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Cohen–Macaulay環
詳細レポート

Cohen–Macaulay性は、可換環論・代数幾何・組合せ論を横断する「深さが最大である」条件である。 本レポートは、Noether可換環を基本設定として、定義、同値条件、例、非例、代表的証明、局所コホモロジー、標準加群、幾何的意味、計算法までを体系的にまとめる。

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0. 前提・記法・全体像

以後、特に断らない限り、環は単位元をもつ可換環であり、加群は有限生成加群とする。 Cohen–Macaulay性は Noether性のもとで最も自然に定式化されるため、本稿では Noether環を標準設定にする。

基本記法
  • 局所環を \((R,\mathfrak m,k)\) と書く。\(\mathfrak m\) は極大イデアル、\(k=R/\mathfrak m\) は剰余体。
  • \(\dim R\) は Krull 次元、\(\operatorname{ht}\mathfrak p\) は素イデアル \(\mathfrak p\) の高さ。
  • \(\operatorname{Spec}R\) は素スペクトル、\(R_{\mathfrak p}\) は局所化。
  • \(\operatorname{depth}_R M\) は \(M\) の深さ、\(\dim_R M=\dim \operatorname{Supp}M\) は加群の次元。
  • \(\operatorname{Ass}_R M\) は随伴素イデアル集合、\(\operatorname{Supp}M\) は台。

Cohen–Macaulay性の中心的スローガンは次である。

スローガン
\[ \boxed{\text{Cohen--Macaulay} \quad \Longleftrightarrow \quad \text{depth が許される最大値 dimension に達する}} \] 局所環 \((R,\mathfrak m)\) では、 \[ R \text{ が Cohen--Macaulay} \quad \Longleftrightarrow \quad \operatorname{depth}R=\dim R. \]

この等式は単なる数値条件ではない。幾何的には「余分な埋め込み成分がない」「一般の超曲面切断が期待通りに次元を 1 ずつ下げる」ことを表し、ホモロジー的には「低次局所コホモロジーが消える」ことを表す。

1. なぜ Cohen–Macaulay 環が重要か

正則局所環は最もよい特異点をもたない環である。しかし代数幾何や特異点論では、正則でないが「交叉論・双対性・次元計算がなおよく振る舞う」環が大量に現れる。 Cohen–Macaulay環は、そのような環の大きく安定したクラスである。

正則環 完全交叉環 Gorenstein環 Cohen–Macaulay環

上の包含は局所的な意味で成立する。右へ行くほど条件は弱く、対象は広くなる。Cohen–Macaulay環は「非特異」とは限らないが、深さが最大であるため、次元論・正則列・局所コホモロジーが特にきれいになる。

幾何的な効用
  • 成分の次元がそろいやすい。
  • 埋め込み成分が現れない。
  • 十分一般の超曲面切断が期待通りに働く。
  • 双対化層や標準加群の扱いが単純になる。
代数的な効用
  • 任意のパラメータ系が正則列になる。
  • 低次局所コホモロジーが消える。
  • Hilbert級数・重複度の計算が単純化する。
  • 完全交叉、行列式環、正規半群環などの大きなクラスを含む。

2. 次元、パラメータ系、加群の次元

2.1 Krull 次元

環 \(R\) の Krull 次元は、素イデアルの真の包含鎖の最大長で定義される。

Krull 次元
\[ \dim R =\sup\{n\mid \mathfrak p_0\subsetneq \mathfrak p_1\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak p_n,\ \mathfrak p_i\in\operatorname{Spec}R\}. \] 局所環 \((R,\mathfrak m)\) では、\(\dim R\) は \(\mathfrak m\) に至る素イデアル鎖の最大長である。

2.2 加群の次元

有限生成 \(R\)-加群 \(M\) の台は \[ \operatorname{Supp}M=\{\mathfrak p\in\operatorname{Spec}R\mid M_{\mathfrak p}\neq0\} \] であり、加群の次元は \[ \dim_R M=\dim \operatorname{Supp}M=\dim R/\operatorname{Ann}_R(M) \] と定義される。

2.3 パラメータ系

System of parameters
\((R,\mathfrak m)\) を Noether 局所環、\(M\neq0\) を有限生成 \(R\)-加群、\(d=\dim_R M\) とする。 \(x_1,\dots,x_d\in\mathfrak m\) が \(M\) のパラメータ系であるとは、 \[ \dim_R M/(x_1,\dots,x_d)M=0 \] であること、同値に \(M/(x_1,\dots,x_d)M\) が有限長であることをいう。

Noether局所環では、Krull の主イデアル定理と Noether 正規化の局所版により、パラメータ系は存在する。パラメータ系は「\(d\) 個の関数で \(d\) 次元の対象を点状に切る」ことに対応する。

なぜパラメータ系は Cohen–Macaulay性と関係するのか

次元 \(d\) の局所環では、理想的には \(d\) 個の元を順に割ることで次元が \(d,d-1,\dots,0\) と下がってほしい。 しかし、途中で零因子を割ると、深さが足りず、ホモロジー的な歪みが生じる。Cohen–Macaulay条件は、パラメータ系がすべて正則列になること、すなわち「期待通りに切れる」ことと同値である。

3. 正則列:Cohen–Macaulay性の基本言語

3.1 非零因子と \(M\)-正則元

\(M\)-正則元
\(x\in R\) が \(M\)-正則であるとは、写像 \[ M\xrightarrow{\cdot x}M \] が単射であること、つまり \[ xm=0 \Rightarrow m=0 \] が成り立つことをいう。さらに通常は \(xM\neq M\) も要求する。局所環で \(x\in\mathfrak m\) なら Nakayama の補題により \(xM\neq M\) は自動的に満たされる。

