

\(C^n(G,M)=\Map(G^n,M)\) は有限個の \(M\) の直積なので有限生成。従って \(Z^n\), \(B^n\), \(H^n=Z^n/B^n\) も有限生成である。定理 5.2 により \(H^n\) は torsion なので、有限生成 torsion アーベル群として有限である。

5.4 Sylow 部分群による検出

\(P\le G\) を Sylow \(p\)-部分群とする。\(\cor_P^G\res_P^G=[G:P]\id\) であり、\([G:P]\) は \(p\)-局所的に可逆である。したがって \(p\)-局所的には \(\res_P^G\) は単射になる。有限群コホモロジーの \(p\)-primary な情報は Sylow \(p\)-部分群を通して調べるのが自然である。

6. 巡回群の完全計算

6.1 2 周期分解

\(G=C_m=\langle\sigma\mid \sigma^m=1\rangle\) とする。群環の元

\[ D=\sigma-1,\qquad N=1+\sigma+\cdots+\sigma^{m-1} \tag{6.1} \]

を置くと、\(DN=ND=\sigma^m-1=0\)。

定理 6.1:巡回群の周期分解

\(\ZZ\) の \(\ZZ[C_m]\)-自由分解

\[ \cdots\xrightarrow{N}\ZZ[G]\xrightarrow{D}\ZZ[G] \xrightarrow{N}\ZZ[G]\xrightarrow{D}\ZZ[G] \xrightarrow{\varepsilon}\ZZ\to0 \tag{6.2} \]

がある。

\(\Hom_{\ZZ[G]}(-,M)\) を適用すると

\[ 0\to M\xrightarrow{D}M\xrightarrow{N}M\xrightarrow{D}M\xrightarrow{N}M\to\cdots \tag{6.3} \]

を得る。ここで

\[ Dm=\sigma m-m,\qquad Nm=m+\sigma m+\cdots+\sigma^{m-1}m. \tag{6.4} \]
定理 6.2:巡回群コホモロジー公式

\[ H^0(C_m,M)=\ker D=M^{C_m}, \tag{6.5} \]

\(r\ge0\) で

\[ H^{2r+1}(C_m,M)=\frac{\ker N}{\operatorname{im}D}, \tag{6.6} \]

\(r\ge1\) で

\[ H^{2r}(C_m,M)=\frac{\ker D}{\operatorname{im}N}. \tag{6.7} \]

6.2 自明作用

\(C_m\) が \(M\) に自明に作用するなら \(D=0\), \(N=m\)。従って

\[ H^0(C_m,M)=M, \tag{6.8} \] \[ H^{2r+1}(C_m,M)=M[m]=\{x\in M\mid mx=0\}, \tag{6.9} \] \[ H^{2r}(C_m,M)=M/mM\qquad(r\ge1). \tag{6.10} \]
整数係数

\[ H^0(C_m,\ZZ)=\ZZ,\qquad H^{2r+1}(C_m,\ZZ)=0,\qquad H^{2r}(C_m,\ZZ)=\ZZ/m\ZZ\ (r\ge1). \tag{6.11} \]

環としては

\[ H^*(C_m,\ZZ)\cong\ZZ[u]/(mu),\qquad |u|=2. \tag{6.12} \]

\(\ZZ/s\ZZ\) 係数

\(d=\gcd(m,s)\) とすると、正次数では

\[ H^n(C_m,\ZZ/s\ZZ)\cong\ZZ/d\ZZ\qquad(n>0). \tag{6.13} \]

6.3 符号作用

\(C_2=\langle\sigma\rangle\) が \(\ZZ\) に \(\sigma x=-x\) で作用すると、\(D=-2\), \(N=0\)。従って

\[ H^0(C_2,\ZZ_{\mathrm{sign}})=0,\qquad H^{2r+1}(C_2,\ZZ_{\mathrm{sign}})=\ZZ/2\ZZ,\qquad H^{2r}(C_2,\ZZ_{\mathrm{sign}})=0\ (r\ge1). \tag{6.14} \]

インタラクティブ:巡回群 \(C_m\) の低次数

自明係数、および \(C_2\) の符号作用について \(H^0,\dots,H^4\) を表示します。

7. 関手性:制限、共役、移送

7.1 係数に関する関手性

\(G\)-加群準同型 \(u:M\to N\) は \(f\mapsto u\circ f\) によりコチェイン写像を与え、

\[ u_*:H^n(G,M)\to H^n(G,N) \tag{7.1} \]

を誘導する。

7.2 群準同型に関する制限

群準同型 \(\varphi:K\to G\) があると、\(G\)-加群 \(M\) は \(\varphi\) を通じて \(K\)-加群になる。コチェインレベルで

\[ (\varphi^*f)(k_1,\dots,k_n)=f(\varphi(k_1),\dots,\varphi(k_n)) \tag{7.2} \]

と定めると、

\[ \varphi^*:H^n(G,M)\to H^n(K,M) \tag{7.3} \]

を得る。部分群 \(H\le G\) の場合は \(\res_H^G\) と書く。

7.3 共役

\(g\in G\) に対し \(H\to gHg^{-1}\), \(h\mapsto ghg^{-1}\) は同型である。コチェインレベルでは概念的に

\[ (c_g f)(gh_1g^{-1},\dots,gh_ng^{-1}) = g f(h_1,\dots,h_n) \tag{7.4} \]

と書ける。

7.4 移送

有限指数部分群 \(H\le G\) に対し、制限とは逆向きの写像

\[ \cor_H^G:H^n(H,M)\to H^n(G,M) \tag{7.5} \]

が存在する。これは移送または corestriction と呼ばれる。

命題 7.1

\[ \cor_H^G\circ\res_H^G=[G:H]\id \tag{7.6} \]

が \(H^n(G,M)\) 上で成り立つ。

定理 7.2:Mackey 公式

\(H,K\le G\) に対し

\[ \res_K^G\circ\cor_H^G = \sum_{x\in K\backslash G/H} \cor_{K\cap xHx^{-1}}^{K}\circ c_x^*\circ \res_{H\cap x^{-1}Kx}^{H} \tag{7.7} \]

が成り立つ。

この公式は、部分群の取り替え、制限、移送、共役が一つの整合的な構造を作ることを表している。

8. Shapiro の補題

8.1 誘導と余誘導

\(H\le G\) と \(H\)-加群 \(N\) に対し、誘導加群と余誘導加群を

\[ \Ind_H^G N=\ZZ[G]\otimes_{\ZZ[H]}N, \tag{8.1} \] \[ \Coind_H^G N=\Hom_{\ZZ[H]}(\ZZ[G],N) \tag{8.2} \]

で定める。

定理 8.1:Shapiro の補題

自然同型

\[ H^n(G,\Coind_H^G N)\cong H^n(H,N) \tag{8.3} \]

がすべての \(n\ge0\) で成り立つ。有限指数の場合には誘導係数版

\[ H^n(G,\Ind_H^G N)\cong H^n(H,N) \tag{8.4} \]

も標準的に使われる。

証明の構造

随伴

\[ \Hom_{\ZZ[G]}(M,\Coind_H^G N) \cong \Hom_{\ZZ[H]}(\operatorname{Res}_H^G M,N) \tag{8.5} \]

を \(M=\ZZ\) の射影分解に適用する。\(\ZZ[G]\)-射影分解を \(H\) に制限すると \(\ZZ[H]\)-射影分解になるため、コホモロジーを取って (8.3) を得る。

置換加群

\(X=G/H\) とし \(\ZZ[X]\) を置換 \(G\)-加群とすると、\(\ZZ[X]\cong\Ind_H^G\ZZ\)。従って

\[ H^n(G,\ZZ[G/H])\cong H^n(H,\ZZ). \tag{8.6} \]

9. カップ積とコホモロジー環

9.1 カップ積

\(\mu:M\otimes N\to P\) を \(G\)-同変双線形写像とする。\(f\in C^p(G,M)\), \(h\in C^q(G,N)\) に対し

\[ (f\smile h)(g_1,\dots,g_{p+q}) = \mu\left( f(g_1,\dots,g_p), (g_1\cdots g_p)h(g_{p+1},\dots,g_{p+q}) \right) \tag{9.1} \]