3.2 正則列

\(M\)-正則列
\(x_1,\dots,x_r\in R\) が \(M\)-正則列であるとは、各 \(i=1,\dots,r\) について \[ x_i \text{ が } M/(x_1,\dots,x_{i-1})M \text{ 上の非零因子} \] であり、かつ \[ (x_1,\dots,x_r)M\neq M \] であることをいう。

直観的には、正則列は「順番に割っても情報を潰しすぎない元の列」である。正則列の長さが深さを測る。

注意:順序依存性
一般の環・加群では、列 \(x_1,\dots,x_r\) が正則であるかは順序に依存し得る。局所環の中でイデアルに含まれる最大正則列の長さは、適切な仮定の下でよく定義され、深さになる。

3.3 随伴素イデアルによる判定

有限生成加群 \(M\) に対し、\(x\) が \(M\)-正則であることは \[ x\notin \bigcup_{\mathfrak p\in\operatorname{Ass}_R M}\mathfrak p \] と同値である。ただし \(xM\neq M\) も考慮する。したがって正則元を探す問題は、随伴素イデアルを避ける問題でもある。

証明の要点:随伴素イデアルと零因子

零因子集合は有限生成加群では随伴素イデアルの合併に等しい。もし \(xm=0\) となる非零元 \(m\) があれば、\(x\in\operatorname{Ann}(m)\) であり、\(m\) が生成する巡回部分加群の素フィルトレーションを通じて \(x\) はある随伴素イデアルに入る。逆に \(x\) が随伴素イデアル \(\mathfrak p=\operatorname{Ann}(m)\) に入れば \(xm=0\) である。

4. 深さ \(\operatorname{depth}\):定義と同値な見方

4.1 正則列による深さ

深さ
\((R,\mathfrak m)\) を Noether 局所環、\(M\) を有限生成 \(R\)-加群とする。 \(M\neq0\) のとき、 \[ \operatorname{depth}_R M =\sup\{r\mid \mathfrak m\text{ の中に長さ }r\text{ の }M\text{-正則列が存在する}\}. \] \(M=0\) については \(\operatorname{depth}0=\infty\) と置く流儀が多い。

局所環では正則列を極大イデアル \(\mathfrak m\) 内で探す。Cohen–Macaulay性は、この深さが加群の次元に一致することをいう。

4.2 Ext による深さ

Ext 判定
\((R,\mathfrak m,k)\) を Noether 局所環、\(M\) を有限生成加群とする。このとき \[ \operatorname{depth}_R M =\inf\{i\ge0\mid \operatorname{Ext}^i_R(k,M)\neq0\}. \]

これは深さがホモロジー的な不変量であることを示す。 \(\operatorname{Ext}^0_R(k,M)=\operatorname{Hom}_R(k,M)\neq0\) は、\(M\) の中に \(\mathfrak m\) で殺される元が存在すること、すなわち \(\mathfrak m\in\operatorname{Ass}M\) と同値である。

4.3 局所コホモロジーによる深さ

局所コホモロジー判定
\[ \operatorname{depth}_R M =\inf\{i\ge0\mid H^i_{\mathfrak m}(M)\neq0\}. \] ここで \(H^i_{\mathfrak m}(M)\) は \(\mathfrak m\)-torsion 関手 \[ \Gamma_{\mathfrak m}(M)=\{x\in M\mid \mathfrak m^n x=0\text{ for some }n\} \] の右導来関手である。

局所コホモロジーは、\(\mathfrak m\) に台をもつ「局所的な穴」を測る。Cohen–Macaulay加群では低次の穴がすべて消え、最上次のみが残る。

4.4 grade

イデアル \(I\subset R\) に対し、\(I\) に含まれる \(M\)-正則列の最大長を \(\operatorname{grade}(I,M)\) と書く。 Ext により \[ \operatorname{grade}(I,M)=\inf\{i\mid \operatorname{Ext}^i_R(R/I,M)\neq0\} \] と表される。局所環では \[ \operatorname{depth}_R M=\operatorname{grade}(\mathfrak m,M). \]

深さ補題:短完全列で深さを制御する

短完全列 \[ 0\to A\to B\to C\to0 \] に対し、局所環上の有限生成加群なら、次の不等式が成り立つ。

  • \(\operatorname{depth}B\ge\min\{\operatorname{depth}A,\operatorname{depth}C\}\)。
  • \(\operatorname{depth}A\ge\min\{\operatorname{depth}B,\operatorname{depth}C+1\}\)。
  • \(\operatorname{depth}C\ge\min\{\operatorname{depth}A-1,\operatorname{depth}B\}\)。

これは Ext または局所コホモロジーの長完全列から従う。Cohen–Macaulay性を exact sequence で調べる際の標準道具である。

5. Cohen–Macaulay加群と環の定義

5.1 局所版の定義

Cohen–Macaulay加群
\((R,\mathfrak m)\) を Noether 局所環、\(M\neq0\) を有限生成 \(R\)-加群とする。 \(M\) が Cohen–Macaulay であるとは、 \[ \operatorname{depth}_R M=\dim_R M \] が成り立つことをいう。
Cohen–Macaulay局所環
\((R,\mathfrak m)\) が Cohen–Macaulay局所環であるとは、\(R\) を自分自身の加群と見て \[ \operatorname{depth}R=\dim R \] が成り立つことをいう。

5.2 非局所版の定義

一般の Noether 環 \(R\) が Cohen–Macaulay であるとは、任意の素イデアル \(\mathfrak p\in\operatorname{Spec}R\) に対し、局所環 \(R_{\mathfrak p}\) が Cohen–Macaulay であることをいう。 同値に、任意の極大イデアル \(\mathfrak m\) に対し \(R_{\mathfrak m}\) が Cohen–Macaulay であればよい。