でカップ積を定める。

命題 9.1:Leibniz 則

\[ \delta(f\smile h)=\delta f\smile h+(-1)^p f\smile\delta h. \tag{9.2} \]

従ってコホモロジー上に

\[ H^p(G,M)\otimes H^q(G,N)\to H^{p+q}(G,P) \tag{9.3} \]

が誘導される。

9.2 コホモロジー環

\(R\) を自明作用を持つ可換環とすると、\(H^*(G,R)\) はカップ積で次数付き環になる。さらに

\[ xy=(-1)^{|x||y|}yx \tag{9.4} \]

を満たす、すなわち次数付き可換である。

標数 2 では \((-1)=1\) なので、奇数次数元の自乗が符号だけから 0 になるとは限らない。例えば \(H^*(C_2,\FF_2)\cong\FF_2[t]\), \(|t|=1\)。

9.3 初等アーベル群

例 9.2

\(E=(C_p)^r\) とする。\(p=2\) なら

\[ H^*(E,\FF_2)\cong\FF_2[x_1,\dots,x_r],\qquad |x_i|=1. \tag{9.5} \]

\(p\) が奇素数なら

\[ H^*(E,\FF_p) \cong \Lambda(x_1,\dots,x_r)\otimes_{\FF_p}\FF_p[y_1,\dots,y_r], \tag{9.6} \]

ただし \(|x_i|=1\), \(|y_i|=2\)、Bockstein で \(\beta(x_i)=y_i\)。

10. 分類空間 \(BG\) との関係

群 \(G\) には分類空間 \(BG=K(G,1)\) が対応する。これは基本群が \(G\)、高次ホモトピー群が 0 の空間である。

定理 10.1

\(M\) が自明 \(G\)-加群なら

\[ H^n(G,M)\cong H^n(BG,M). \tag{10.1} \]

非自明作用を持つ \(M\) の場合は、\(BG\) 上の局所係数系 \(\widetilde M\) に対して

\[ H^n(G,M)\cong H^n(BG,\widetilde M). \tag{10.2} \]

バー分解は、可縮な単体的 \(G\)-空間 \(EG\) の鎖複体から得られる。従って群コホモロジーのカップ積、スペクトル系列、拡大の解釈は位相的なものとしても理解できる。

11. Lyndon–Hochschild–Serre スペクトル系列

11.1 スペクトル系列

群拡大

\[ 1\to N\to G\to Q\to1 \tag{11.1} \]

と \(G\)-加群 \(M\) を考える。このとき \(H^q(N,M)\) は自然に \(Q\)-加群になる。

定理 11.1:LHS スペクトル系列

第一象限スペクトル系列

\[ E_2^{p,q}=H^p(Q,H^q(N,M)) \Longrightarrow H^{p+q}(G,M) \tag{11.2} \]

が存在する。

収束の意味は、\(H^n(G,M)\) にフィルトレーション \(F^\bullet\) があり、

\[ E_\infty^{p,n-p}\cong F^pH^n(G,M)/F^{p+1}H^n(G,M) \tag{11.3} \]

となることである。

11.2 五項完全列

定理 11.2

LHS スペクトル系列から

\[ 0\to H^1(Q,M^N) \xrightarrow{\inf}H^1(G,M) \xrightarrow{\res}H^1(N,M)^Q \xrightarrow{d_2}H^2(Q,M^N) \xrightarrow{\inf}H^2(G,M) \tag{11.4} \]

が得られる。

インタラクティブ:LHS \(E_2\)-ページ

セル \(E_2^{p,q}=H^p(Q,H^q(N,M))\) の全次数 \(p+q\) を表示します。

セルをクリックしてください。

11.3 例:\(S_3\) の \(H^2(S_3,\ZZ)\)