5.3 標準次数付き環の場合

\(k\)-上標準次数付き代数 \[ R=k[x_1,\dots,x_n]/I \] では、同次極大イデアル \(\mathfrak m=R_+=\bigoplus_{d>0}R_d\) での局所化、あるいは同次局所的な観点で Cohen–Macaulay性を扱うことが多い。標準次数付き環では、Hilbert級数や線形パラメータ系との関係が非常に強い。

Interactive 1:depth と dimension の判定器

スライダーで \(d=\dim M\) と \(s=\operatorname{depth}M\) を選ぶ。Noether局所環上の有限生成加群では常に \(s\le d\)。

6. 基本不等式:なぜ \(\operatorname{depth}\le\dim\) なのか

基本不等式
\((R,\mathfrak m)\) を Noether 局所環、\(M\neq0\) を有限生成加群とすると、 \[ \operatorname{depth}_R M\le \dim_R M. \]
証明の考え方

長さ \(r\) の \(M\)-正則列 \(x_1,\dots,x_r\in\mathfrak m\) があるとする。各段階で非零因子で割ると、加群の次元は少なくとも 1 ずつ下がる。 より正確には、\(x\) が \(M\)-正則で \(x\in\mathfrak m\) なら \[ \dim M/xM\le \dim M-1 \] である。したがって長さ \(r\) の正則列が存在すれば \(r\le\dim M\) である。

6.1 Auslander–Buchsbaum 公式

\((R,\mathfrak m,k)\) を Noether 局所環、\(M\) を有限生成 \(R\)-加群で \(\operatorname{pd}_R M<\infty\) とする。このとき \[ \operatorname{pd}_R M+\operatorname{depth}_R M=\operatorname{depth}R. \] 正則局所環では剰余体 \(k\) の射影次元が \(\dim R\) に等しく、\(\operatorname{depth}R=\dim R\) になる。よって正則局所環は Cohen–Macaulay である。

6.2 depth が小さいとは何を意味するか

\(\operatorname{depth}M=0\) とは、\(\mathfrak m\in\operatorname{Ass}M\) であることに等しい。つまり、\(M\) の中に \(\mathfrak m\) で殺される非零元がある。 幾何的には、閉点に支えられた埋め込み的な成分・孤立した torsion 的挙動があることを示唆する。

7. Cohen–Macaulay性の同値条件

Cohen–Macaulay性には多数の同値条件がある。ここでは最も頻用されるものをまとめる。

局所環・加群の同値条件
\((R,\mathfrak m)\) を Noether 局所環、\(M\neq0\) を有限生成加群、\(d=\dim_R M\) とする。次は同値である。
  1. \(M\) は Cohen–Macaulay、すなわち \(\operatorname{depth}_R M=d\)。
  2. あるパラメータ系 \(x_1,\dots,x_d\) が \(M\)-正則列である。
  3. 任意のパラメータ系 \(x_1,\dots,x_d\) が \(M\)-正則列である。
  4. \(H^i_{\mathfrak m}(M)=0\) が \(i
  5. \(\operatorname{Ext}^i_R(k,M)=0\) が \(i
同値性の証明スケッチ

(1) と (2) は、深さが \(d\) であるなら長さ \(d\) の正則列が存在し、それは次元上限に達するためパラメータ系になることから従う。逆にパラメータ系が正則列なら、深さは少なくとも \(d\) であり、基本不等式により等号になる。

(2) から (3) は、Cohen–Macaulay加群ではパラメータ元が各段階で随伴素イデアルを避けること、また unmixedness と prime avoidance を組み合わせて示される。局所コホモロジー条件 (4) は、深さが局所コホモロジーの最小非消滅次数であり、かつ Grothendieck 非消滅定理により \(H^d_{\mathfrak m}(M)\neq0\) であることから従う。

7.1 Koszul 複体による見方

\(x_1,\dots,x_r\in R\) に対し、Koszul 複体 \(K_\bullet(x;M)\) は、\(x_i\) たちが正則列であるかをホモロジーで検出する。 \(x_1,\dots,x_r\) が \(M\)-正則列なら \[ H_i(K_\bullet(x;M))=0\quad (i>0), \qquad H_0(K_\bullet(x;M))\cong M/(x_1,\dots,x_r)M. \] よって Cohen–Macaulay性は、パラメータ系に対する Koszul ホモロジーの高次消滅としても表現できる。

7.2 unmixed 性

Cohen–Macaulay局所環 \(R\) は unmixed である。すなわち、\(\operatorname{Ass}R\) の各素イデアル \(\mathfrak p\) について \[ \dim R/\mathfrak p=\dim R \] が成り立つ。特に、Cohen–Macaulay環は埋め込み素イデアルをもたない。

逆は一般に偽
unmixed であることは Cohen–Macaulay性より弱い。成分の次元がそろっていて埋め込み素イデアルがなくても、深さが次元まで届かない例は存在する。

8. 例と非例

Cohen–Macaulay性を理解する最短経路は、豊富な例と非例を比較することである。

Interactive 2:例ラボ

例を選ぶと、次元・深さ・Cohen–Macaulay性・理由を表示する。

8.1 すべての Artin 局所環は Cohen–Macaulay

\(\dim R=0\) の Noether 局所環では、\(\operatorname{depth}R\ge0\) かつ \(\operatorname{depth}R\le\dim R=0\) なので \[ \operatorname{depth}R=0=\dim R. \] よって Artin 局所環は Cohen–Macaulay である。これは、Cohen–Macaulay性が「正則性」ではないことをよく示す。例えば \[ k[x]/(x^n)_{(x)} \] は \(n\ge2\) で非被約だが、0次元なので Cohen–Macaulay である。

8.2 正則局所環は Cohen–Macaulay

体上の多項式環の局所化 \[ k[x_1,\dots,x_n]_{(x_1,\dots,x_n)} \] や形式冪級数環 \[ k[[x_1,\dots,x_n]] \] は正則局所環であり、\(x_1,\dots,x_n\) が正則パラメータ系になるため Cohen–Macaulay である。

8.3 超曲面環は Cohen–Macaulay

\(S\) を正則局所環、\(f\in S\) を非零因子とする。このとき \[ R=S/(f) \] は完全交叉、したがって Cohen–Macaulay である。たとえば \[ k[x,y]/(xy) \] は原点で交わる 2 本の直線の座標環であり、特異かつ可約だが、\(xy\) は多項式環の非零因子なので Cohen–Macaulay である。

8.4 埋め込み素イデアルをもつ非例

\[ R=k[x,y]_{(x,y)}/(x^2,xy) \] を考える。これは \(\dim R=1\) だが、\(x\neq0\) かつ \(x\cdot x=0\)、\(y\cdot x=0\) なので、\(\mathfrak m=(x,y)\) が \(R\) の随伴素イデアルとして現れる。したがって \[ \operatorname{depth}R=0<1=\dim R \] であり、Cohen–Macaulayではない。

8.5 次元がそろわない非例

\[ R=k[x,y,z]/(xy,xz)=k[x,y,z]/x(y,z) \] では、最小素イデアルとして \((x)\) と \((y,z)\) が現れる。対応する成分の次元はそれぞれ 2 と 1 である。局所化して閉点を見ると、成分の次元がそろっていないため Cohen–Macaulay ではない。

8.6 行列式環

\(X=(x_{ij})\) を \(m\times n\) の不定元行列とし、\(I_t(X)\) を \(t\times t\) 小行列式で生成されるイデアルとする。 典型的な行列式環 \[ k[x_{ij}]/I_t(X) \] は Cohen–Macaulay である。これは Eagon–Northcott 複体や Buchsbaum–Rim 複体による自由分解で示される代表的な深い例である。

8.7 Stanley–Reisner環

単体複体 \(\Delta\) に対し、Stanley–Reisner環 \[ k[\Delta]=k[x_1,\dots,x_n]/I_\Delta \] を考える。\(k[\Delta]\) が Cohen–Macaulay であることは、Reisner の判定法により、\(\Delta\) のリンクの被約ホモロジー消滅条件で特徴づけられる。これは Cohen–Macaulay性が組合せ位相幾何と直結することを示す。

9. 構成に対する安定性

Cohen–Macaulay性は局所的な性質であり、多くの自然な構成で保たれる。

構成結論補足
局所化\(R\) が CM なら \(R_{\mathfrak p}\) も CM定義自体が局所的。
完備化\((R,\mathfrak m)\) が CM \(\Leftrightarrow\) \(\widehat R\) が CM\(\mathfrak m\)-進完備化は忠実平坦で、深さと次元を保つ。
多項式環\(R\) が CM なら \(R[x_1,\dots,x_n]\) も CM局所化して深さ・次元を比較する。
形式冪級数環\(R\) が局所 CM なら \(R[[x_1,\dots,x_n]]\) も CM変数列が正則列として追加される。
正則列で割る\(R\) が CM、\(x_1,\dots,x_r\) が正則列なら \(R/(x_1,\dots,x_r)\) は CM深さ・次元がともに \(r\) だけ減る。
平坦基底変換適切な仮定下で CM 性は保たれるファイバーの CM 性も条件に入ることが多い。

9.1 正則元で割る場合の精密な公式

\((R,\mathfrak m)\) を局所環、\(x\in\mathfrak m\) を \(M\)-正則元とする。このとき \[ \operatorname{depth}_R(M/xM)=\operatorname{depth}_R M-1. \] さらに \(x\) がパラメータ的に次元を 1 下げるなら \[ \dim_R(M/xM)=\dim_R M-1. \] よって \(M\) が Cohen–Macaulay なら \(M/xM\) も Cohen–Macaulay である。逆に、\(x\) が \(M\)-正則で \(M/xM\) が Cohen–Macaulay なら \(M\) も Cohen–Macaulay である。

証明:深さが 1 減る理由

\(x\) が \(M\)-正則であると、短完全列 \[ 0\to M\xrightarrow{\cdot x}M\to M/xM\to0 \] がある。Ext または局所コホモロジーの長完全列を使うと、\(M\) の最初の非消滅次数が \(M/xM\) のものより 1 大きいことが分かる。正則列の定義から直接見ても、\(M/xM\) 上の正則列は \(x\) を先頭に付けることで \(M\) 上の正則列になる。

10. Serre 条件 \(S_k\) と Cohen–Macaulay性

Serre 条件 \(S_k\)
Noether 環 \(R\) が \(S_k\) を満たすとは、任意の \(\mathfrak p\in\operatorname{Spec}R\) について \[ \operatorname{depth}R_{\mathfrak p}\ge \min\{k,\dim R_{\mathfrak p}\} \] が成り立つことをいう。

Cohen–Macaulay性は、すべての局所化で \[ \operatorname{depth}R_{\mathfrak p}=\dim R_{\mathfrak p} \] が成り立つことなので、任意の \(k\) に対して \(S_k\) を満たす。逆に有限次元環で十分大きな \(k\)、例えば \(k\ge\dim R\) に対して \(S_k\) を満たせば、Cohen–Macaulay性に近い条件になる。ただし環全体の局所次元の扱いには注意が必要である。

10.1 正規性との関係

Serre の正規性判定では、Noether 整閉整域に関して、正規性は概念的に \[ R_1 + S_2 \] で特徴づけられる。ここで \(R_1\) は高さ 1 の局所化が正則であること、\(S_2\) は深さ条件である。Cohen–Macaulay環は \(S_2\) を満たすため、余次元 1 で正則な Cohen–Macaulay 整域は正規性に近い性質をもつ。