\(1\to C_3\to S_3\to C_2\to1\) を使う。自明係数 \(\ZZ\) について全次数 2 を見る。

  • \(E_2^{2,0}=H^2(C_2,\ZZ)=\ZZ/2\ZZ\)。
  • \(E_2^{1,1}=H^1(C_2,H^1(C_3,\ZZ))=0\)。
  • \(E_2^{0,2}=H^0(C_2,H^2(C_3,\ZZ))\)。ここで \(H^2(C_3,\ZZ)=\ZZ/3\ZZ\) だが、\(C_2\) の反転作用により不変部分は 0。

従って

\[ H^2(S_3,\ZZ)\cong\ZZ/2\ZZ. \tag{11.5} \]

別証として、有限群 \(G\) では \(0\to\ZZ\to\QQ\to\QQ/\ZZ\to0\) から

\[ H^2(G,\ZZ)\cong H^1(G,\QQ/\ZZ)\cong\Hom(G_{\mathrm{ab}},\QQ/\ZZ) \tag{11.6} \]

であり、\(S_3^{\mathrm{ab}}\cong C_2\)。

12. Tate コホモロジー

有限群では、通常のコホモロジーとホモロジーを一つの両側無限の理論に統合できる。これが Tate コホモロジーである。

定義 12.1:ノルム

有限群 \(G\) と \(G\)-加群 \(M\) に対し、ノルム写像

\[ N_G:M_G\to M^G,\qquad [m]\mapsto\sum_{g\in G}gm \tag{12.1} \]

を定める。

定義 12.2:低次数 Tate コホモロジー

\[ \widehat H^0(G,M)=\operatorname{coker}(N_G:M_G\to M^G), \tag{12.2} \] \[ \widehat H^{-1}(G,M)=\ker(N_G:M_G\to M^G). \tag{12.3} \]

正次数では

\[ \widehat H^n(G,M)=H^n(G,M)\qquad(n>0). \tag{12.4} \]

一般には \(\ZZ\) の完全分解を用いて全整数次数のコホモロジーとして定義する。巡回群では 2 周期性

\[ \widehat H^{n+2}(C_m,M)\cong \widehat H^n(C_m,M) \tag{12.5} \]

が成り立つ。

13. 群ホモロジーとの関係

群ホモロジーは余不変部分関手の左導来関手であり、

\[ H_n(G,M)=\Tor_n^{\ZZ[G]}(\ZZ,M) \tag{13.1} \]

で定義される。自明係数 \(\ZZ\) では

\[ H_0(G,\ZZ)=\ZZ,\qquad H_1(G,\ZZ)=G_{\mathrm{ab}}. \tag{13.2} \]

\(H_2(G,\ZZ)\) は Schur multiplier と呼ばれ、中心拡大と射影表現に深く関係する。Tate コホモロジーでは負次数側が群ホモロジーと対応する。

14. 計算方法

14.1 有限係数なら線形代数

レシピ:\(\FF_p\)-係数
  1. 群 \(G=\{g_1,\dots,g_m\}\) の乗法表を用意する。
  2. 正規化するなら \((G\setminus\{1\})^n\) 上の値を基底とする。
  3. 式 (3.5) から微分行列 \(D_n:C^n\to C^{n+1}\) を作る。
  4. \(\ker D_n\) と \(\operatorname{im}D_{n-1}\) を線形代数で求める。
  5. \(H^n=\ker D_n/\operatorname{im}D_{n-1}\) の次元を得る。
レシピ:整数係数
  1. 微分を整数行列として書く。
  2. Smith 標準形で像と核の商を計算する。
  3. 有限生成アーベル群の構造定理により \(\ZZ^r\oplus\ZZ/d_1\oplus\cdots\oplus\ZZ/d_k\) に分解する。

14.2 戦略

  • 巡回群なら 2 周期分解を使う。
  • 正規部分群 \(N\triangleleft G\) があるなら LHS スペクトル系列を使う。
  • 係数が誘導・余誘導なら Shapiro の補題で部分群へ落とす。
  • \(p\)-局所情報は Sylow \(p\)-部分群への制限で調べる。
  • 加法群だけでなくカップ積による環構造を調べる。