注意:正規なら常に CM ではない
低次元では正規性から Cohen–Macaulay性が従う場合があるが、高次元では正規環であっても Cohen–Macaulayでない例が存在する。正規性は主に余次元 1 と \(S_2\) の条件であり、全次元で深さが最大になることまでは要求しない。

11. 局所コホモロジーによる Cohen–Macaulay性

局所コホモロジーは Cohen–Macaulay性を最も鋭く表現する道具の一つである。

消滅による特徴づけ
\((R,\mathfrak m)\) を Noether 局所環、\(M\) を有限生成加群、\(d=\dim M\) とする。 このとき \[ M\text{ is Cohen--Macaulay} \quad\Longleftrightarrow\quad H^i_{\mathfrak m}(M)=0\quad(0\le i

したがって Cohen–Macaulay加群は、局所コホモロジーが「最上次に集中する」加群である。

11.1 Čech 複体

\(\mathfrak m\) の生成元を \(x_1,\dots,x_r\) とすると、Čech 複体 \[ 0\to M\to \bigoplus_i M_{x_i}\to \bigoplus_{i

11.2 depth と最小非消滅次数

すでに述べたように \[ \operatorname{depth}M=\inf\{i\mid H^i_{\mathfrak m}(M)\neq0\}. \] したがって \(M\) が Cohen–Macaulayでないなら、\(0\le i

12. 標準加群、Gorenstein環、MCM加群

12.1 標準加群

\((R,\mathfrak m)\) を \(d\) 次元 Cohen–Macaulay局所環とする。適切な仮定、例えば \(R\) が完備または Gorenstein 環の商である場合、標準加群 \(\omega_R\) が存在する。 直観的には、\(\omega_R\) は特異空間上の「正則微分形式の層」に対応する代数的対象である。

局所双対性の形
\(S\) を \(n\) 次元 Gorenstein 局所環、\(R=S/I\)、\(M\) を有限生成 \(R\)-加群とすると、適切な双対 \((-)^\vee\) に対し \[ H^i_{\mathfrak m}(M)^\vee \cong \operatorname{Ext}^{n-i}_S(M,S) \] という形の双対性が成り立つ。Cohen–Macaulay性は左辺の低次消滅、すなわち右辺の Ext の集中性として表れる。

12.2 Gorenstein 環

Gorenstein 局所環
Cohen–Macaulay局所環 \(R\) が Gorenstein であるとは、標準加群が自由階数 1、つまり \[ \omega_R\cong R \] となること、と理解できる。別の定義では、\(R\) の入射次元が有限であることを用いる。

したがって Gorenstein は Cohen–Macaulay より強い。完全交叉環は Gorenstein であり、Gorenstein 環は Cohen–Macaulay である。

12.3 最大 Cohen–Macaulay 加群

\((R,\mathfrak m)\) が \(d\) 次元局所環のとき、有限生成加群 \(M\) が最大 Cohen–Macaulay、略して MCM であるとは \[ \operatorname{depth}_R M=d \] であることをいう。ここでは \(\dim_R M=d\) とは限らない定義流儀もあるが、有限生成で台が十分大きい場合には通常の Cohen–Macaulay加群と一致する。

超曲面環上の MCM 加群は行列因子分解と対応する。すなわち \(S/(f)\) 上の MCM 加群は、行列 \(A,B\) で \[ AB=BA=fI \] を満たすものから構成される。この理論は特異点論と表現論に深くつながる。

13. 次数付き Cohen–Macaulay 環と Hilbert 級数

\(R=\bigoplus_{n\ge0}R_n\) を体 \(k=R_0\) 上の標準次数付き代数とする。\(R\) が \(d\) 次元 Cohen–Macaulayなら、線形パラメータ系 \(\theta_1,\dots,\theta_d\) が存在し、それは正則列になる。

Hilbert 級数の形
標準次数付き Cohen–Macaulay \(k\)-代数 \(R\) の Hilbert 級数は \[ H_R(t)=\sum_{n\ge0}(\dim_k R_n)t^n =\frac{h_0+h_1t+\cdots+h_st^s}{(1-t)^d} \] と書ける。分子 \(h(t)=h_0+h_1t+\cdots+h_st^s\) を \(h\)-多項式、係数列を \(h\)-ベクトルという。

Cohen–Macaulay の場合、\(R/(\theta_1,\dots,\theta_d)\) は Artin 環であり、その Hilbert 関数が \(h\)-ベクトルを与える。重複度は \[ e(R)=h(1)=h_0+h_1+\cdots+h_s \] である。

13.1 \(a\)-不変量

Cohen–Macaulay 標準次数付き環では、標準加群 \(\omega_R\) の次数構造から \(a\)-不変量が定義される。 Hilbert 級数の分子次数を \(s\) とすると、典型的には \[ a(R)=s-d \] という関係が現れる。これは射影多様体の双対化層や Castelnuovo–Mumford regularity と関係する。

14. 代数幾何における意味

スキーム \(X\) が Cohen–Macaulay であるとは、すべての点 \(x\in X\) で局所環 \(\mathcal O_{X,x}\) が Cohen–Macaulay であることをいう。

14.1 局所環が見る幾何

点 \(x\) における局所環 \(\mathcal O_{X,x}\) の次元は、\(x\) を含む局所的な部分空間の次元を表す。深さは、点 \(x\) の近傍で関数列がどの程度零因子にならずに働くかを測る。Cohen–Macaulay性は、各点でこの深さが最大であることを要求する。

14.2 埋め込み成分の排除

Cohen–Macaulayスキームは局所的に unmixed であり、埋め込み成分をもたない。これは交叉理論で重要である。埋め込み成分があると、サイクルや重複度が直観とずれるため、交叉数の計算が不安定になる。