15. 応用の入口

群拡大。
\(H^2(G,M)\) はアーベル核拡大、特に中心拡大を分類する。
射影表現。
因子集合は 2-コサイクルであり、同値類は \(H^2(G,k^\times)\) に入る。
Galois コホモロジー。
\(G=\Gal(L/K)\) と \(L^\times\) を考えると Hilbert 90 は \(H^1(G,L^\times)=0\)。
モジュラー表現論。
\(\operatorname{char}k\mid |G|\) では \(H^*(G,k)\) が支持多様体や複雑性を制御する。

また \(H^3(G,U(1))\) は Dijkgraaf–Witten 型位相場理論や有限群対称性の異常の記述に現れる。

16. よくある誤解

有限群なら消える?
消えるのは \(|G|\) が係数で可逆な場合。整数係数や \(\FF_p\) 係数で \(p\mid |G|\) なら非自明になり得る。
\(H^1\) は常に Hom?
自明作用なら Hom。非自明作用では交差準同型を主交差準同型で割る。
\(H^2\) は常に中心拡大?
係数作用が非自明なら中心拡大ではなく、共役作用を固定したアーベル核拡大。
公式だけ覚えれば十分?
符号と左作用の位置を誤りやすい。バー分解から導けるようにするのが安全。

17. 公式集

項目公式
定義\(H^n(G,M)=\Ext^n_{\ZZ[G]}(\ZZ,M)\)
微分\((\delta f)(g_1,\dots,g_{n+1})=g_1f(g_2,\dots)+\sum_i(-1)^if(\dots,g_ig_{i+1},\dots)+(-1)^{n+1}f(g_1,\dots,g_n)\)
0 次\(H^0(G,M)=M^G\)
1 次\(H^1=\{f(gh)=f(g)+gf(h)\}/\{g\mapsto gm-m\}\)
2 次\(H^2\) は作用を固定したアーベル核拡大を分類
消滅\(|G|^{-1}\) が係数で存在すれば \(H^n(G,M)=0\) for \(n>0\)
torsion\(|G|H^n(G,M)=0\) for \(n>0\)
巡回群\(H^{2r+1}=\ker N/\operatorname{im}D\), \(H^{2r}=\ker D/\operatorname{im}N\)
自明作用の巡回群\(H^{2r+1}=M[m]\), \(H^{2r}=M/mM\)
Shapiro\(H^n(G,\Coind_H^G N)\cong H^n(H,N)\)
LHS\(E_2^{p,q}=H^p(Q,H^q(N,M))\Rightarrow H^{p+q}(G,M)\)
Tate\(\widehat H^0=\operatorname{coker}(N_G:M_G\to M^G)\), \(\widehat H^{-1}=\ker N_G\)

18. 用語集

  • 増大写像: \(\varepsilon:\ZZ[G]\to\ZZ\), \(\sum a_g g\mapsto\sum a_g\)。
  • 増大イデアル: \(I_G=\ker\varepsilon\)。
  • 不変部分: \(M^G\)。
  • 余不変部分: \(M_G=M/I_GM\)。
  • コサイクル: \(\delta f=0\) を満たすコチェイン。
  • コバウンダリ: \(f=\delta a\) と書けるコチェイン。
  • 正規化: 入力に単位元があれば値が 0。
  • 制限: \(\res_H^G\)。
  • 移送: \(\cor_H^G\)。
  • inflation: 商 \(G\to Q\) に沿った引き戻し。
  • transgression: LHS 五項完全列の \(d_2\)。
  • Tate コホモロジー: 有限群で正負次数を統合した理論。

19. 詳細補遺 I:正規化、退化部分、次元シフト

19.1 正規化複体が同じコホモロジーを与える理由

非同次コチェイン \(C^n(G,M)=\Map(G^n,M)\) の中で、ある入力が単位元 \(1\) である成分にだけ依存する部分を退化部分と呼ぶ。標準的には、退化写像

\[ s_i:G^{n-1}\to G^n,\qquad (g_1,\dots,g_{n-1})\mapsto(g_1,\dots,g_i,1,g_{i+1},\dots,g_{n-1}) \]