14.3 超平面切断

射影空間内の Cohen–Macaulayスキーム \(X\) に対し、十分一般の超平面 \(H\) は非零因子として作用する。したがって \[ X\cap H \] も Cohen–Macaulay で、次元が 1 下がる。この反復により、高次元の Cohen–Macaulay対象を 0 次元まで切り下げて Hilbert関数などを調べられる。

14.4 曲線と曲面

1次元の被約局所環では、零因子でない元が存在することが Cohen–Macaulay性と密接に関係する。多くの被約曲線特異点は Cohen–Macaulay である。一方、高次元では被約・既約・正規であっても Cohen–Macaulay性は自動的ではない。

15. 実際の計算法

具体的な商環 \[ R=S/I,\qquad S=k[x_1,\dots,x_n] \] の Cohen–Macaulay性を判定するには、次の方法が使われる。

15.1 自由分解と Auslander–Buchsbaum

\(S\) が \(n\) 次元正則環で、\(R=S/I\) の射影次元が有限なら、次数付きまたは局所的に \[ \operatorname{depth}R=n-\operatorname{pd}_S R. \] よって \[ R\text{ is CM} \quad\Longleftrightarrow\quad n-\operatorname{pd}_S R=\dim R. \] これは自由分解の長さと余次元の比較である。

商環の便利な判定
\(S\) を正則局所環または多項式環の局所化とし、\(R=S/I\) とする。 \(R\) が Cohen–Macaulayであることは、しばしば \[ \operatorname{pd}_S R=\operatorname{ht}I \] と同値に判定される。これは \[ \dim R=\dim S-\operatorname{ht}I \] と Auslander–Buchsbaum 公式から来る。

15.2 Gröbner 基底と初期イデアル

Gröbner 基底を用いて初期イデアル \(\operatorname{in}(I)\) を調べることで、Hilbert級数や次元を計算できる。さらに、\(S/\operatorname{in}(I)\) が Cohen–Macaulayであり、適切な平坦退化がある場合、\(S/I\) の Cohen–Macaulay性を示せることがある。

15.3 Macaulay2 の典型コマンド

R = QQ[x,y,z]
I = ideal(x*y, x*z)
S = R/I
dim S
depth S
isCohenMacaulay S
betti res S

上は概念説明用の例である。実際には環の局所化・次数付き設定・基礎体などの仮定を確認する。

15.4 手計算の基本手順

  1. 最小素イデアルを求め、次元と equidimensionality を確認する。
  2. 埋め込み素イデアルの有無を調べる。\(\mathfrak m\in\operatorname{Ass}R\) なら depth は 0。
  3. 正則元を探す。1つ見つかれば商で同じ問題を次元 1 低い環に帰着する。
  4. 完全交叉、行列式環、単体複体など既知の定理に乗るか確認する。
  5. 自由分解を計算し、射影次元と高さを比較する。

16. 代表定理の詳しい証明

16.1 完全交叉環は Cohen–Macaulay

定理
\((S,\mathfrak n)\) を Cohen–Macaulay局所環、\(f_1,\dots,f_c\in\mathfrak n\) を \(S\)-正則列とする。このとき \[ R=S/(f_1,\dots,f_c) \] は Cohen–Macaulayである。
証明

\(S\) が Cohen–Macaulayなので \[ \operatorname{depth}S=\dim S. \] 正則列で割ると深さは 1 ずつ下がるため \[ \operatorname{depth}R=\operatorname{depth}S-c. \] また \(f_1,\dots,f_c\) が正則列なら高さは少なくとも \(c\) であり、Krull の主イデアル定理の反復により次元は 1 ずつ下がるので \[ \dim R=\dim S-c. \] よって \[ \operatorname{depth}R=\operatorname{depth}S-c=\dim S-c=\dim R. \] したがって \(R\) は Cohen–Macaulayである。

16.2 正則局所環は Cohen–Macaulay

定理
正則局所環は Cohen–Macaulayである。
証明の一つ

正則局所環 \((R,\mathfrak m,k)\) の定義の一つは \[ \dim R=\dim_k \mathfrak m/\mathfrak m^2 \] である。このとき \(\mathfrak m\) の最小生成元 \(x_1,\dots,x_d\) は正則パラメータ系になる。すなわち \(x_1,\dots,x_d\) は \(R\)-正則列であり、\(d=\dim R\) である。したがって \(\operatorname{depth}R\ge d\)。基本不等式より \(\operatorname{depth}R\le d\) なので等号が成り立つ。

別証として、正則局所環では \(\operatorname{pd}_R k=\dim R\) であり、Auslander–Buchsbaum 公式から \[ \operatorname{depth}R=\dim R \] を得る。

16.3 任意のパラメータ系が正則列になる

定理
\((R,\mathfrak m)\) を Cohen–Macaulay局所環、\(x_1,\dots,x_d\) をパラメータ系とする。このとき \(x_1,\dots,x_d\) は \(R\)-正則列である。
証明スケッチ

\(d=\dim R=\operatorname{depth}R\) である。パラメータ元 \(x_1\) は次元を 1 下げる元である。Cohen–Macaulay環は unmixed なので、\(x_1\) は随伴素イデアルを避け、非零因子になる。すると \(R/(x_1)\) は Cohen–Macaulayかつ次元 \(d-1\) である。帰納法により、\(x_2,\dots,x_d\) は \(R/(x_1)\) 上の正則パラメータ系となる。