で引き戻されるコチェインが作る部分複体を考える。正規化複体は、すべての退化入力で 0 になるコチェインの部分複体である。

命題 19.1

非同次コチェイン複体は、正規化部分と退化部分にホモトピー同値的に分解し、退化部分は可縮である。従って正規化部分の包含は準同型である。

証明の考え方

単体的集合の正規化鎖複体と同じ議論を使う。退化作用素 \(s_i\) と面作用素 \(d_i\) は単体恒等式を満たすため、退化部分には明示的な縮約ホモトピーが構成できる。群コホモロジーのバー複体は単体的 \(G\)-集合から来ているので、この標準分解がそのまま適用できる。結果として、退化コチェインはコホモロジーに寄与しない。

19.2 余誘導加群は非輪状

任意の \(G\)-加群 \(M\) に対し、集合写像全体

\[ C(M)=\Map(G,M) \]

に作用

\[ (g\varphi)(x)=\varphi(xg) \tag{19.1} \]

を入れると、これは自明部分群からの余誘導加群 \(\Coind_1^G M\) である。Shapiro の補題により

\[ H^n(G,C(M))\cong H^n(1,M)=0\qquad(n>0). \tag{19.2} \]

従って \(C(M)\) は群コホモロジーに関して非輪状である。

19.3 次元シフト

写像

\[ \eta:M\to C(M),\qquad \eta(m)(x)=xm \tag{19.3} \]

は \(G\)-同変単射である。商を \(\Sigma M=C(M)/M\) と書くと短完全列

\[ 0\to M\to C(M)\to \Sigma M\to0 \tag{19.4} \]

を得る。長完全列と \(H^n(G,C(M))=0\) for \(n>0\) から、\(n\ge1\) で

\[ H^{n+1}(G,M)\cong H^n(G,\Sigma M) \tag{19.5} \]

が得られる。これを次元シフトという。

次元シフトは、高次コホモロジーの命題を低次の命題へ帰着させるための標準道具である。例えば「\(|G|\) が正次数を殺す」という定理は、1 次で確認して次元シフトで全次数へ上げることもできる。

20. 詳細補遺 II:係数変更、普遍係数、有限生成

20.1 普遍係数の短完全列

自明係数 \(A\) については、分類空間 \(BG\) の普遍係数定理から、各 \(n\) に対し短完全列

\[ 0\to \Ext^1_{\ZZ}(H_{n-1}(G,\ZZ),A) \to H^n(G,A) \to \Hom_{\ZZ}(H_n(G,\ZZ),A) \to0 \tag{20.1} \]

がある。この列は自然だが、一般には自然に分裂しない。

有限群での \(H^2(G,\ZZ)\)

短完全列 \(0\to\ZZ\to\QQ\to\QQ/\ZZ\to0\) を使う。\(\QQ\) では \(|G|\) が可逆なので \(H^n(G,\QQ)=0\) for \(n>0\)。従って長完全列から

\[ H^2(G,\ZZ)\cong H^1(G,\QQ/\ZZ). \tag{20.2} \]

\(\QQ/\ZZ\) は自明係数なので

\[ H^1(G,\QQ/\ZZ)\cong\Hom(G_{\mathrm{ab}},\QQ/\ZZ). \tag{20.3} \]

つまり有限群について

\[ H^2(G,\ZZ)\cong\Hom(G_{\mathrm{ab}},\QQ/\ZZ). \tag{20.4} \]

20.2 Schur multiplier との混同を避ける

有限群の Schur multiplier は通常

\[ M(G)=H_2(G,\ZZ) \]

または、適切な係数のもとで \(H^2(G,\CC^\times)\) として現れる。これは \(H^2(G,\ZZ)\) とは一般に異なる。上の式 (20.4) が示すように、\(H^2(G,\ZZ)\) はむしろ \(G_{\mathrm{ab}}\) を見る。

20.3 Evens–Venkov 有限生成定理

定理 20.1:有限生成性

\(G\) を有限群、\(k\) を体とする。このとき \(H^*(G,k)\) は有限生成な次数付き可換 \(k\)-代数である。さらに有限次元 \(k[G]\)-加群 \(M\) に対し、\(H^*(G,M)\) は \(H^*(G,k)\)-加群として有限生成である。

この定理はモジュラー表現論の支持多様体を定義する基礎になる。特に \(\operatorname{char}k=p\mid |G|\) のとき、\(H^*(G,k)\) の幾何が \(k[G]\)-加群の複雑性を測る。

21. 詳細補遺 III:追加計算例

21.1 \(C_p\) の \(\FF_p\)-係数コホモロジー環

例 21.1

\(p\) が奇素数なら

\[ H^*(C_p,\FF_p)\cong \Lambda(x)\otimes_{\FF_p}\FF_p[y], \qquad |x|=1,\ |y|=2, \tag{21.1} \]

かつ Bockstein により \(\beta(x)=y\)。一方、\(p=2\) では

\[ H^*(C_2,\FF_2)\cong \FF_2[t], \qquad |t|=1. \tag{21.2} \]

どちらの場合も加法群として各正次数は 1 次元だが、環構造は \(p=2\) と \(p\) 奇素数で異なる。

21.2 Klein 四元群

\(V_4=C_2\times C_2\) について、Künneth 公式から

\[ H^*(V_4,\FF_2)\cong \FF_2[x,y], \qquad |x|=|y|=1. \tag{21.3} \]

これは初等アーベル 2-群 \(E=(C_2)^r\) の一般公式

\[ H^*(E,\FF_2)\cong \FF_2[x_1,\dots,x_r] \tag{21.4} \]

の \(r=2\) の場合である。

21.3 \(C_2\) の中心拡大を 2-コサイクルで見る

\(A=\ZZ/s\ZZ\) を自明 \(C_2\)-加群とし、\(C_2=\{1,\sigma\}\) とする。正規化 2-コサイクルは \(\alpha(\sigma,\sigma)=a\in A\) で決まり、すべての \(a\) が 2-コサイクルになる。1-コチェイン \(\beta(\sigma)=b\) のコバウンダリは

\[ (\delta\beta)(\sigma,\sigma)=2b. \tag{21.5} \]

従って

\[ H^2(C_2,A)\cong A/2A. \tag{21.6} \]

対応する拡大では、持ち上げ \(t=(0,\sigma)\) が

\[ t^2=a \tag{21.7} \]

を満たす。\(a\in 2A\) なら分裂拡大、そうでなければ非分裂拡大を与える。

インタラクティブ:\(C_2\) の 2-コサイクル類

係数 \(A=\ZZ/s\ZZ\)、値 \(a=\alpha(\sigma,\sigma)\) を入れると、類 \([a]\in A/2A\) が分裂かどうかを判定します。

22. 詳細補遺 IV:スペクトル系列を読むときの実務手順

  1. 拡大を選ぶ。 まず \(1\to N\to G\to Q\to1\) を見つける。\(N\) と \(Q\) が計算済みの群なら有利。
  2. \(H^q(N,M)\) を計算する。 ここでは \(N\)-作用だけを使う。
  3. \(Q\)-作用を決める。 \(G\) の共役作用が \(H^q(N,M)\) に誘導する作用を明示する。
  4. \(E_2^{p,q}=H^p(Q,H^q(N,M))\) を並べる。 全次数 \(p+q=n\) の斜線が \(H^n(G,M)\) に関係する。
  5. 微分を確認する。 \(d_r:E_r^{p,q}\to E_r^{p+r,q-r+1}\) がどこへ行くかを確認する。
  6. 拡張問題を解く。 \(E_\infty\) は随伴次数付き部分を与えるだけなので、最後にフィルトレーションの拡張を判定する。

スペクトル系列は「表の各セルがそのまま答え」ではない。微分で消える成分、像として割られる成分、最後の拡張問題をすべて確認して初めて \(H^n(G,M)\) が確定する。