17. よくある誤解

誤解 1:CM なら正則

偽。\(k[x,y]/(xy)\) は Cohen–Macaulayだが原点で正則でない。

誤解 2:CM なら整域

偽。\(k[x,y]/(xy)\) は可約で零因子をもつが Cohen–Macaulay。

誤解 3:被約なら CM

偽。被約でも深さが足りない高次元例がある。

誤解 4:CM は次元だけの条件

偽。\(\dim R\) と \(\operatorname{depth}R\) の比較であり、深さは加群構造・零因子・Ext・局所コホモロジーに依存する。

18. 用語集・クイズ・チェックリスト

用語検索

小テスト

Q1. 0次元 Noether 局所環は常に Cohen–Macaulayか?
はい。\(\dim R=0\) かつ \(\operatorname{depth}R\le0\) なので \(\operatorname{depth}R=0\)。非被約でもよい。
Q2. \(k[x,y]/(xy)\) は整域ではない。Cohen–Macaulayでないと言えるか?
言えない。実際これは超曲面環なので Cohen–Macaulayである。Cohen–Macaulay性は整域性を要求しない。
Q3. 局所環 \(R\) で \(\operatorname{depth}R=\dim R-1\) なら、Cohen–Macaulay と呼べるか?
呼べない。定義は等号 \(\operatorname{depth}R=\dim R\) である。差が 1 でも Cohen–Macaulayではない。
Q4. 完全交叉環はなぜ CM か?
正則列で割ると深さと次元が同じ数だけ下がる。正則環は CM なので、正則列による商も CM になる。
判定チェックリスト
  1. 局所問題に還元する:\(R_{\mathfrak p}\) または \(R_{\mathfrak m}\) を見る。
  2. \(\dim R\) を求める。
  3. \(\operatorname{depth}R\) を求める。正則列、Ext、局所コホモロジー、自由分解を使う。
  4. \(\operatorname{depth}R=\dim R\) なら CM。
  5. 完全交叉・Gorenstein・行列式環・正規半群環・shellable 単体複体など既知クラスに属するか確認する。
  6. 非CMを疑う場合、埋め込み素イデアル、非 equidimensional、低次局所コホモロジー非消滅を探す。

19. 発展的話題

19.1 Buchsbaum 環と generalized Cohen–Macaulay 環

Cohen–Macaulay性を弱めた概念として、generalized Cohen–Macaulay環や Buchsbaum環がある。これらは低次局所コホモロジーが完全には消えないが有限長である、あるいはパラメータ系に対する差異が制御される、という条件で定義される。

19.2 sequentially Cohen–Macaulay

加群 \(M\) が sequentially Cohen–Macaulay であるとは、次元が増加するフィルトレーション \[ 0=M_0\subset M_1\subset\cdots\subset M_r=M \] が存在し、各商 \(M_i/M_{i-1}\) が Cohen–Macaulay で、かつ次元が厳密に増加することをいう。組合せ可換環論で重要で、単体複体の shellability と関係する。

19.3 特異点論との接点

正標数では F-rational、F-regular などの特異点はしばしば Cohen–Macaulay性を含意する。標数 0 では rational singularities、Du Bois singularities などと Cohen–Macaulay性の関係が研究される。Cohen–Macaulay性は特異点の「深さ方向の良さ」を測る基礎条件として現れる。

20. Cohen–Macaulayイデアル、perfect ideal、商環の見方

多くの具体例では、Cohen–Macaulay環そのものよりも、まず正則環や多項式環 \(S\) のイデアル \(I\) を与え、 \[ R=S/I \] が Cohen–Macaulayかを問う。このとき \(I\) を Cohen–Macaulayイデアルと呼ぶことがある。これは厳密には「商 \(S/I\) が Cohen–Macaulayである」という意味である。

20.1 高さ、余次元、grade

局所環 \(S\) のイデアル \(I\) に対し、 \[ \operatorname{ht}I=\inf\{\operatorname{ht}\mathfrak p\mid \mathfrak p\supset I,\ \mathfrak p\in\operatorname{Spec}S\} \] を高さという。幾何的には \(V(I)\) の余次元である。grade は \[ \operatorname{grade}(I,S)=\inf\{i\mid \operatorname{Ext}^i_S(S/I,S)\neq0\} \] であり、\(I\) 内に入る \(S\)-正則列の最大長でもある。

CM環における grade と height
\(S\) が Cohen–Macaulay 局所環なら、任意の proper ideal \(I\subset S\) について \[ \operatorname{grade}(I,S)=\operatorname{ht}I \] が成り立つ。これは Cohen–Macaulay性が「すべての局所化で深さが次元に等しい」ことの反映である。

20.2 perfect ideal

perfect module / perfect ideal
有限生成 \(S\)-加群 \(M\) が perfect であるとは \[ \operatorname{pd}_S M=\operatorname{grade}(\operatorname{Ann}M,S) \] となることをいう。イデアル \(I\) が perfect であるとは、\(S/I\) が perfect \(S\)-加群であることをいう。

\(S\) が正則局所環なら、有限生成加群の射影次元は有限であり、Auslander–Buchsbaum 公式が強力に働く。 この状況で \(R=S/I\) が Cohen–Macaulayであることは、しばしば自由分解の長さが余次元に等しいこと、 \[ \operatorname{pd}_S(S/I)=\operatorname{ht}I \] として判定される。これは計算機代数で特に重要である。

なぜ自由分解の長さで判定できるのか

\(S\) を \(n\) 次元正則局所環、\(R=S/I\) とする。Auslander–Buchsbaum 公式より \[ \operatorname{depth}R=n-\operatorname{pd}_S R. \] 一方、\(R\) の次元は \[ \dim R=n-\operatorname{ht}I \] と期待される。したがって \[ \operatorname{depth}R=\dim R \] は \[ n-\operatorname{pd}_S R=n-\operatorname{ht}I \] すなわち \[ \operatorname{pd}_S R=\operatorname{ht}I \] という形になる。

21. Hilbert–Samuel重複度とパラメータイデアル

Cohen–Macaulay局所環では、重複度の理論も非常に単純になる。これは、パラメータ系が正則列であり、Koszulホモロジーの高次部分が消えるためである。

Hilbert–Samuel関数
\((R,\mathfrak m)\) を局所環、\(M\) を \(d\) 次元有限生成加群、\(I\) を \(\mathfrak m\)-primary ideal とする。 十分大きい \(n\) について \[ \ell_R(M/I^{n+1}M) \] は \(n\) の次数 \(d\) の多項式に一致する。この最高次係数から定まる数を重複度 \(e(I,M)\) という。
CM加群におけるパラメータイデアルの重複度
\(M\) が \(d\) 次元 Cohen–Macaulay 加群で、\(Q=(x_1,\dots,x_d)\) がパラメータイデアルなら \[ e(Q,M)=\ell_R(M/QM) \] が成り立つ。

一般には \(\ell_R(M/QM)\) と \(e(Q,M)\) の差は、Koszulホモロジーや局所コホモロジーにより測られる。Cohen–Macaulay性は、この差を消して「長さ = 重複度」という最も単純な状況を作る。

21.1 直観

パラメータ系 \(x_1,\dots,x_d\) は \(d\) 次元の対象を 0 次元に切る。Cohen–Macaulayならこの切断は正則であり、余分な torsion や埋め込み成分を作らない。そのため、最後に残った 0 次元部分の長さがそのまま重複度になる。

22. Miracle flatness:Cohen–Macaulay性と平坦性

Cohen–Macaulay性は平坦性の判定にも現れる。幾何的には、族 \(X\to S\) が平坦であるとは、ファイバーが連続的に変化し、突然次元や重複度が跳ばないことを意味する。

Miracle flatness の典型形
\(A\to B\) を局所準同型とし、\(A\) が正則局所環、\(B\) が有限型の局所 \(A\)-代数で Cohen–Macaulay とする。 適切な有限性仮定の下で、次元公式 \[ \dim B=\dim A+\dim(B/\mathfrak m_A B) \] が成り立つなら、\(B\) は \(A\)-flat である。

名前の通り、これは「平坦性を直接チェックせず、Cohen–Macaulay性と次元計算から平坦性が出る」という驚くべき現象である。代数幾何では、射影族や変形族の平坦性を示す際に非常に有用である。

注意
Miracle flatness には複数の定式化があり、有限生成性、局所性、基底が正則であること、ファイバー次元の条件などが文脈に応じて変わる。実際に使うときは、適用する定理の仮定を正確に確認する必要がある。

23. Stanley–Reisner環の精密な判定

Cohen–Macaulay性が組合せ論と結びつく代表例が Stanley–Reisner環である。 有限単体複体 \(\Delta\) の非面に対応する squarefree monomial ideal を \(I_\Delta\) とし、 \[ k[\Delta]=k[x_1,\dots,x_n]/I_\Delta \] と置く。

Reisner の判定法
\[ k[\Delta]\text{ is Cohen--Macaulay over }k \] であることは、任意の面 \(F\in\Delta\) に対して、リンク \[ \operatorname{lk}_\Delta(F)=\{G\in\Delta\mid G\cap F=\varnothing,\ G\cup F\in\Delta\} \] の被約ホモロジーが \[ \widetilde H_i(\operatorname{lk}_\Delta(F);k)=0 \qquad (i<\dim \operatorname{lk}_\Delta(F)) \] を満たすことと同値である。

この判定は体 \(k\) に依存することがある。つまり、同じ単体複体でも、標数によって Cohen–Macaulay性が変わり得る。

23.1 shellable 複体

shellable な純単体複体は Cohen–Macaulayである。したがって、shellability は Stanley–Reisner環の Cohen–Macaulay性を示すための強力な組合せ的十分条件である。

24. 証明でよく使うパターン

24.1 正則元を 1 つ見つけて帰納する

Cohen–Macaulay性の証明では、次元に関する帰納法が非常に多い。基本手順は次である。

  1. \(\operatorname{Ass}M\) を調べ、\(\mathfrak m\) が随伴素でないことを確認する。
  2. prime avoidance により、\(\mathfrak m\) 内で随伴素イデアルを避ける元 \(x\) を選ぶ。
  3. \(x\) は \(M\)-正則である。
  4. \(M/xM\) に帰着し、次元を 1 下げる。

24.2 パラメータ系を選ぶ

無限体上の標準次数付き環では、一般の線形形式を選ぶことで線形パラメータ系を得やすい。Cohen–Macaulayなら、それらは正則列になる。有限体の場合は体の拡大を行う、またはより慎重に元を選ぶ。

24.3 非 Cohen–Macaulay性を示す典型手段

depth 0 を示す

\(\mathfrak m\in\operatorname{Ass}R\) を示す。つまり、\(\mathfrak m\) に殺される非零元を作る。

非 equidimensional

最小素イデアルの成分次元が異なることを示す。局所CM環は unmixed なので、この時点で非CM。

局所コホモロジー

\(H^i_{\mathfrak m}(M)\neq0\) for \(i<\dim M\) を示す。

自由分解

正則環上で \(\operatorname{pd}_S(S/I)>\operatorname{ht}I\) を示す。

25. 参考文献・次に読むもの

さらに厳密な証明、豊富な例、演習を学ぶには次が標準的である。

  • W. Bruns and J. Herzog, Cohen-Macaulay Rings.
  • H. Matsumura, Commutative Ring Theory.
  • D. Eisenbud, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry.
  • R. Stanley, Combinatorics and Commutative Algebra.
  • R. Hartshorne, Algebraic Geometry および Local Cohomology.
最短復習
Cohen–Macaulay環とは、局所的に \[ \operatorname{depth}R=\dim R \] を満たす Noether 環である。これは「パラメータ系が正則列」「低次局所コホモロジーが消える」「完全交叉や Gorenstein より弱いが非常に安定」という多面的な条件である。
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